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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

11ぴき目☆ウインド・アンド・ウイング
閉店のお知らせ
この海の家は、事情により勝手ながら閉店となりました。
皆様のご愛顧ありがとうございました。

追伸・バイトの犬養君と鳴瀬君へ
突然ごめんねー。バイト代は口座に振り込んどくので、今日は海で遊んで行ってねw
店主

「…はあぁっ?!」
海の家の店先に貼られた貼り紙に、大きな怒鳴り声をぶつける鉄。
「ねえねえみなおー、あの紙、なんて書いてあるのお?」
「…要するに、犬養たちはクビになったってことよ」
「あんのバカ店長、何考えてやがんだよっ…昨日までンなこと一言も言ってなかったじゃねえかっ!!」
「まーまー、今日はまる一日鉄っちゃんたちとも遊べるってコトでしょお?じゃあいーじゃん☆」
「よくねえよっ!!」
「ふええ、いはいよおへっひゃあん」(訳:痛いよお鉄っちゃん)
笑顔のよーじのほっぺたを思いっきりつねる鉄。

そんな愉快なやり取りの横で、ともみはずっと物思いにふけっていた。
(…昨日のあの人…やっぱり響クンだったと思うんだけど…でも、あんな高いところに居たし、背中に翼みたいなの見えたし…何だったんだろう…今日会ったら聞いてみようかな…)
「ともみ?大丈夫?」
「えっ…?!あ、う、うん…」
突然美菜緒から掛けられた声に、ともみは思わず声を裏返らせてしまう。
「なんかともみ、昨夜部屋に帰ってきてからヘンよ?あの後何かあったの?」
「う、ううん、べ、別に大したことじゃないから…」
「あー、もしかしてアレじゃないのお?恋のマヤイってヤツ」
「ヤマイな、病」
よーじのとんちんかんな発言に呆れ顔でツッコむ鉄。
「あれ、何かあったんですか?」
「ふぁ、きょーちゃんだー☆」
4人の後ろから、昨日と変わらぬ爽やかな出で立ちの響が現れる。違うところといえば、頭に青のキャップをかぶっているくらいか。
「ああ…ちょっとかくかくしかじかでな…」
「えっ、本当に?!」
「って、今の説明で分かるの?」
まあ、細かいところは気にしないで、美菜緒さん。
「そうですかー…まあ、しょうがないですから、今日は遊んで帰りますよ。ね、ともみさん」
「えっ、あ、う、うん…」
響に笑みを向けられ、ともみの鼓動は高まる。
「やったー☆そんじゃあ、さっそくあそぼーっ☆」
「っしゃ、いつまでもくさってても仕方ねえしな。行くぜーっ!」
「ちょっとあんた達、待ちなさいっ!準備体操しなさいってばー!」
海の方へ駆け出すよーじと鉄、そしてそれを追いかける美菜緒。
「さ、ともみさんも行きましょう」
「う、うん…」
ともみは、さり気なく差し出された響の手を掴む。しかし、響の顔は見れなかった。

「いーい?目隠しした状態でここで10回廻ってから、あそこにあるスイカ目がけて歩いてくのよ?わかった?」
「はーいっ☆」
タオルで目隠しをしたよーじが、借り物のバットを手にして元気よく返事する。
「じゃあ、いーち、にーい、(中略)、じゅう!それじゃあスタートっ!」
よーじはふらふらと歩き出す。
「ふぇえ、なんかくらくらするなのお〜、スイカさんどっちなのぉ?」
「右だ右!いや、そっちは左だからっ」
鉄が言う。
「んっと、んっとぉ…こっちー?」
「バカっ、そっちは俺…っていうかお前、どんどん俺のほう寄ってくんじゃねえっ!!」
「えーっ、こっちじゃないなのぉー?わかんないよぉ〜」
「お前っ、俺かち割る気かっ?!ていうかお前見えてんじゃねえのっ?!」
「いけいけー、よーじー!」
必死の形相で逃げ廻る鉄と、とても楽しそうに声援を送る美菜緒。

「あはは、面白いですねー」
スイカ割りだかなんだか分からないものを見ながら、響はビーチパラソルの下で缶ジュースを飲んでくつろいでいる。
「…ともみさん?大丈夫ですか?」
「え、あ、うん、だい、じょうぶ…」
(くあーっ、ただでさえ響クンが隣に居るだけでもドキドキモノなのに、昨日あんなの見ちゃったし、どうしたらいいんだろう…)
頭の中がぐるぐるしているともみ。
「もしかして熱中症ですか?帽子、貸してあげますよ」
そう言うと響は、かぶっていたキャップをともみにかぶせる。
「あ、ありがとう…」
ともみはかぶせられたキャップに手をかけながら、ふと、響の顔を見た。なんて綺麗な顔。そして、ともみの口から勝手に言葉が零れ出た。
「…あ、あの、響クン…ひとつ、聞きたいことが…」
「え?何ですか?」
言ってからともみは少し後悔したが、言い出してしまったからにはしょうがない。言葉を続ける。
「あの…昨夜、どこに居た、かな…?」
響は一瞬眉をひそめたが、すぐに笑顔で言い返した。
「どうしたんですか。そんな、探偵さんがアリバイでも聞くみたいな質問」
「あ、ごめん…ちょっと昨夜、響クンに似た人を見かけたものだから…」
「ふーん…残念ですが、昨夜は別に用事などはありませんでしたよ」
響の微笑みに、またちょっとくらりとなりそうになるともみ。少し距離を縮める。
「あ…あの…響クンのメー…」

「じゃっじゃーんっ☆スイカ割れたなのぉーっ☆」

ともみの言葉をぶった切るように、2人の間にいびつに割れたスイカがにょきっと現れる。
「…へ?」
「あ、やっとスイカ割り成功したんですねー」
響はすっかりよーじとスイカのほうに関心を向けている。
「うんっ☆ちょっと失敗しちゃったケド、なんとか割れたんだよお。きょーちゃんたちも召し上がれなの☆」
「ありがとうございます。…ところで、なんでイヌ君はあんな死にかけなんです?」
響が指差したほうには、ビニールシートの上にぐったりと倒れこんでぼろぼろになっている鉄の姿があった。
「…まあ、あまり気にしないで」
美菜緒は目を逸らして小さく言った。
「あ、でも、おいしい…あたしスイカなんて久々だわ」
ともみはスイカを少しついばむ。
「あ…ともみさん、ほっぺたにスイカついてますよ」
「え、どこ…?」
スイカを手探りするともみに、響が近づく。
「…ここです」
響は、ともみの頬についたスイカのかけらを、口で取った。
「…ふぇっ…?」
目をぱちくりさせながら、その場に固まるともみ。
「あ、次ぼくに割らせてくださいよー」
響は何でもない表情でビーチパラソルから出て行った。
「あれ、ともみセンパーイ?だいじょーぶう?」
よーじがともみの目の前で手を振ってみるが、反応は無い。
そのまま数分間、ともみは思考を停止させていた。

「わーっ、眺めキレーなのおーっ☆」
海水浴場から少し歩いたところにある高台にやってきた一行。
「ちょっとよーじ、落ちたら危ないでしょ?!」
柵から身を乗り出そうとしていたよーじを、美菜緒が喰い止める。ちなみに柵の向こうは切り立った崖になっている。
「それにしても、よくこんなトコ知ってたな、鳴瀬」
「うん、バイト終わってから、よくこのへんうろついてましたから」
「あれえ、それじゃあきょーちゃんって、このヘンに住んでるヒトじゃないなのお?」
「あ、はい、そうなんです」
「そっかあ、てっきりジモッティーかと思ってたなのお」 注:ジモッティー=「地元の人」の意味。
「さて、そろそろ陽が傾いてきましたから、帰りましょうか」
「あ、そうね。そのほうが(色々と)都合いいわ。ほら、ともみも行くよー」
「え、あ…ごめん、あたし後から追いつくから、先行ってて」
「え?」
「ちょっと風に打たれてたいんだ。あたし方向感覚は良い方だからさ」
「…そう?大丈夫なの?」
「心配性だなー美菜緒は。ケータイも持ってるから大丈夫だって」
「ねーみなおー、はやく行こーよーっ!オレ、駅前で売ってたミルクソフトクリーム食べたいよおー」
「あ…それじゃあ私たち、先行くね」
「うん、また後でね」
ともみ一人を残し、美菜緒たちは高台から降りていく。
「……」
響は少しともみのほうを振り返ったが、そのまま美菜緒たちについて行った。

「…どうしようかなぁ…」
ともみは海を見ながら、ぽつりとつぶやいた。
「さっきのアレ以来、ホントにドキドキが止まらない…」
気がつくと、手は胸元から頬に向かっていた。
「あたし、本当に響クンのこと…」
その時、急に風が吹いた。

「ともみセンパイ遅いねえー」
黄昏の駅前のベンチでソフトクリームを食べながら言うよーじ。
「そうねえ…さっきともみと別れて30分くらいになるし…鳴瀬君先帰っちゃったから道分かんないし…陽が沈んじゃったらよーじ達電車で帰れないからなぁ…」
「んじゃあオレ、梶助おじさんにむかえに来てって電話するなのおー」
携帯電話を取り出すよーじを見ながら、鉄が言う。
「電話っていえば、ともみ先輩のケータイかけてみたらどうすか?」
「それが、さっきからかけては居るんだけど、全然出ないのよ。電波が届いてないわけじゃないみたいなんだけど…」
美菜緒は改めて携帯電話を鳴らしてみる。

「た、確かに、ケータイ持ってるから大丈夫とは言ったけど…両手がふさがってちゃ出れないんだよねー…」
ともみの左手はさっき響からもらった青いキャップを、そして、右手は柵を必死で握っていた。
そう、彼女の足は地面から遙かに離れた状態になっている。パーカーのポケットからは着信音が虚しく響いている。
「うー…響クンの帽子が風で飛ばされて、つかもうと思ったら崖から落ちそうになっちゃうなんて…」
ぷるぷると震える右腕に、ともみは何とか力を入れ続ける。崖を照らす夕陽はもうなりをひそめていた。
「この帽子を離せば、両手で柵掴んだりケータイ取ったり出来るけど…でもこれ、響クンから貸してもらったやつだし、離したくないよ…でも、もう、手ゲンカイ…」
ともみはふと足下を見た。木々は少しあるものの、ここから落ちたらまず浅い海面へと一直線に向かうだろうことはともみにも十分把握できた。
「あー…あたしこんなトコで死んじゃうのか…やだな…せめて最後にもう一度、響クンに会いたかったな…」
宵空に浮かぶ響の顔。そして、ともみの右手はついに力を失ってしまった。それと同時に、ともみの意識も失われる。

その時、崖に生える僅かな木の葉を、強い横風が揺らした。

「やっぱ探しに行こうかな…でももう暗いし道分かんないし…鳴瀬君の連絡先聞いとけばよかったな」
耳やしっぽの生えたよーじと犬になった鉄を梶助の車の中で待機させ、美菜緒は一人車の前で電池の切れそうな携帯電話を見つめていた。
その時、先程座っていたベンチのほうから強い風の音が聞こえた。
「…え?今の、何だろ…」
美菜緒は恐る恐る、物陰になっていたベンチのほうへ歩いてみた。
すると、ベンチには一人の少女が目を閉じて横たわっているではないか。
「と、ともみっ?!」
「…え、美菜緒…?」
美菜緒の声に、ともみはゆっくりと目蓋を上げた。
「良かったーっ、何かあったんじゃないかって心配してたのよ?」
「え…あれ、あたし、崖から落ちたんじゃ…?」
「え?あの崖から落ちたの?!」
「そう思ったんだけど…でも、右手が痛い以外にケガもしてないみたいだし…」
「誰かが助けてくれたのかしら…でもよかったー。あれ?ともみ、その帽子って…」
「え…あ、これ、響クンに返さなきゃって思ってたんだけど…」
「鳴瀬君ならもう帰っちゃったよ?」
「え、うそ…あれ?」
ともみはふと、キャップの内側に目をやった。そこには、さっきまで無かった筈のアルファベットの羅列が書かれていた。
「これってまさか…メルアド…?」

――あ、あの…響クンのメールアドレスって、聞いてもいい…?――

「…響クン…」
ともみは、昼間よーじに遮られた自分の質問を思い出し、キャップをぎゅっと抱きしめて微笑んで涙を流した。

ベンチの上には、白い羽根が一枚落ちていた。風はおさまっていた。

「ところで、音桐クンたちは?」
「あー…先に2人で電車で帰っちゃった」
美菜緒は車の方をちらりと見ながらはぐらかすのだった。そして、車内でのよーじのつぶやき。
「なんか今回、オレたちジャマ者っぽくなーい?」


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あとがき
前後編の後編でした。
さり気に普段よりちょっと長め。ふだんの長さじゃ少し足らなかったし、更に2話分に分けるには微妙な長さだったので強行しました(笑)。
響くんは最初っから謎めいた青年という感じにするつもりだったので、「なんかこいつ全然分かんねえよ!」とか「なんでともみが助かったかよく分かんねえよ!」とかツッコまれるかも知れないですがそれでOKです(爆)。
そして、ともみの心を散々掻き乱しといて、響くんはしばらく出てこないと思われるのが残念;
ま、次出てくるのをお楽しみに〜。
そしてよーじや鉄が超脇役くさいwすいかわりがなかったら本当にどうしようもなかったねw

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