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そらのうた


第四部

「また明日、学校でね!ポニーテールにしてくるね」

立川恵『怪盗セイント・テール』より


第十六羽

「ここからの眺めは、相変わらずだね」
私と疾風は、古びた公園にいる。眼下には私たちの住む街。今日は3月14日。…1年前の私は、この公園で涙を流した。そう、あの日からもう1年…。煌めく月に照らされて、疾風から指輪をもらったあの日から、もう1年も経つんだと思うと…やっぱり、年をとるにつれて、時間が経つのは早いな、って思う。そんなことを言ってたら、大人の人たちに怒られちゃうかな?
「そうだな」
私の横には、疾風。小さなベンチに無理して2人で座っている。ピッタリと横に、疾風の呼吸を感じている。
「あの島…どうなるんだろうね」
比等鷲島は、あれから大変なことになった。もちろん殺人事件の捜査もあったし、それより島の中心部で大量に見つかったケシの駆除に多くの人員が割かれた。近くの海中から、たくさんの石とともに沈められたコードにバスタオル、そして無残な姿の教授の両腕が入ったリュックサックも見つかったらしい。このあたりはパパから聞いた話。不思議とマスコミはこの話題をあまり取り上げなかった。警察が翔くんに配慮したのかな。不謹慎だけど、珍しくいい配慮だなって思う。
「さあな。でも、もう大鷲さまの伝説も終わりかもね。…そうそう、美寛、こいつ」
疾風はポケットから紙を取り出した。そこに描かれていたのは、3羽のふくろうに掴まって弓矢を持っている、青色の顔の変な男だった。それがドット絵で描かれている。
「こいつが“そらの狩人”さ」
「ああ、実玖が言ってたやつね」
私はその絵をよくよく見る。…そうか、ふくろうが人間のようなヤツをヒモで持ち上げている…。
「こいつがね、大きな助けになったんだ。あの離れから脱出する翔くんの姿に、重なって…」
なるほど…鳥にぶら下がって移動する人間、か…。まさにファンタジックな方法だ。
「でも、もうあれは昔の話。…きっと、あれでよかったんだよな」
「うん、そうよ。あれで…よかったの」
疾風は立ち上がる。
「じゃ、美寛、エデルにでも行こうか」
「うん、そうだね。…あ、待って、疾風」
「何?」
私は疾風の腕を持って、思いっきり甘えた声で言う。
「ホワイトデーのお返しは〜?」
「もう、美寛は…ちゃんとあるから心配しないで。今欲しいの?」
私は大きく頷く。疾風はもう一方のポケットから、小さな箱を取り出した。
「ほら、これ」
私は箱を開ける。…中から出てきたのは、銀色のペンダント。中央についているアクセサリーは長方形のクリスタルで、その中に雪の結晶のような白い光がキラキラちりばめられていた。
「えへへ…ありがとう、疾風。…とっても、嬉しいよ」
「よかった」
疾風は背中を向けて歩き出そうとする。その背中に、思いっきり私は抱きついた。もちろん、今もらったペンダントを首にかけて。
「疾風…」
「どうしたの、美寛?」
私は疾風の正面に立つ。そして、ちょっぴり背伸び。
「これからも、ず〜っと、一緒だね」
「美寛が頑張ってくれたからだよ」
「えへへ…ね、ごほうびって、ないの?お口とかに」
「もう、美寛は…」
そう言って疾風は、ごほうびをくれる。お互いの味は、今までよりも、ちょっぴり大人になっていた。2人の味を感じてから、私も疾風も、アハハって笑い出す。こんな風に2人で見つめあって、笑いあって、って、何か久しぶりかもしれない。無性に、嬉しくなった。
「じゃあ、行こうよ、美寛」
「うんっ、疾風!!」
そして私と疾風は、同じ歩幅で歩き出す。きっとこれからも、ずっと一緒に。じゃあ、最後に、読者の皆様にご報告。

私も疾風も、同じ大学に通えることになりました!

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