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鳴神(なるかみ)


其是は丸で 水を張つた 皿に水を 落とすやうで、
何重もの 波紋が只 僕の中に 擴がつてゐく。
其是は軈て 此の兩目に 血の臭ひの痛み与へ、
白き眩暈 Kき涕 僕はたつた今、毀れた。

未だ貴方を 好く知らなかつたのに、
貴方はまう 何邊かへ 消滅した。
僕は 拾字架を 棄てた。

其の口から 頂戴した 仟の言葉 思ひ返し、
貴方が昔 伝へやうと してゐた事を 考へても、
其のお頭(つむ)は 賢過ぎて 莫迦な僕に 理解し得る
範囲なんぞ 優に越へて 僕には永劫、知れない。

白く細ひ 其の指はまう貳度と、
此の頬つぺを 撫でる事は無ひでせう。

ねえ如何して 貴方は潰え去つて、
僕を獨り 取り残したのですか?

貴方の其の 賢明な考へは、
僕の生きる上で 必要だつたのに。

僕は 聖書を 破つた。

何も信じなくなつた。      …あ、然うか。

此是で屹度 好いのでせう?

貴方が最期に呉れた 「答へ」
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