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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

2ひき目☆新たな日常の展開。
「…んーっ、よく寝たー…っ」
陽射しをたっぷり浴びている床に敷かれた蒲団の上で、上半身を起こしたまま欠伸(あくび)をする美菜緒。
「…ってあれ、うちってベッドだったような…それに窓は西向き…」
美菜緒は寝ぼけ眼(まなこ)を手でこすりながら、殺風景な部屋をきょろきょろと見廻す。
「あ、そっか、私…」

「よぉーっし、ご飯炊けたー♪」
とか、
「ん、お魚もいい感じに焼けてるわね」
とか、
「わ、なんで此処の冷蔵庫には牛乳(1リットルの紙パック)が3本もあるのよ…」
とか、
「よーじって納豆好きなのかなぁ?」
とか、
彼氏の家で朝っぱらからエプロンをつけてやっていると、まるで自分はよーじの彼女を通り越して新妻(にいづま)にでもなったような気分だわ、などと、美菜緒は思った。同時に、なんて自分にはカワイイ部分(とこ)があるんだろう、とも我ながら思った。
「よしっ、それじゃそろそろよーじ起こすかしらね」

「えーっと、よーじの部屋は確か此処だったよね」
エプロンをつけたままの美菜緒は、一番玄関寄りの部屋の前で立ち止まる。
「…それこそ新妻っぽく、キスで起こしちゃったりしちゃおうかしら」
美菜緒はふっと呟(つぶや)いてみて、自分で顔を真っ赤にした。
「な、な、何言ってんのよ私はっ//と、とにかく今はよーじを…」
ドアを開ける美菜緒。
「起こさ…」
美菜緒は瞬間、自分の目を疑った。
「な…」
目の前の蒲団の上には、かけ蒲団代わりのタオルケットを足に絡ませたまま静かな寝息を立てるよーじが居た。そして、そのよーじに抱きすくめられるようなポジションで横たわり目を閉じているのは、下着を含め一切の衣類をまとっていない鉄の姿だった。
「きゃああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

「…で、なんで俺がこんなボコにされにゃならんワケ…?」
ソファーの上でふてくされて胡坐(あぐら)をかく鉄の顔には、アザやバンソウコウがかなりの数存在していた。その隣では後ろ髪を縛ったよーじが、鉄の顔をまじまじと眺めて「だいじょーぶ?」と心配そうにしている。
「そりゃあんたねぇ、自分の彼氏の寝室に、もう一人男がマッパで寝てたら、ぶん殴りたくもなるわよっ」
美菜緒は鉄の方を振り返らず、台所で味噌を溶きながら言う。
「ごめんねぇみなおー…ほら、犬バージョンのてっちゃんって毛がふさふさで、抱いて寝ると気持ちいーの☆んで、陽がのぼると、オレの耳やしっぽが引っ込むのと同時にてっちゃんも人間の姿に戻るの、もちろん犬バージョンで服なんか着てないから素っ裸でさー…」
「…分かってるわよっ」
美菜緒はやっぱりソファーの方を見ない。
「ねぇみなお、怒ってる…?」
不安げなよーじの声に、美菜緒は振り向いた。よーじがてとてとと台所近くまで歩いてきていた。表情は、やっぱり不安げだった。
「ごめん、オレ、みなおがそんな怒っちゃうなんて思わなかったから…;」
今にも泣き出しそうな顔。本当にこの子は15歳なのだろうか、と美菜緒は心の中で一瞬疑った。
「…ううん、そんなことないよ」
美菜緒は笑って、よーじの頭をぽんと撫でた。
「私こそ、困らせちゃってごめんね。さ、朝ごはん食べよっ」
「うんっ☆」
よーじの顔に一気ににぱぁと笑顔が溢れた。それを見て、美菜緒も笑顔になった。
「…あのー、俺放ったらかしなんすけど;」

食卓の上にはご飯に味噌汁、目玉焼きに焼鮭、サラダに納豆、牛乳にイチゴと、二人分の朝食が所狭しと並べられていた。
「わーっ☆オレんちにこんな超豪華な朝ごはん出てくるなんて奇跡的―っ☆」
よーじは今にも椅子の上で飛び跳ねそうな勢いで喜んでいる。しっぽが生えてたらぶんぶん振り回しているのだろう、などと美菜緒は思った。
「しかもオレの大好物のおさかなと牛乳をちゃんと置いてるあたり、さっすがみなおだねっ☆」
「そう?ありがとv」
内心「うわっ、ネコっぽいっ」と美菜緒も思ったですとも、ええ。
「あ、ちなみに納豆はオレよりかはてっちゃんの好みなの(笑)」
「…あ、そう…まぁいいわ、さ、たーんと食べてね♪」
「うんっ、んじゃいっただっきまーっすっ☆」
早速焼鮭とご飯に飛びつくよーじ。鉄も早速納豆をかき回し始める。
「んっ、ほへはほひひーはほーっ☆」(訳:これはおいしーなのー)
「…口ん中入れたまんま話すな、みっともねぇ」
納豆をがっつきながら言う鉄。よーじはごっくんと飲み込んで言う。
「なにさー、てっちゃんも他人(ヒト)のコト言えないじゃんよー」
「…あ、よーじ」
「ん?なぁに、みなお?」
よーじは、自分の顔をじっと見つめる美菜緒にちょっと驚いた。
「ほっぺに、ご飯粒ついてるわよ」
「ふぇ?こ、こっち??」
よーじは右頬を手で撫でる。
「違う違う、左左」
左頬をあちこち撫で廻してようやくご飯粒を摘まんだよーじの姿を、美菜緒は微笑ましく見つめていた。が、その幸せな時間は鉄の声で遮られた。
「…あ、そー言えば美菜緒先輩」
「…何よ」
邪魔すんなと言わんばかりの美菜緒の視線にたじろぐ鉄。
「…あ、いや、その…美菜緒先輩は朝メシ食わねぇのかなって思って…」
「え…?」
一瞬、場の空気が止まった。

「…オレの目玉焼きあげよーか?みなお?」
「…いい」
豪華な朝食を摂るよーじと鉄の対面(といめん)で、美菜緒は黙々とたまごかけご飯を口に掻き込んでいた(ご飯はよーじ達のおかわりを想定して多めに炊いていた)。
「私が勝手に自分の分の朝ごはん作るの忘れてただけだもんっ」
「…今日は美菜緒先輩、怒ったり笑ったりで大忙しだな…」
鉄の呟きは、美菜緒の睨(にら)みによって掻き消された。

「あ、よーじ、洗濯機が止まったら中身出してこっちに持ってきてくれるー?」
ベランダでシーツを干す美菜緒は、開けた窓越しに自室に居るよーじに呼びかける。
「うんっ、りょーかーいっ☆」
美菜緒が洗濯をしている間、よーじと鉄はよーじの部屋の片付けに追われているのだった。
「…それにしても、男の子の一人暮らしにしちゃ、えらく広いベランダよねぇ…」
アパートというよりはマンションという表現が適切と思しき建物の3階、しかも南向きのベランダにはシーツを3枚干してもまだ十二分に余裕がある。
「っていうかそもそも、この部屋自体が広すぎる気がするんだけど…ざっと3LDKってトコよね…?家賃幾らなのかしら」
美菜緒の手はタオルケットにかかっていた。
「そう言えば昨日の買い物だって、気がついたらよーじが全額出してたのよねぇ…もしかして、よーじン家ってお金持ち?…ん?」
ふと美菜緒は、眼下のT字路を見た。2、3人の往来があるだけだった。
「…おかしいわね、今確かに誰かに見られてたような気がしたんだけど…気の所為(せい)かしら」
美菜緒は再び洗濯物に手を伸ばした。
「あー、お昼ご飯どうしようかなー…」

電柱の裏に、二つの目が煌(きら)めいた。
「あの女…」

「よかったーっ☆ゴミ収集の車、まだ来てないみたいっ」
マンションのゴミ収集所に、大きなゴミ袋を両手に抱えた3人の男女がやって来た。
「ったく、何をどーやったら燃えるゴミが1家庭(しかも一人暮らし)で6袋も出てくるのよ…引越しでもしてるみたいだわ」
どさ、と袋を置きながら言う美菜緒。
「そして何で俺が生ゴミ担当なんだ?くっせー…」
鉄は自分の服の匂いをちょっと嗅ぎ、すぐまた顔をしかめた。
「うーん…ヨゴレ役だからぁ?」
きょとんとした顔で言うよーじ。
「…お前、そーゆーコトをさらっと言うな;」
「さてとっ。掃除も洗濯も一通り済んだから、お昼ご飯でも食べよっか」
「そして美菜緒先輩もさらっと流すんすね:」
「よーじは何か食べたいモノある?」
「うーん、どーしよっかなぁー…」
ゴミ収集所から離れてマンション内に戻ろうとしながら言うよーじ。
「あ、俺は」
「犬養には聞いてない」
「うわ…さっきから非道(ひど)いすよ、美菜緒先輩…;」

その時、3人の行く手に1人の少女が両手を広げて立ちふさがった。
「待って」
「…え?」
きょとんとする美菜緒。後ろではよーじが目を見開き、鉄が呆れ顔をしていた。
「えっと…あなた、誰…?」
「…聞いて驚かないでよ、ゆんは、よーじお兄ちゃんの婚約者(フィアンセ)なんだからっ!!」
「…は?」
先刻(さっき)よりも一層きょとーんとする美菜緒の背後で、鉄が「あーあ、言っちゃった」と呟いた。
「じょ、冗談、よね…?だって年齢(とし)も離れてるし…」
「愛があれば歳の差なんて関係ないのっ!!」
「…古い表現だなぁおい」
ひたすらツッコミに徹する鉄をよそに、美菜緒は困惑気味の表情を見せる。
「…ホント?よーじ…」
美菜緒はよーじの方を淋しそうに向いた。
「…なんかワケ分かんなくなっちゃってるから、整理して説明するね;」
ため息混じりに言うよーじ。
「この子は、音桐 祐姫(ゆうき)。オレのいとこで、12歳なの。本人とかは“ゆん”って呼んでるケドね。…で、婚約者云々(うんぬん)ってのはゆんが勝手に言ってるだけで、こうやってしょっちゅうアプローチに…」
「そんなコトないよっ!!よーじお兄ちゃん言ったじゃない、ゆんのコト、ずっとずぅっと護(まも)ってくれるって」
「…ホント?」
美菜緒はよーじの方を少し睨む。
「…しょーじき、オレはあんま覚えてないんだケド…」
今度はよーじが困惑気味の表情を見せる。
「とにかくっ、ゆんはよーじお兄ちゃんと結婚することに決めたのっ!…で、よーじお兄ちゃん、そこの女、何?」
「…へ?」
よーじと美菜緒の声がハモる。
「何って…オレの彼女のみなおだけど…?」
次の瞬間、ゆんの心の中に稲妻が堕ちた。
「そっ、そんなっ…!!よーじお兄ちゃん、ゆんというものがありながら、そんな女と…;」
コンクリートの道路にへたり込むゆん。さながら暗い舞台でピンスポでも当てられているようだ。
「…何処の昼ドラで覚えたんだ、そんなの」
ぼそりと鉄がツッコむ。
「…あんた、“美菜緒”だったっけ?よーじお兄ちゃんをたぶらかしてゆんからよーじお兄ちゃんを掠(かす)め奪(と)るなんて、許せないっ!!」
「…あのー、もしもし…?たぶらかすって…」
一応呼びかけてみる美菜緒。
「こうなったら、ゆんとあんたと、どっちがよーじお兄ちゃんの恋人として相応しいか、勝負よっ!!」
「…はいぃ?」
呆れ顔で佇(たたず)む美菜緒達をよそに、ゆんは一人瞳の中に炎を滾(たぎ)らせていた。
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あとがき
はい、恋ネコ第2話です。
実は、この次の第3話に書く予定の内容とあわせて第2話、とするつもりだったんですけど、冒頭の新婚生活っぷり(違)を描いてたらどんどん膨らんでいってしまい、このまま書き進めると第1話よりも長くなってしまうと思ったので(かといって短くしようとすると面白味が減りそうなので)、思い切って分割することにしました(爆)。
まぁ、第3話で初登場予定だったゆんのお父さんは何とか第3話中に出す目処は立ちましたので(ぉ
てか、特にゆんのあたりを書いてると、「ああ、自分はラブコメ書いてるなぁ」って気がしんみりとしました。(何
ちなみに、ギリギリまでゆんをネコ語(語尾に「にゃ」が常につく)にしようかどうしようか考えたんですが、自分がもたなくなりそうなので標準語にしたとかいうエピソードがあります(爆)。

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