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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

4ひき目☆人は見かけに…
「あー、つっかれたーっ!!」
学校からの帰り道。住宅街の中を歩いていくよーじと美菜緒。
「なんかさー、今日やなぎ部長ってばいつもに増してキビシくなかったぁ?」
「んー、まぁもうすぐ夏休みだし、色々忙しいのかもね」
「あー、そっかぁー、もーすぐ夏休みなんだぁー…ふぁ」
突然足を止めるよーじ。美菜緒もワンテンポ遅れて歩みを止める。
「え?どしたの?よーじ」
「ネコだ…」
「えっ?」
きょとんとしている美菜緒を尻目に、よーじは道の脇、電柱の下(もと)へ駆けていく。ついて行った美菜緒が見たのは、目を閉じぐったりと倒れこんでいる1匹のネコだった。
「えっと、その子よーじの知り合いとか…?」
冷静に考えればちょっとヘンなセリフだが、ネコの姿に少し動揺している美菜緒はそれに気づかない。
「ううん、でも…」
よーじは屈(かが)んでネコを抱え上げる。
「車にひかれかけたんだ、ちょっとケガしてるみたいなのぉ」
「分かるの?」
「うん、何となくだけど、ネコのコトは分かるんだ」
あーなるほどね、と美菜緒は思ったが心にとどめておいた。
「でも、その子どうするの?ウチに持って帰って飼うってワケにもいかないし…」
「だいじょーぶっ☆」
「え…?」
振り向きざまににかっと笑うよーじに、美菜緒は戸惑った。
「こーゆー時にうってつけのトコがあるんだっ☆」

「“音桐動物病院”…?」
少し歩いてたどり着いた、平屋建ての建物の看板に書かれた文字を見て、驚く美菜緒。
「此処って、もしかして…」
「んっとね、オレのおじさんがここで獣医さんやってるんだっ。オレもここ来んのは久しぶりだなー」
そう言いながら、どんどん病院の中に入っていくよーじ。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよっ…」

「いらっしゃいませ…あっ、よーじ君!」
受付に居た女性は、よーじの姿を認めるとすぐに微笑んでロビーに出てきた。黒髪のポニーテールと眼鏡が印象的だ。
「ふぁ、あづささんだぁ、こんにちはぁー☆」
よーじもその女性を見ると笑顔で挨拶をする。
「あ、みなお、紹介するねぇ。このヒトは、ここでおじさんのお手伝いとかやってる影山 あづささんっ☆」
「あ、影山ですー、よろしくお願いします」
眼鏡の女性は人のよさそうな笑顔で美菜緒の方を向く。
「あ、いえいえ、こちらこそ…」
「ちなみによーじ君、この大きなお友達はどなたなんですかー?」
「んっとね、宮崎 美菜緒ってゆって、オレの彼女なんだっ☆」
「あーそうなんですかぁー。ところで、よーじ君は学校終わったところですか?」
「うんっ、そーだよぉ☆」
「ちゃんと勉強もしなきゃだめですよー?算数とか社会とか…」
「んー、でもオレべんきょー嫌いだしぃー…」
そんなやり取りを傍で聞いていた美菜緒は確信した。
このあづさって人、よーじのコトを絶対小学生だと思ってる!!学生服着てるのにっ。多分私が彼女だっていう話も本気にしてないくさい。そしてよーじもよーじでそれに気にしてないっていうか気づいてないし。
…と、とりあえず本題に入ろうか…ひとつ咳払いをしてから口を開く。
「…あ、あの、あづささん…?」
「あ、はい、何ですか?」
「えっと、私たち、この子連れてきたんですけど…」
美菜緒はよーじが抱えている仔猫を指差して言う。
「あっ、そうなんですか?気づかなかったですー」
いや、入ってきた時から抱えてたってば。とは美菜緒は言わなかった。
「それじゃ私、先生呼んできますね。ちょっと待っててください」
「はーいっ☆」
元気よく挙手するよーじを見やると、あづさは奥の方に駆けて行った。

そう言えば、よーじのおじさんというのはどういう人なんだろう?美菜緒は想像をめぐらせた。
獣医なんかやってるってことは或る程度の年齢の人…とは限らないか。
“おじさん”って言うのは親のきょうだいのことだから年齢も関係ないし。
いや、むしろよーじのこともあるし、実はものすごく若く見えるんじゃ…?
しかもよーじに似てかわいい顔をしていたりするんじゃ…?
それでもしガタイとか良かったりなんかして(←プロレスマニア)、「お嬢さん、一緒にお茶でも」なんて誘われちゃったりなんかしちゃったら…きゃっ//

「ふぁ、おじさーんっ☆」
顔を真っ赤にした美菜緒の妄想は、よーじの声によって掻き消された。
「えっ?!」
つ、ついにそのおじさんにお会いでき…と胸を膨らませた美菜緒は、目を疑った。
「…ったく、またネコ連れてきやがって…ウチは慈善事業やってんじゃねえんだぜ?」
頭をボリボリやりながら現れたのは、とても美菜緒の妄想とは異なるような30代半ばほどの男だった。
な、な、何あの無精ヒゲっ。頭とかぼさぼさだし白髪混じってるし、白衣はよれよれだし、おまけに医者のクセにタバコ吸ってるし…
思わずorzな体制をとる美菜緒だった。
「…ん?なんだ、その女?」
「オレの彼女のみなおだよー…って、どーしたのみなおぉ?!からだでも悪いなのぉ?」
心配そうに覗き込むよーじ。
「…ううん、なんでもない」
とりあえず立ち上がる美菜緒。身体は悪くないが心に大ダメージを受けたらしい。
「んっとね、このヒトはオレの母親の弟にあたるヒトで、音桐 梶助さんってゆうんだっ☆」
「あ、えっと…宮崎 美菜緒です…」
気を取り直して自己紹介をする美菜緒。
「ああ、君が…」
「え?」
梶助がぽつりと呟いた言葉に、美菜緒は首をかしげた。
「ああ、いや、何でもない…」
「ねえねえおじさーんっ、この子助けてあげてよぉーっ」
よーじは仔猫を梶助の視界あたりまで掲げる。
「んなこと言ったってお前…」
「この子事故に遭ったみたいでさー、かわいそーだよぉー…ねえ、お願いっ」
梶助にどんどん顔を近づけるよーじ。その瞳は下手な少女マンガばりにうるうるしている。
「…ったくしゃーねえな…今回は特別だからな」
梶助はバツが悪そうに顔をそむけながら言う。
「ふぁ、ありがとうなのぉっ☆」
よーじ…或る意味魔性だわ、あんた。美菜緒、心のツッコミ。
「んじゃさっさと始めるか…」
梶助は待合所の灰皿にタバコを押し付けると、よーじから仔猫を受け取って手術室に向かう。
「今回だけってゆってたケド、いっつもちゃんと診てくれるんだよっ☆」
よーじはいたずらっぽい笑顔で美菜緒に囁(ささや)く。分かってやってんのねあんた。
「あ、先生、私もお手伝いします」
梶助について行こうとするあづさ。
「ああ、いや…」
ちらりと壁掛け時計に目をやる梶助。
「君は時間通りに帰って構わない。お母さんのところに行ってやった方がいいだろ」
「え、でも…」
「こんくらいの手術、俺一人で十分だ。それに一応、まだ診療時間中だ。他に患者が来るかも知れねえし」
「…はい、分かりました…」
そう言うと、あづさは受付に戻った。
「よーじと君、美菜緒君だったか、奥でゆっくりしてるといい。何かあったら手術室に声でもかけろ。じゃあな」
「はーいっ☆」
梶助は“手術中”の掛け札のある部屋に仔猫とともに入っていった。

「“奥で”って、どういうこと?」
よーじのあとについて廊下を歩きながら、美菜緒は訊(たず)ねる。
「んっとね、ここって、半分は病院で半分はおじさんたちのおうちなんだっ」
「おじさん“たち”って、それじゃあ他の家族の方も居るんじゃ…ご迷惑じゃないの?」
「そんなコトないよぉ、オレ何度もここ来てるし。それにおじさんって何年も前に奥さん亡くしちゃったらしいから、家族ってゆってもおじさん以外には1人だけだもん」
慣れた足取りで進んでいくよーじの後を、美菜緒は恐る恐るついていく。
「しかもその1人ってゆうのは…」
「あーっ、よーじお兄ちゃーんっ!!」
突如、声がしたかと思うと、よーじに飛びかかり抱きつくものがあった。
「えっ、ゆんちゃん…?」
唖然とする美菜緒。髪飾りの鈴をりんりんと鳴らせながら、よーじにまとわりつくゆんに、呆気に取られていた。
「よーじお兄ちゃんがゆんの家に来てくれるのなんて久しぶりよねー、もしかしてゆんに会いに来てくれたとかっ?!」
「えっと…オレはただ傷ついたネコを連れてきただけで…」
「もうっ、遠慮しなくていいってばぁ!あっ、今お茶淹れるから、リビングで待ってて!」
そう言うとゆんはどたばたと走っていった。
「…ねえよーじ、もしかして此処って…」
「うん…梶助おじさんはゆんのお父さんなの」
「なるほど…さっき私のことちょっと知ってたみたいだったのは、ゆんちゃんから話を聞いてたってことなのね。言われてみれば前回の回想シーンに梶助さんが出てきてたような…」
「ふぇ?」
「あ、ううん、読者向け(こっち)の話」

「ふーん、それじゃあ…」
チラシの裏に簡単な家系図を落書きしながら言う美菜緒。
「よーじのお母さんの弟さんが梶助さんで、その娘さんがゆんちゃんってことかー」
「うん、そーだよぉ」
いつの間にか耳やしっぽを生やしたよーじが言う。
「だから、ゆんはよーじお兄ちゃんのいとこってことっ」
よーじの横でいちゃついてみせるゆん。ゆんにも白い耳やしっぽが生えている。
「でもゆんね、こないだテレビで見たの。いとこ同士の結婚は法律上OKなんだって」
「へ、へー…」
苦笑しながら、ゆんの熱い視線から目を逸らすよーじ。
「そ、それにしても…」
話題を変えようとする美菜緒。
「私もテレビとかで見たんだけどさ、医者になるのって色々大変らしいんだよね。大学に通って、研修医っていうのもやったりとかして…こういう開業医をするのも、獣医とはいっても多分大変だったんじゃないかなー」
「ふぇー、そーなんだぁ」
間の抜けた相槌をうつよーじ。
「だからさ、このネコ体質なのに医者やれてる梶助さんってすごい人だと思うよ。人一倍大変だったろうに、どうしてそこまでして医者に…」
「この体質だからこそ、だろうな」
「…え?」
美菜緒は声のした方を見た。黒い耳や黒いしっぽ、黒いネコ手が生えている梶助が立っていた。
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あとがき
よーやく梶助おじさん登場。
ていうか前回から8ヶ月も空いちゃってすみません^^;
ネタは腐るほどあるんですが、時間が(苦笑)。
ちなみにネタはあと10話以上書けるくらいあったりします(爆)。
んで今回も予定よりだいぶ遅いテンポ。
ホントは次の5ひき目に含む内容も今回全部やるつもりだったんですが、無駄に長くなりそうなので分割。
もしかしてちょっとシリアスな話は2話連続放送になるのが恋ネコのスタンス、みたいになるんじゃ…とか思うとちょっとはらはら(苦笑)。
とりあえず次回お楽しみに〜。

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