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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

10ぴき目☆Sheサイド Love ストーリー
「わあーっ、見て見てみなおっ、海だよ海ぃーっ☆」
電車の窓に両手をべったりつけて、きらきらした目で外を見ているよーじ。今にも窓を突き破りそうな勢いだ。
「ちょっとよーじっ、行儀良くしなさい!今時小学生でもそんなことしないわよっ」
隣に座る美菜緒は、後ろ向きに座席に正座して窓を見るよーじを小突く。
「えーっ、でもでもお、海だよぉ、海ぃ」
よーじはしぶしぶちゃんと座りなおす。
「海なんてそんな珍しくないでしょ?ほら、靴履いて」
「珍しいよおー、オレ、海なんてとーきょーわんくらいしか見たことないもーん」
美菜緒に手渡された靴を履きながら言うよーじ。
「…あのさあ、前々から思ってたんだけど…」
閑散とした一個車両のローカル線の、もう一人の乗客が口を開く。
「最近美菜緒、音桐クンの彼女っていうよりさ、保護者みたくなってるよねー…」
「え?」
美菜緒は顔を引きつらせて、正面に座るその乗客、ともみのほうを向いた。
「たぶんハタから見てると、恋人同士じゃなくって親子に見えるんじゃないかな」
「ひっどーいっ!みなお、そんな老けて見えないよおっ」
「いや…私じゃなくてあんたが幼く見えるだけの話だと思うんだけど」
「ふぇ、そーなのお?」
きょとんとするよーじと、呆れ顔の美菜緒と、苦笑するともみ。車内は一瞬静寂に包まれた。
「…それよりともみ、あんた私たちについてきちゃってよかったの?あのドラマの脚本、そろそろ完成させなきゃいけないんじゃ…?」
「ああ、それなら大丈夫。もう半分以上書き終わったし、途中の段階で柳部長に見てもらったけど印象良さげだったしw」
「ほんとおっ?!うわー、楽しみなのー☆」
再び目をきらきらさせるよーじ。その横で、美菜緒が小さくつぶやいた。
「…ヘンな話にだけはしないでよね」

「ふあーっ、海でっけーっ☆」
海水浴客でにぎわう海岸。よーじは今にも海に向かって駆け出していきそうなテンションである。
「あっ、だめよよーじ、ちゃんと準備体操しなきゃ」
「ていうかせめてシャツとか脱ぎなよ、そして美菜緒も先にそれ指摘しなよ…」
やっぱり保護者だわ、とともみは内心思いながらツッコむ。
「そっかぁー…ふぁ、そーだっ」
よーじは何を思い立ったか、バッグの中をあさり出した。
「?」
首を傾げる美菜緒とともみ。
「じゃっじゃーんっ☆これふくらまそっ☆」
よーじが取り出したのは、ぺしゃんこになったビニールたちだった。
「えっと…何ソレ?」
「んっとねえ、こっちがネコさんの浮き輪でねえ、こっちがおさかなさんのボートでねえ、そんでこっちはビーチボールなのお☆」
ごきげんで語るよーじに、目を点にする美菜緒。
「…で、こんなにたくさんどうするの?」
「ふぇ?全部遊ぶんだよお?」
「…じゃあ、誰がこんなに膨らますの?」
「…ふぁ、それ考えてなかったなのおっ!!」
びっくりするよーじと、がっかりする美菜緒と、やっぱり苦笑するともみ。再び一瞬の静寂。
「まったくもー…私こんなに膨らましたくないわよー」
うんざりとした表情の美菜緒を見て、ともみが自信ありげに口を開く。
「しょうがないわねー、じゃああたしがやったげる。貸してw」
「ふぇ?」
ともみは浮き輪を受け取ると、吹き込み口に口を添えた。すると、みるみるうちに浮き輪が膨らんでゆく。
「わーっ、ともみセンパイすごいなのおーっ☆」
今日何度目かによーじの目がきらきらする。そして、あっという間に膨らませ終えるともみ。
「じゃーん、いっちょあがり♪」
「はやーいっ、ともみセンパイありがとーなのぉ☆」
「あ、そっか、ともみ中学ん時に合唱やってたんだっけ」
思い出したように言う美菜緒。
「そうよー、だから腹式呼吸はお手の物ってね♪」
ともみはビーチボールも膨らませようとする。
「あ、でもだからって全部いっぺんには遊べないから全部いっぺんに膨らませなくていいからね;」

そうして1、2時間ほど遊んで。
「ねえねえみなおー、オレ、おなかペコペコになっちゃったなのぉー…」
「そうねー、そんじゃそろそろ、本日のメインイベント行きましょうか」
美菜緒とよーじは、意気揚々と海の家に向かって歩き出した。
「え?メインイベント?」
ともみは忘れ去られかけたビーチボールを抱えてふたりの後をついて行く。

「こーんにっちはーっ☆」
「げっ、よーじ?!」
海の家でよーじ達を(嫌そうな顔で)出迎えたのは、エプロンとバンダナを着け、少し焼けた肌の鉄だった。
「げっ、とは何よー、私達も居るんだからねー」
よーじの後ろから顔を出す美菜緒とともみ。
「もしかして犬養クン、ここで働いてんの?」
「ああ、ともみ先輩は知らなかったでしたっけ。俺、夏休みの間ここでバイトしてんすよ」
「そーそー、だからオレ、一度でいーから鉄っちゃんの働いてる姿見たくって、ドッキリで来ちゃったんだー☆」
いたずらっぽい笑顔を鉄に向けて言うよーじ。
「ま、そういうわけだから…分かってるわよねw」
美菜緒が見せた満面の笑みの、その目の奥が笑っていないことを、鉄はひしと感じた。
「…割引きまでは出来ませんけど、おまけくらいはしますよ」
鉄は心底面倒くさそうな声で言うと、3人を席に案内した。

「はい、カレーとラーメンお待ち」
3人の席に料理を運んでくる鉄。
「わあっ、なんかすっごい大盛りなのお☆」
「ラーメンの具、乗せすぎじゃない…?」
見るからに“てんこもり”な料理に驚いてみせるよーじと美菜緒。
「いや、俺の友達が来てるからって言ったら、店長がどんどんサービスしなって言うもんだから…」
「あれ?あたしの焼きそばは?」
不満そうに言うともみ。
「心配しなくても今持ってきますから(ちゃんと大盛りで)…あ、こっちこっち」
鉄が手を振る先には、同じようにエプロンとバンダナをした青年が居た。
「あ、すみません、焼きそばお待たせしました」
料理を運んできたのは、身丈がすらっとして目鼻立ちの整った好青年だった。
「あっ、ありがとうございます〜ww」
ともみは彼を見るなり、分かりやすい程の猫撫で声を出した。
「あー、確かにともみの好きそうなタイプだわね」
美菜緒は呆れた声を出した。
「あの、あたし犬養クンの先輩で川嶋 ともみって言うんだけど、あなたのお名前は?」
ともみの唐突な質問に戸惑う青年に代わり、鉄が言う。
「うわっ、いきなりナンパかよ…こいつは一緒にバイトやってるナルセヒビキって言うんだ」
「あ、何度も言うけどナリセキョウね;」
青年は困り顔で訂正する。そして、ともみに向かって言う。
「あ、鈴が鳴るの鳴るに瀬戸内海の瀬、それに響くって書いて鳴瀬 響(なりせ・きょう)です。よろしくお願いします」
「鳴瀬クンかー、キレイな名前だねー。よろしくね♪」
と、その時、店の奥から声がした。
「犬養君、鳴瀬君、そろそろ昼休み入っていいよー。犬養君もお友達と話とかしたいだろうし」
「え、店長いいんすか?」
鉄と響は一旦店の奥に戻ったが、しばらくするとエプロンとバンダナを外し、料理を持ってきた。
「なんか昼休みもらったから、俺達も昼飯にさせてもらうぜ」
「うん、いいよぉー☆」
よーじは席を詰め、隣の席に鉄を促した。
「あ、それじゃあ鳴瀬クンも一緒にどーお?」
自分の隣の席に置いた荷物をどけながら言うともみ。
「え、いいんですか?」
響は意外そうに言う。さっきまでバンダナで隠されていた、青みがかった外跳ねした髪が印象的だ。
「どうぞどうぞーw」
「ふぁ、なんかともみセンパイ、いつもいじょーにテンション上がってるなのおー」
「ま、下心見え見えだけどね…ってよーじ、もう食べ終わったの?」
「え、うそ、あんだけ大盛りにしたのに?!」
美菜緒と鉄は、よーじの目の前にあるカレー皿がもぬけのからになっているのを凝視した。

それからしばらく、鉄と響も加えた5人で遊んでいた。
もともと鉄と響が親しくなっていたこともあり(更にもちろんともみの下心も大いに影響して)、響はすんなり輪に加わった。
昼休みが終わる頃には、よーじは彼のことを「きょーちゃん」と呼び、ともみもそれに便乗して「響クン」と呼び始めていた。
そして2人がバイトに戻っても、ともみはずうっと響のことを思い返し続けていたのだった。

それから時間は一気にその日の夜まで進む。
「あー、美味しかったわねー、あのレストラン」
3人の宿泊先のホテルから少し離れたところにあるレストランで食事を済ませた美菜緒とともみは、ホテルへの帰路である海岸沿いの道を歩いていた。
「うん、でも、音桐クンもかわいそうにねえ」
「へっ…?」
ともみの言葉に対し、思わず戸惑ってしまう美菜緒。
「へって、音桐クンの熱射病のことよ。意外に美菜緒心配じゃないんだね」
「え、あ、ああ…心配は、心配だけどー…」
本当は、既に陽が沈み耳やしっぽが生えてしまったよーじを、ともみやホテルの人々に見られないように、よーじには熱射病になってしまったということにして彼の部屋に閉じこもってもらっていたのだ(元々男女で部屋を分けようということで2部屋取っていた)。
「まあ…犬養もついてるから、てきとーにルームサービスでも取って食べてるんじゃないかなー…熱射病なんて一晩寝てれば治るだろうし…」
実は、元々家からここまで電車で通っていた鉄が、わざわざ家に帰って明日また来るのが面倒臭いからという理由でよーじの部屋に転がり込んできただけなのだが。ちなみに鉄も犬の姿になってしまったので、ルームサービスは部屋の外に置いてもらってこっそり食べる、という手段をとっている。
「んー、まぁ確かに、音桐クンなら寝て起きて“なおったーっ☆”とか言いそうだわね」
苦笑するともみ。その横で美菜緒は、なんとかごまかしきれそうだとこっそり胸を撫で下ろしていたりする。
そしてそうこうしていると、ホテルの前まで辿り着いた。
「あ、美菜緒先に部屋に戻ってていいよ」
「え?」
予想外のともみの言葉に、美菜緒はきょとんとする。
「あたしもうちょっとこのへんぶらぶらしてから部屋に戻るよ。脚本の構想も練りたいしね」
「そう?じゃあ私、部屋行っとくね」
「うん、何かあったらケータイかけてね」
ともみはホテルに入っていく美菜緒を笑顔で見送った。
内心では、病気している音桐クンと美菜緒がでれでれしてるトコの邪魔なんてしたくないし、とか思っていたりするのだが。

そうして一人になったともみは、あてもなく海岸沿いを歩いていた。
歓声に目を遣ると、砂浜では大学生のグループと思しき男女何人かが手持ち花火で盛り上がっていた。
あたし達も花火持ってくればよかったかな、と一瞬思ったともみだが、次の瞬間、でも音桐クンあたりに花火持たせると何しでかすか分からないか、と考え直し、前言を撤回したりしていた。
そしてふと道の反対側を見たその時だった。
「…え?」
ともみの口から、勝手に声が漏れ出た。
道の向こう側のやや遠くに建つ十階くらいのマンションか何かのビルの屋上に、人影を見た。
その人影の背には、鳥か天使か、或いはイカロスあたりを連想させるような白い羽根が生えているのが見えた。
そして、嘘みたいに綺麗な満月の光に照らされたその顔は、ともみにはすぐに誰だか識別できたが、それをともみはすぐには信じられなかった。
「きょ、響…クン…?」
その時、その人影はふとともみの方を見た。
目が合った、と感じたともみはより一層はっとしたが、翼を持つその人影も一瞬目を見開いたように見えた。
そして次の瞬間、“彼”はともみの視界から消え失せたのだった。
「え…な、何、今の…?!」
ともみは一瞬身動きできなくなったが、“彼”がビルから飛び降りたように思えて、急いでそのビルまで駆けて行った。
近くに他に高い建物がないのですぐ辿り着けたが、幾ら周りを探し廻っても、それらしき姿は全く確認出来なかった。
「あたし…何か幻でも見たのかな…」
ともみは事実確認を諦めると、胸の高鳴りを抑え切れないままホテルに戻って行った。

その日の月は、本当に嘘のように綺麗で明るく煌めいていた。
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あとがき
はい、記念すべき10話目でございます。
いやー、ここまで無駄に長かったなぁ(笑)。
当初の予定ではこのへんまで1年で済ますつもりだったのにw
はてさて、新キャラ響くんを登場させての今回の主役は実はともみ。
ともみと謎の美少年とのアバンチュール、なんちゃって(爆)。
なお久し振りの前後編となりましたが、今回はわざとです(笑)。
あと副題はRAG FAIRの曲名から。最初はそのまんまパクリだったんですが、ちょっともじりました。

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