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ほしのうた

一番星

「ハッコウノビショウジョ」ってエーコのためにある言葉だと思わない?(中略)…今までエーコが村に残っていた理由、それはジタン、あなたという流星に出会うため。あなたはたった一度の輝きで、わたしを…
FINAL FANTASY IXより

「それじゃ、今日はこれで終わり」
今日は4月16日、月曜日。6時間目の英語の授業が終わったところ。月曜日は私たちの担任の先生が英語の授業をするから、そのまま終礼になって学校での一日が終わる。新学期になった実感は、私には無い。クラスも担任もすべて持ち上がったから。まして、受験生である実感なんて…。そんなの考えるだけで却下。私がこんなことを考えている間に、クラスメートたちは席を立ち始め、1人また1人と教室を後にしていく。
「あ、そうだった…月倉くんと雪川さん!」
その言葉でふと我に返る。私はまず担任を見て、次に教室の中の疾風を探した。疾風は教室の後ろのドアのあたりにいて、もう帰るところだったみたい。…恋人の私を放っといて先に帰ろうとするなんて…。そう頭の中では思うけど、疾風にだって男友達との友達付き合いはあるよね。それにダメ、嫉妬しすぎの女は嫌われるのよ…そう自分に言い聞かせる。
「2人で職員室に来て」
そう言うと先生は教室を出て行った。疾風が私のところに近づいてくる。
「…呼ばれる覚えはないけどな…。美寛、何か思い当たる?」
「さぁ…?」
私はとぼけて見せた。もちろん、私は理由を知っている。でも、まだ疾風には言いたくない。
「どうせデート中に補導でもされたんでしょ?」
後ろから友達の遥の声がする。そんなわけないじゃない、私と疾風は健全なカップルなんだから!!よっぽど遥に言い返そうかと思ったけど、すぐ側に疾風もいるし今日はやめておく。
「とりあえず、行こっか」
私は疾風の手をとって、遥を無視して歩き出す。ドアを閉めるときに振り返ると、遥はニヤニヤ笑っていた。

職員室へ向かう途中に、自己紹介。私の名前は雪川美寛。私立深月高校の3年生。身長は154センチとそんなに高くは無いけど、色白で二重で、二次元のアニメの女の子たちに負けないくらいカワイイ(あっ、笑ったな〜!)。趣味は推理小説を読むこと。パパは警察官でママは主婦、それから大学生のお姉ちゃんがいるの。性格は…どっちかっていうと明るくて純真。他の人に言わせれば「ノロケで単純」らしいけど、少なくとも私はそんな風には思っていない。
それから、もう1人ね。今、私の隣を一緒に歩いている男の子が月倉疾風。私の幼なじみで、恋人なの。身長は170センチにちょっと届かないくらいだから、疾風もそんなに高くは無い。でも、整った顔立ちにサラサラの黒髪(特に長めの前髪がカッコイイ!)、スマートな体型。テレビゲームが好きな男の子。一見クールで暗そうに見えるけど(私以外の女の子からモテないのはきっとそのせいね)、本当は優しくって頼りになる。2人きりならいっぱい喋ってくれるし(口が悪い時はあるけど…)、何よりいつでも私をかばってくれる。疾風は私だけの王子様なの…って、こんな事を言うからみんなにノロケって言われるんだよね。は〜い、ちょっぴり自覚しました…。

職員室に入り、担任のところへ行く。すると、私たちは職員室の中の小部屋に通された。普段は生徒指導の先生から直接「指導」される部屋だけに、なんだか居心地が悪い。本当にデートのことを咎められそうな気さえした。疾風も同じみたいで、さっきから視線があたりを彷徨っている。
「ごめんね、ここしか部屋が空いてなかったから」
そう言って先生は書類を取り出した。
「これこれ、この話なの。交換留学のこと」
私は先生の視線が書類から上がらないうちに疾風を見た。疾風の目がいつもより大きく見開かれている。
「…?」
疾風は不思議そうな顔をしていた。でも、その直後にちょっぴり不機嫌な顔で私を睨んでくる。ふふ、分かったよね、疾風?私は思いっきり特別の目配せをしてあげた。サービスでウィンクもしてあげる。先生は私たちのこの会話(私と疾風は目と目で話せるもの)が終わってすぐ、書類から目を上げて話しはじめた。
「一応説明ね。例年行っているけど、4月30日から5月6日までの一週間、この深月高校では相互交流という事で、E県の村立高校生との交換留学が行われています。それで、2007年度は応募してくれた生徒たちの中から、あなたたち2人が選ばれて…」
幸い、疾風はおとなしく聞いてくれた。よかった…。

放課後。もう生徒のいない坂道を、私と疾風の2人だけが下っていく。疾風はかなり不機嫌そうな顔だった。でも、たぶんこれは見せかけ。それが分かってるから、私は笑顔で疾風の顔を覗き込む。坂を下りきったあたりで、やっと疾風が口を開いた。
「美寛…ハメたでしょ?」
「ん?何の話〜?」
もう一度とぼけてみせる。でも今度は、疾風にも絶対ウソだって分かるとぼけ方だ。大体、私が出す声が違うもの。2人っきりの時にしか使わない、甘えた声。それに、目も思いっきり笑ってるのが自分でわかる。
「書類の偽造は犯罪じゃないのか?」
たぶん、そうね。…私が何をしたかというと、今度の「交換留学申請書」の、疾風の分を偽造したの。事前に懇意の先生から「今年は交換留学の応募が誰からも出なくてね〜」って聞いてたし、必要な印鑑は疾風のお母さんに頼んで捺してもらったし(私と疾風のお母さんはすごく仲がいいの)、それより何より私は疾風の「代筆」ができる。疾風のちょっぴり癖のある字を、私は長年見てるもの。
「まったく、美寛は…詐欺師になるつもり?」
「あ、ひどいなぁ!リュパンになったつもりだったの。詐欺師だなんて…」
「印鑑があったって事は窃盗も働いた?」
疾風の顔には微笑がこぼれている。これはきっと小さなジョーク。
「ん〜ん、あれは疾風のお母さんに説明して捺してもらったの」
「…おふくろまでグルか…」
今度は一転してマジメな表情。ああ、疾風のお母さん、疾風に言いがかりを付けられたらごめんね。
「でもさ、いいでしょ?」
私が気を利かせて、明るく話し始める。
「どういう事?」
「だってさ、のんびりとした大自然の中で、2人きりで過ごせるんだから」
「あのな…交換留学って言っても、5月の1日と2日は普通に授業だろ?それに向こうの生徒に好奇の目で見られるだろうし…。そういう事も考えた?それ以前に、今からのこと…どうせすぐに他の奴らに気づかれて、散々言われるよ?」
「うん、もちろん!」
ホントははじめて考えた。そっか、そんなこともあるよね。でも、ゴールデンウィークの間はずっと疾風と過ごせるし、少なくとも(遥を筆頭に)私の知り合いに邪魔されることは絶対にないし…。あぁ、でも、そうだよね…。私と疾風が交換留学することが知られたら、特に遥になんて言われるだろ…。
「聞いた俺が悪かった。美寛は昔から行き当たりばったりだよね…」
「うるさ〜い」
疾風のほっぺをちょっぴりつねる。疾風は嫌がってない。むしろちょっぴり嬉しそうなくらい。私は今から、とっても嬉しかった。だから…私は、全然予想もしていなかった。星降島で私と疾風を取り囲む、不思議な出来事なんて…。
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