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ほしのうた

六番星

「すっごい叫び声だったじゃない?美寛、怖がりだね〜」
私と疾風は頂上まで駆け上がった。駆け上がってすぐに、璃衣愛のヒドイ一言が飛んでくる。
「ち…違うよ!ただ…ヘビが…緑色に、光って…」
上手く話せない。怖くはないけど、頭がパニックを起こしてる。
「はぁ?ヘビ?見間違いじゃろう?」
「…いや…ヘビかどうかはともかく、緑色に光る細長い何かが、波打って動きながら石段を登っていったのは間違いない…。俺も、見た」
「え、ホントなの?じゃあきっと、嘘じゃないんだろうけど…」
「え…ホントですか?まさか…本当に…ヘビ?」
恋奈や実玖が口々に反応する。…みんなは、なんで疾風の言う事だと信じるの?
「なあ、この島にそんな…緑色に光るヘビなんて、本当にいるのか?」
疾風がみんなに聞く。口を開いたのは恋奈だった。
「ううん、もちろん民間伝承の中だけの話。それ以前に、このあたりにヘビはいないと思う。私、ヘビさえT動物園でしか見たことがないわ」
ちなみにT動物園は、園内にヘビとかコウモリとかしかいない建物がある、E県内の動物園なんだって。それをきいても私にはカーの「爬虫類館の殺人」しか連想できない。
「そうそう、光るヘビだなんて…いわゆる蛇眼系のモンスターだけですよ。ヘッジヴァイパーとかサーペントとか…しかも、それでも光るのは眼だけですよ?全身が光るなんて事はないですし…」
実玖がまた唐突に、私には意味不明の発言を始める。でも…
「それじゃあ、あの光は一体なんだったの?…誰かのイタズラ?」
私は疾風以外のみんなを見回す。ついでに意識して璃衣愛を睨む。
「それはないじゃろう。だって、4人とも頂上におったぞ。それは間違いないけんのぉ」
「ええ。それは間違いないですね。ウチは小屋の前でお二人が来るのを待っていて、残りの3人は小屋の中にいましたけど…でも、みんなで話しながら待ってましたからね。頂上についてからは全員下りてないです。だから…」
「そうだよ、疾風クンには悪いけど、きっと何かの見間違い!さ、帰ろう?」
璃衣愛が促して、私たちは頂上を降りることにした。先を璃衣愛と夏一と恋奈が歩き、あとから実玖と疾風と私がついていく。私たちがあの光を見た石段で、私たち3人の歩は少し遅くなった。
「このあたりで出たんですね?その…ヘビ?みたいなやつ」
実玖の問いかけに、私が頷く。
「うん、そう…なんか、小刻みにだけどクネクネしながら上っていったの」
石段の一段一段は、まあ普通の階段と変わらないくらいの高さ。少し時間が経ったとはいえ、別にどこにもヘビが通った跡のようなものはない。
「う〜ん、全然わからないですね…本当に見間違いじゃないですよね?」
実玖が、鎖で出来ただけの簡単な手すりに座りながら尋ねる。
「ああ、間違いない。美寛だけならともかく…俺も見たから」
そう…私と同じ現象を、疾風も見てるんだ。だから、これは絶対見間違いなんかじゃない。
「ってなると…サイキック・ディテクティブですか?」
再び歩き出しながら実玖がそういう。…そういえば、実玖の体格や顔の感じ、そして今のセリフ…なんとなく、実玖って頭木保に似ているかも…。
「は?何それ?」
推理小説用語がわからない疾風のために、ここは私が。
「サイキック・ディテクティブっていうのはね、疾風…。日本語で言うと心霊探偵のこと」
「は?…もしかしてオーラがどうこうとか言い出すつもり?」
「ううん、逆だよ。一見怪奇的な現象に、合理的な解決法を見つけること。ほら、例えばポルターガイストとか、狐火とか…」
私のすごく簡単な説明に、疾風は首をかしげている。これ以上簡単にはいえないよ?
「…それで、美寛?もしかして…」
「な〜に?」
私は甘えた声で疾風に聞き返す。…あ、しまった、隣に実玖がいた。
「この原因を究明するとか…言い出すつもり?」
「当然!だって、あれが本当に、緑色に光るヘビだなんて信じないもの!」
「…そうですね。ウチも、そう思います」
「だよね、実玖?…ねぇ、どっちが先に原因を突き止めれるか、勝負しない?」
私は実玖に話しかけていた。反対側で、疾風のため息が聞こえるけど…ごめんね、疾風?10秒だけ、疾風はこの場にいないことにさせて。実玖は私の質問に、苦笑しながら答える。
「いいえ、残念ですけど…ゲームの中以外で、勝負事をするのはイヤなんです」
「もう、これだって広い意味ではゲームだと思うけどなぁ。しょうがないか…ね、疾風?」
もう一度疾風を見つめる。明らかに疾風の目は、これからの私の発言を知ってて、しかもそれが自分の望まない言葉であることを知ってる時の目だ。単純に言えば「嫌な予感」って目をしてる。
「疾風も手伝ってね」
疾風は、もう一度大きくため息をついた。


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