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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

17ひき目☆こいねこ二学期
「ねーねーみなおーっ、“ひつじきっさ”ってなあに?」
「…はい?」
放送部室に入ってくるなり理解を超越した質問をぶつけてくるよーじに、美菜緒は目を丸くする。そして。
「…犬養さん犬養さん、ちょっと来なさい」
「まぁ、そう来るとは思ってましたケド…」
鉄はしぶしぶ(そして当然の如く)説明責任を果たし始める。

「いいかげん起きろってんだ!!」
新学期初日の1年3組の教室に、竹刀の澄んだ音が響く。
「いってーっっ!!何すんのさあっ;;」
顔を上げ、涙目で頭を押さえるよーじ。
「何すんのじゃねーよ、ホームルームくらいちゃんと起きてろっつってんだよ」
「だからってぶつことはないじゃんかー、ヤバンだよぉあきなせんせー」
「ほーお?もう一発喰らいたいって?」
「い、いえいえっ、とんでもないですうっ!!」
「…分かればよろしい。それじゃ委員長、続き」
そう言うと、あきなと呼ばれた女教師は、竹刀を肩に乗せて教室の前方に戻ってパイプ椅子に座った。
「あ、はい…ええっと、それじゃあ3組の文化祭の企画はこれで異論ないですか?」
黒板の前に立つ眼鏡をかけた男子生徒が尋ねる。挙手するものはない。
「異議なさそうですね。では3組の企画は“執事喫茶”に決定します」
次の瞬間、今度は教室中に拍手と歓声が広がる。そして、その空気についてっていない人がひとり。
「…ひつじ、きっさ…?」

「…とゆうわけです」
「…って、クラスの企画決めるホームルームくらい起きてなさいよっ」
「だってぇ、眠かったんだもおん」
目をこすりながら言うよーじ。
「まぁよーじは授業でもたいがい寝てる気がするけどな…」
ぼそりとツッコむ鉄。
「でも俺もその、“執事喫茶”でしたっけ、それよく知らないんすよね。正直俺も、放送部のほうで忙しくなってクラスには関われないと思ってたから、あんま話聞いてなかったし…」
「そうねぇ…私もなんか聞いたことあるような気はするけど…」

と、その時、3人の背後から高らかな声がする。
「執事喫茶、それは女の萌えの具現化!」
「…は?」
振り向くと、そこにはらんらんとした瞳のともみの姿があった。
「男子諸君がメイドカフェのメイドさんに萌えるように、女子は執事に萌えるもの。そんな乙女の夢を叶えてくれるのが執事喫茶なのよ!!」
「…ともみ先輩どうしたんすか?」
「さぁ…」
鉄と美菜緒の白い目はよそに、ともみはよーじの手をぎゅっと握る。
「に゛ゃっ?!」
「執事といえば基本は男前で紳士的なやるものだけど、そこを敢えて音桐クンみたいなショタキャラがやるっていうのも、程よく裏をかいてていいと思う!ありがとう音桐クン!!」
「…ふぇ、ええっと、でもオレ、放送部のほうが忙しいんじゃ…」
困惑するよーじ。そこに真奈美と瑞穂も加わる。
「でも私たちって、当日は受付とか上映する係とかくらいしか仕事ないから、そんなに人手要らないですよね?」
「てゆうか3組の女子的には、音桐くんの執事姿が見たいからこそ執事喫茶にしたらしいよぉ」
「そ、そーなの…?でもオレ、そのしつじってゆーのやれる自信ないよぉ…?」
「いいっていいって、とりあえず執事服着てくれるだけで大丈夫だから!」
「私たち、音桐くんの執事姿見れたら嬉しいんだけど、ダメかなぁ?」
真奈美と瑞穂のすがるような目に、よーじもなんでか説得されちゃったらしい。
「うーん…そんなにみんな期待してくれてるんだったら、オレ、ガンバってみる!」
「わあっ、ありがとう音桐くん!!」
きゃいきゃいという歓声の外で、鉄と美菜緒が小さくツッコむ。
「えっと…これ何すか;」
「てゆうかうちの部ってこんなに腐女子多かったんだっけ…」

「おい、うるさいぞお前達!」
歓声がぷつりと途切れる。背の高い眼鏡男子が現れる。
「あ、柳部長…」
「全く、文化祭までもう日がないんだ。来週には撮影に入るんだろ?もうちょっと真剣に作業に取り組もうという気はないのか?大体お前達はいつも騒がしくしているばかりで…」
「あー、はいはい、説教はそれくらいでー」
柳の長台詞をぶっちぎるともみ。
「それじゃあ皆さん、お仕事しましょうねー」
ともみに促され、各自仕事へと取り掛かる。
「っておい、川嶋!」
話の腰をぽきんと折られた柳がともみを呼び止める。
「いいじゃないですか、柳先輩。みんな意外とできる子たちだもん。それに、そろそろ先輩帰る時間じゃないですか?」
「…あ、ああ、まぁそうだが…」
おもむろに腕時計に目をやる柳。
「じゃあ川嶋、後は任せるから。陽が沈むまでには皆帰れよ」
「分かってますよー。お疲れ様ですw」
ともみに見送られ、柳は放送室を後にした。
「…そう言えば部長って、いつも早めに帰ってるよな」
「ああ。やっぱ3年だし、塾とか通ってんのかな」
佑助と佐助がひそひそ話す。
「いいえ、違うわね」
「え?」
きっぱりと言い切るともみに、双子はきょとんとする。
「あれは間違いなく恋よ。柳先輩は毎日いとしの彼女に会いに行っているに違いないわ。ああいう典型的な部長キャラはきっとそういう面もまじめで一途だと思うしw」
「あ、だからともみ先輩、部長をさっさと帰してあげたんですねぇ」
と瑞穂。続けて鉄が言う。
「あー、そう言えば俺、噂聞いたことあるっすね。確か部長、同クラで幼馴染の上遠野(かとうの)先輩とイイ関係らしいっすよ」
「へー、そうなんだ。私、そういう話あんまり興味ないから知らなかったなぁ」
「そりゃあんたは自分がラブラブだからねぇ」
ともみのツッコミに美菜緒は顔を真っ赤っ赤にした。

「…そういえば、よーじは?」
ふと部室中を見廻す美菜緒。よーじの姿は確かにどこにも見当たらない。
「ああ、音桐だったら、装合わせに行ってますよ」
佑助の言葉に美菜緒は振り向く。
「衣装合わせ?」
「遠山がまず音桐のぶんの衣装を作ったんだけど、一応合わせてみて細かいトコ修正したいからって。たぶんそのうち美菜緒先輩もやるんじゃないの?」
今度は佐助が言う。
「そんな本格的な衣装なの…?そして私もするのか…」

と、その時。
「みなおー、見てみてーっ☆」
「え?」
おっきな声のするほうを見ると、真奈美と一緒に別室から出てくるよーじの姿があった。頭には大きなうさ耳をつけ、中世風の洒落たジャケットにベスト、紺色のズボンからはウォレットチェーンのようなものが見える。大きなシルクハットを手にして、それはそれは嬉しそうにぴょんぴょん飛び廻っている。
「うわぁっ、かわいいーw真奈美やるじゃなーい!」
美菜緒の隣できゅんきゅんしている瑞穂。
「へへーっ、かわいいでしょー☆オレこーゆー服着たことないから、すっごいうきうきなのぉ☆」
「そりゃーそんな派手な服普段着にしてるヤツ居ねえって」
はしゃぎまくるよーじに、冷静にツッコむ鉄。
「でもホントに役のイメージぴったりだなー。真奈ちゃんすごいね」
「ありがとうございます、ともみ先輩!」
微笑んで答える真奈美。
「てか、なんで美菜緒先輩何も言わないんすか?」
「へっ?!」
佑助の言葉に、思わず声を裏返してしまう美菜緒。
「そーいえばそーだねえ。みなおもなんかゆってよお☆」
満面の笑顔で美菜緒に近づくよーじ。
「どーお?みなお」
「え、えっと…その…」
周囲の様子を窺う美菜緒。その首すじには汗が流れ出す。
「…ちょ、ちょっとよーじ、こっち来なさい」
「んに゛ゃっ?!」
美菜緒に引っ張られ、よーじは防音室に入らされる。美菜緒はカーテンを閉め、よーじの前にしゃがみこんで一つ咳払い。そして…

「…かわいいーーーっっっ!!!」
全力でよーじを抱きしめる。
「ふぇっ、み、みなおおっ?!」
「ネコ耳のよーじもいいけど、うさ耳も似合うなんて…あんたって子はっ…ww」
「…うんっ、ありがとうなのお☆」
きょとんとしていたよーじも、あたたかな微笑みを浮かべる。

「…って、こんなコトされたら逆に怪しいわよね…」
カーテンのかかった防音室の外で、ともみが呟いた。

「そーゆえばさーみなおー」
帰り道によーじが美菜緒に言う。もちろんさすがに制服に着替え直している。
「文化祭おわったらしゅーがくりょこーに行くんでしょ?どこ行くか決まったなのお?」
「ああ、ちょうど今日のホームルームで発表されたわよ。北海道に行くんだって」
「北海道?!いいなぁー、楽しそうなのぉ☆」
「そっか、そう言えばよーじ、中学の修学旅行休んだんだっけ…」(←第12話参照)
「ふぁっ、ううん、そーゆーんじゃなくってっ、北海道ってほら、おさかなとか牛乳とかおいしいんでしょお?うらやましいなのお☆」
「あ、そっちね…まぁでも、ちゃんとお土産買ってきてあげるから、ね」
「わあっ、ありがとうなのお☆んじゃあオレねっ、サケとイクラとウニとね、あとあの、なんとかって牧場のキャラメルとね、それと…」
「いくらなんでも多すぎ、しかも生モノばっか…それはそうと、1年生は文化祭のあとに三者面談があるのよね?よーじは梶助さんに行ってもらうの?それとも…」
「あ、母さんはやっぱいそがしそーだからおじさんについてきてもらうなのお。保護者向けのおてがみとか、だいたいおじさんに届くよーになってるし」
「あ、そうなんだー…」
そんな話をしながらよーじのマンションへと入ってゆく。
「…そう言えば、美菜緒先輩」
実は一応2人についてきていた鉄がふと言う。
「ん?何?」
「確か美菜緒先輩って、夏休みの間だけよーじの家に居るっつー話じゃなかったでしたっけ…?家族の皆さんとかは…」(←第8話参照)
「…あ」

「…有井(ありい)、か…」
音桐動物病院の一室で、何やら紙を手にした梶助がつぶやく。
「…まさか、な…」


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あとがき
ひっさびさの更新なのに、全然中身のない話でごめんなさいorz
2学期が始まったぞーってな話なので、2学期にやろうと思ってる話のイントロ的にするつもりで、
新キャラの名前を出すなど色々と前振りをしてみたんですが、
結局それだけっぽい感じになってしまった(苦笑)。
まぁ、今後の話に期待してもらえれば…あ、いや、あんまり期待されても困るけど(ぇ
ちなみにタイトルはアニメ「スクールランブル」が第2シーズンに「二学期」をつけたのを踏襲。
あと終わりのほうでよーじが口走っているキャラメルは「花畑牧場の生キャラメル」です。今すげえ人気のやつ。
それにしても…ともみをこんな腐女子にするつもりはなかったんだけどなぁ;

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