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吟遊詞人7周年記念小説「ジョングルールの七不思議」

第4話 diplomacy/Written By 冴戒椎也
「ねえ、ちょっと烈馬…本当にこの宝探しに参加するの?」
烈馬にあてがわれた(厳密には七梨という人物にだが)部屋の中で、千尋が不安そうに言う。
「まぁ…流れ上仕方ないやろ」
「嘘ばっか。ホントは暗号に興味があったんでしょ。或いは、お金に目が眩んだとか」
「人聞き悪いこと言うな…ん?」
「え、どうしたの烈馬?」
「いや、なんかピアノかなんかの音が…」
二人は耳を欹てる。そして、どこか遠くからピアノの音色が彼らの耳に届く。
「これは…ちょっと下手だけど、ベートーヴェンね。交響曲第7番の…」
しかし、すぐにその音は途切れてしまった。暗い場所に残される二人。
「うわ、気味悪い…何やったんや、今の…?」
「さあ…もしかしたらさっきのうちの誰かが弾いてたのかなぁ」
「…ま、とりあえず、連絡でもはとっとくかな」
烈馬はポケットから携帯電話を取り出した。

「えっ?!お城の宝探しに巻き込まれたあ?!」
キャンプ場で知之は携帯電話越しに大きな声を上げる。
「ああ…なんかなりゆきでな…」
「そんな、てっきり道に迷ってるだけかと思ってたっス…」
「いや、道に迷った挙句がこれなんやけどな。しかも見も知らぬ奴と間違えられてしもてるみたいやし…」
「それじゃあ、いつ頃戻ってこれるか分かんないんっスか?」
「ああ…下手すると今晩はここで明かすことになるかも知れへんわ」
「…ホントに何やってんっスか」
「ま、何かあったらまた連絡するよって、心配せんで待っといてな。ほな」
「えっ、ちょ、ちょっと矢吹君っ?!」
知之の携帯電話からは、ツーツーという音しかしなくなった。
「ん?矢吹のやつ、何かに巻き込まれたのさ?」
バーベキューを頬張りながら時哉が尋ねる。
「うん…なんか、宝探しに…」
「…は?」

「ふーん…そんじゃすず菜ちゃんは大学生なんだ」
食堂での昼食。烈馬たちを含めた6人が大きなテーブルを囲んでいる。
「あ、はい…文月さんは何をなさっているんですか?」
この場に居る千尋以外のもう一人の女性、芹沢 すず菜が、正面に居る眼鏡の男、文月 仁に語りかける。
「ん?ああ、俺は医者だよ。外科医やってんだ。君らは?見たところ、中学生か高校生くらいだと思うけど」
「え、あ、ああ…まあ、そんなとこです」
文月の問いに、何となくごまかす烈馬。七梨という人物の素性も分からないのに、下手な発言は出来ない。
「明木さんは雑誌の編集者でしたっけ。どんな雑誌ですか?」
文月は今度は中年の男、明木 鐵夫に振る。
「ああ…主に短歌を取り扱っているが…」
とその時、漆原が厨房から料理を運んできた。
「こちらは、大根のサラダ・ベーコンとキノコのソースがけでございます」
「わー、おいしそー」
千尋は目の前の料理に目を輝かせる。
「んー…ダイコンですカー…」
「ん?何だ、あんた大根ダメなのか?」
苦い表情のドイツ人男性、カノープス・ズィーベンに、隣に座っていた明木が訊ねる。
「そうデス…私、最近ドイツから日本に来たんデスケド、日本のダイコンはあまり口に合いマセン…よかったら、ワタシのぶんもドーゾ」
カノープスは明木にサラダの乗った皿を差し出す。
「なら、遠慮なくいただくとするか」
明木はその皿を受け取り口に運び出した。
「ん?漆原さんは食べないのかい?」
文月が、食堂の隅で立ったままの漆原に話し掛ける。
「ええ…あくまで私はあなた方をもてなす側ですから。ごゆっくりお召し上がりください」

「それでは、食事も済んだところで、そろそろ最初の暗号を発表致しましょう」
午後2時。漆原の手には、1枚の封筒があった。
「ソレが発表されタラ、ゲームスタートということデスネー」
「はい。もしすぐに答えが分かった方がいらっしゃいましたら、すぐにでもこの部屋から出て行ってもらって構いません。ちなみに私も今ここで初めて封筒を開けますので、どんな暗号が入っているかは存じ上げません。私にヒント等を求めても徒労ですのであしからず」
そういうと漆原は、ペーパーナイフで封筒の封を切った。
そして、中の紙を取り出すと、6人に見えるように広げた。

「85.7%の色を掲げた部屋で、7人の子供の歌を聴け。そうすれば次の道は開かれるだろう。

『7』より」


「…な、何、コレ…?」
千尋は、きょとんとした目で暗号を見つめていた。
「それでは、ゲームスタートです」
漆原が高らかと宣言した。

他の4人はそれぞれ別行動をとり始め、漆原も“待機しておりますので”と客間に行ってしまったため、烈馬と千尋は2人で食堂に残っていた。
「ねえ烈馬、暗号解けたー?」
千尋はぐでーとした表情で、携帯電話をいじっていた。
「…“色を掲げた部屋”は、幾つかあんねん」
「え?」
千尋は烈馬の方を見た。烈馬は、城の見取り図を見ている。
「ほら見てみ。城の3階と4階に“赤の間”、“青の間”、“黄色の間”、“緑の間”、“紫の間”、“黒の間”、“白の間”、“藍色の間”、“桃色の間”、“金色の間”と、色の名前がついた部屋が10個あるんや。たぶんこの中のどれかやと思うんやけど、それがどれかが分からんねや…」
「お宝がありそうなのは“金色の間”とかだけどねー…でも85.7%の確率で当たるんなら、行き当たりばったりでもいけるんじゃない?」
「85.7%、か…待てよ?」
「え?」
烈馬は、ふと手帳に幾つか筆算をし始めた。
「…そうか、そういうことやったんか」
「え、分かったの、烈馬?」
「ああ…85.7%っちゅうんは、大体7分の6と同じ値や。“7分の”と“色”から連想されるもんは何や?」
「7つの、色…?あっ、虹?!」
「そうや。んで、“赤・橙・黄・緑・青・藍・紫”の虹の7色の中で6番目にあたるんは、上から数えた時の藍色と、下から数えた時の橙色。橙色は部屋の名前にあれへんから、この暗号にあてはまるんは“藍色の間”だけっちゅうことや」
「すごい烈馬!じゃあ、早速その“藍色の間”に行ってみましょ!」
2人は食堂から少し速歩きで出て行った。その姿を、漆原は物陰から見つめていた。

2人は4階にある“藍色の間”にたどり着いた。名前どおり、壁紙も棚もCDプレーヤーも藍色一色で統一されている。
「うわ、何か不気味な部屋だねー…」
「ああ、他の連中はまだ来てへんのかな…ん?棚に色々CDも入ってるで」
烈馬は、棚に置かれたCDに手を伸ばす。GLAY、SPEED、THE BEATLES、The Idea of Northなど、ジャンルは様々だが、どのアーティストのCDも1枚ずつしか置かれていない。
「ねえ、確か“7人の子供の歌を聴け”だったよね?じゃあその中に、たとえば7人組のCDとかあったりするんじゃない?」
「いや…どうやらこの棚にあるのは全部4人組みたいや。足しても引いても7人にはどうしたってでけへんわ」
「そっかー…あっ、じゃあこれじゃない?Mr.Children」
「…“子供”=チルドレン、やないやろな?それやったら7人は関係ないやろ」
「ちぇっ、せっかくわたしも考えてるのにー…あ、じゃあさじゃあさ、あれ無いかな、“七つの子”」
「…え?」
烈馬は、千尋の言葉に手を止めた。
「え、じゃなくって。あの童謡の“七つの子”だよ。“七人の子供の歌”っぽくない?」
「…そうか。でかしたで、千尋」
「えっ?」
「“七人の子供の歌”は“七つの子”。“七つの子”に出てくる鳥は“カラス”。“カラス”が名につく4人組は…これしか居てへんわ」
「それって…GARNET CROW?そっか、カラスって英語でCROWだっけ」
「ああ。んで、此処にあるものを考えると…このCDプレーヤーにCDを入れてみたら、何かあるんちゃうか?」
烈馬はそう言うと、CDプレーヤーにGARNET CROWのCDを挿入し再生した。すると次の瞬間、壁の一部がガタンと音がして開いた。
「っしゃ、当たりや!」
「それじゃあ、早速次に…」
と、その時だった。


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