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あいのうた

ラプソディ

結局私は、混乱とショックを半分ずつ持ち帰った。家に帰って、誰とも口を利かずに自分の部屋へと駆け込む。そして、そのままベッドになだれ込んだ。ウソ…ウソだよね…?私、疾風がいなくちゃ生きていけないんだよ…?それは疾風…疾風だって、同じはずじゃなかったの?大体何よ、そんな年上の女…。そう、きっと疾風は、その女にたぶらかされたのよ!だって、あんなに私のことをいつも大好きって言ってくれる疾風が、他の女の子には興味のない疾風が、ましてちょっぴりロリコンの疾風が、だよ?しかも年上の女…。そんな…そんなの…。
そんなの、ありえない!!
その時、私のケータイが鳴る。着信音は「あいのうた」。…私にかかってくる電話で、この音が鳴るのはたった1人しかいない。…そう、それは…疾風からの電話…。私は出来るだけ平静を装って電話に出る。
「もしもし、疾風?」
「美寛…?」
ああ、いつもの疾風の声だ…。その声に、私もちょっぴり安堵する。
「美寛、どうしたの…?元気ないね…」
…誰のせいで私が今、こんな気持ちになってると思ってるのよ…疾風のバカ…。でも、そんな言葉は、どうしても今の私の口からは出なかった。代わりに出るのは、明るさを装う気丈な声。私は心の内と外がこんなにかけ離れてしまった自分を、珍しく感じていた。…人間って、こんな事も出来るんだ…ううん、こんな事しか、していない…できないよね…。
「ううん、平気だよ」
「…そう…無理はするなよ?…土日の事、堪えてると思うけど…」
それを聞いて、ちょっぴりガッカリした。もぉ、疾風はそっちの事だと思ってるのね!それは「あれ」もかなりショックだけど…でも、でも疾風は、私の気持ちなんてゼンゼン分かってない!!
「…寂しくない?寂しくなったら、いつでも言って。会いに行くからさ」
その言葉に、私の心の中の堕天使が敏感に反応する。私は無意識のうちに、口走ってしまった。
「…今日は平気。…がんばるから。ねえ、疾風?私、明日、会いたいな」
「明日?…午前中ならいいよ」
なっ…?
「えっ?午後、何かあるの?」
「ああ、ちょっとした用事」
ちょっとした用事…って…。まさか、まさか本当に、私よりその女に会う事のほうが大事なの!!?…私はなぜか急に、疾風を試そうという気になっていた。これじゃ私、ホントに堕天使みたい…。でも、でも…絶対、後には引きたくなかった。
「ねえ…疾風?例えば〜、私が、明日の午後に絶対会いたい!って言ったら…?」
「え?どうするか、って聞いてるの?」
「うん」
しばらくの間、沈黙。ほんの数秒の間のはずなのに、この沈黙は、異常に重かった。
「う〜ん…ちょっと困る。そう言われたら、今からすぐに行くかな。それで、明日の午前中まで一緒にいる」
「ふ〜ん…そんなに大事な用事なんだね…」
「ああ…ごめんね、美寛」
疾風…どこまで本気で謝っているの…?それからの疾風との会話は、ちょっぴり続いたけれど、でも私は上の空で聞いていた。私はあまり時間をおかずに、電話を切ってしまった。疾風は…きっと、「例の事件」で私が疲れきったと思っていて、それで無理にでも、ぎこちなくても、私を励ましてくれているんだと思う。その気持ちは…うん、それは、素直に嬉しいよ。でも、それ以上に私は喜べなかった。むしろ…私、疾風のことを…疑ってる?こんなに疾風の事が信じられなくなったのは、初めてのこと…。私、どうしたら…?
でも、それから決心するまでにあまり時間はかからなかった。…こうなったら明日は一日中、疾風の後をつけてやるんだから!それでしっかりと女の顔を見て、ケータイのカメラで撮って…疾風がその女と縁を切るまで、私、ゼッタイ疾風のこと許さない!!私がこんなに好きなのに、遊びで他の…しかも年上の女と付き合うなんて、男としてありえないもの!!そう誓って、私はそのまま眠りについていた。

夢を見た。その夢の中で私と疾風の2人は…楽しそうに、笑っていた…。「今」という現実を知らずに…。目が覚めたとき自分が泣いているのに気が付いて、まるで歌みたいで、無性におかしくなった。


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