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よみのうた

開幕


10月のある夜、私は疾風と夜道を歩いている。今日はデートの日で、今まで疾風と公園を散歩したりショップでお買い物したり、ファミレスで食事したりしていて、その帰り道。いつも通りの、穏やかで楽しい日だった。
「美寛、足、疲れてないか?」
「私は大丈夫だよ。…あ、大丈夫じゃな〜い!って言ったらおんぶしてくれた?」
「さすがにそこまではしないけどさ…公園で休むくらいだったら」
「う〜ん、疲れてはないけど休もっか」
「分かった」
私は疾風の顔を見る。いつもと同じ、ちょっぴりクールで、でも優しい顔。最近の疾風の顔は昔よりも優しくなったって思う。何だか、とげとげしさがなくなった感じ。疾風も私の顔を見返してくれる。そしてちょっぴり笑みを浮かべる。その笑顔に私はまた、「ああ、疾風かっこいい!」って思うの。
私たちは公園に入る。子どものころからいつも来ていた公園。小学校の頃から、いつかこの公園には来なくなるだろうな、って思っていたけど、今でも私と疾風は2人で訪れる。ここには、2人の想い出がいっぱい詰まっているから。普段は8時もすぎると誰もいなくなる公園。だからこそ私も疾風もくつろげるんだけど、今日はそこに誰かがいる。
「あれ?お兄ちゃん!」
その声に私も疾風も一瞬立ち止まった。…えっ?私は辺りを見回すが、「お兄ちゃん」に該当しそうなのは疾風だけ…というより疾風以外に公園の中に男性がいない。疾風を「お兄ちゃん」って呼ぶなんて…誰?私たちの目の前にいたのは30歳前後の女性と小さな女の子だった。
「え…?優奈ちゃん?」
疾風が口に出す。そう言われて私も思い出した。そうだ、この子!ルナティック殺人事件のときにこの公園であったことがある。確か…日向、優奈ちゃんだっけ。それにしても…なんで疾風は優奈ちゃんの名前を覚えているの?私はそんな些細なことに、ちょっぴり嫉妬してしまう。
「あら…あの時の。お久しぶりです」
優奈ちゃんのお母さんが頭を下げる。そうだ、優奈ちゃんと初めて公園で会った時とかに顔を見たことがある。
「こんばんは」
私たちはそろって挨拶をする。
「またデート〜?」
「うん、そうだよ」
優奈ちゃんのキツイ一言にも疾風は動じない。う〜、私なんか今思いっきり優奈ちゃんを睨んだのに…。
「お散歩ですか?」
疾風は優奈ちゃんのお母さんに聞く。すると優奈ちゃんから意外な答えが返ってきた。
「ううん、今からきもだめしなんだよ。お兄ちゃんも一緒に行こうよぉ」
「え…肝試し?」
私も疾風も首をかしげた。そんな、今10月だよ…?
「いえ、実は…でも、お2人には関係のない話ですし」
「ママ、ダメ!私、お兄ちゃんと一緒に行く!」
優奈ちゃんは半泣きでお母さんと疾風を見つめる。
「…どうしよう、美寛?時間があるなら、ついて行ってみる?」
「でも、私たちがお邪魔していいんですか?」
「ええ、大丈夫だと思います。それに、人は多い方がいいと思いますから」
お母さんは思案しながらも答える。その言葉に優奈ちゃんは嬉しそうだった。
「やった〜!じゃ、お兄ちゃん一緒に行こっ」
優奈ちゃんは疾風の手をとってさっさと歩き始めてしまった。はぁ…。

こうして私と疾風は、この事件に巻き込まれることになる…。


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