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Colours


第1話 〜初恋〜

「はぁー…」
休み時間、矢吹が突然大きなため息をついた。
「どうした、矢吹?オメーらしくねーぞ、ため息なんか」篁が話し掛ける。
「病気か何かさ?」羊谷も矢吹のところへ来る。
「保健室行くっスか?」麻倉も心配そうに尋ねる。
「…あんまり大きな声では言われへんねけど…」囁くように矢吹が言う。
えーっ?!矢吹君恋したんっスか〜っ?!」驚いて麻倉は隣の教室にまで聞こえそうな大声で叫んだ。
「…大声出さんといて、麻倉君(^^;)」小さく呆れ声でツッコむ矢吹。
「んで?相手はどこの誰さ?もしかして隣の学校の相楽とか?」
「あれはただの噂やて…」どうも今回はツッコミ側らしい矢吹(笑)。「駅前の着付教室あるやろ?あそこでアルバイトしてる女の子なんやけど」
「名前は?」
「それが、全然わからへんのや」
「片想いなんだな」
「それじゃ、俺たちが手助けしてやるさ」と羊谷。
「…え?」

その日の放課後、羊谷と麻倉は例の蘇芳着付教室へやって来た。駅の前にあるビルの1階で、広めの窓から少し中が見える。
「矢吹君の言ってた人って、あの茶色くて長い髪の人っスかね?」麻倉が指差したのは、若い女性の着物の着付をしている16、17歳前後の女性だった。
「ほー…、割とキレイなコさ。矢吹が惚れんのも無理ないさ」羊谷も少し見とれている。「それじゃ、入ろうさ」
「…え?入るっスか?」
羊谷に言われるがまま、麻倉も着付教室へ入っていった。

着付教室の入口には、高級そうな着物からラフに着られそうな浴衣までいろいろなものが置いてあった。
2人が入ると、少し赤っぽいショートカットの髪をした20代と思われる女性が話し掛けてきた。
「いらっしゃいませ。何の御用でしょう」
「あ、ちょっと浴衣を選ぼうかと…」羊谷はそう言ったが、もちろん嘘である。本当は、矢吹の意中の人に関して情報を得る為だった。
「かしこまりました。萌来ちゃん、ちょっと」その女性は、部屋の奥に呼びかけた。
「何ですか、青羽さん」中から出てきたのは、髪の毛を束ねた女性だった。20歳くらいだろうか、いやもっと若いかもしれない。
「この2人が浴衣を見たいって」
「あ、はい」髪を束ねたほうの女性は羊谷達を別室へ連れて行ってくれた。

「こちらは有名なファッションブランドのSHIGEMORIが作った新作モデルの浴衣です。綺麗でしょ?」女性はいろいろ浴衣を紹介してくれた。
「あ、あのすみません華田さん」麻倉が話し掛ける。
「え?わたし名前言いましたっけ?」
「名札に書いてあるっスよ」
「あ…(*・・*;)」ちょっと赤面する華田。
「あ、それはいいんですけど、ここに勤めてる人たちって案外若いっスよね?」
「うーん、まあそうですね。蘇芳先生は50超えてますけど、わたしは18ですし、ほら、あそこにいる仙谷ちゃんは16ですから」
「仙谷…?」
「あ、あそこの茶髪のコ。仙谷 千尋っていって、数ヶ月前に入ってきたの。ウチで一番人気があるのよ。最近は窓の外から彼女を見てる高校生もいるくらいなんだから」
「へー…」返事をしながら、二人はその高校生が矢吹であると直感したのだった。

翌日、教室にて。
「矢吹、例の女の子の名前わかったさ」羊谷と麻倉が矢吹の元へやって来る。
「ついでに会う約束まで取り付けてきちゃったっス!」
「や、約束…?」
「そうさ。その娘、千尋って言う名前なんだけど、その千尋ちゃんに"今度の土曜に別の友達も連れてまた来る"って言っておいたさ」
「おーっ、やるじゃねぇか羊谷」いつの間にか話の輪に加わっていた篁が冷やかし半分で言う。
「なんでそーゆーこと勝手にするんや…(^^;)」
「え?ダメさ?土曜はお前ヒマって言ってなかったさ?」
「そーゆーことやなくてなぁ」
「もしかして恥ずかしいっスか?それなら千尋さんのところには行かなくていいっスか?」麻倉が言う。
「そっか、それじゃしょーがねぇな。土曜はとりあえずオレが替わりに行って、それっきりってことにするか」と篁。
「待てっ、誰もまだ行かないなんて言うてへんやろ!(*>_<*;)」

土曜日。蘇芳着付教室近くにやって来た4人(結局篁もついて来た)。
窓から、着物の展示を整頓している女性がいた。千尋である。
「あれがオメーの一目ぼれの相手か…まぁ悪くねーじゃん」
「おいおい、なに品定めしてるさ」軽くツッコむ羊谷。
「そろそろ約束の時間だし、行くっスか?」2時58分を指す腕時計を見ながら麻倉が言う。
「そうだな。矢吹、準備いいか?」
「え゛?!も、もう行くん?!!(・・ι)」
「ほら、グズグズしてないで行くさ!」羊谷が矢吹の背中を押す。
「おい、ちょっ、待てや…」真っ赤になって喚く矢吹を強引に教室の中へ押し込もうとする3人。
「うわっ?!」矢吹はドアに倒れこむような形で教室へ入った。他の3人は矢吹にもたれかかる感じで倒れた。
「…い、いらっしゃいませ(^^;)」
4人を出迎えたのは、仙谷千尋だった。

「なんだ、それじゃ時哉クンたちはわたしのことを探る為に来たってわけかぁ」
着付教室の中の一室に4人は通され、千尋は4人にも差し出した麦茶を飲み干して言った。
「ウソついて悪かったさ」少し申し訳なさそうに羊谷が言う。
「ううん、全然いいのよ。わたしもこないだフラれちゃったばかりだし、窓からわたしのこと見てた烈馬クンのことも前から気にはなってたんだから」明るく笑って言う千尋。
その時、部屋に赤っぽいショートカットの女性が入ってきた。
「あら、あなた達はこの前の…」羊谷と麻倉に気付いて言った。
「あ、お邪魔してます」
「千尋ちゃんの友達?あ、気兼ねしないでゆっくりしていって。今日は5時からだから」そう言うと彼女は千尋の隣に座った。
「ところで何の用ですか?青羽さん」千尋が訊ねる。
「別に。私も一休みしようかなって思ってね。」青羽と呼ばれたその女性はポケットからタバコとライターを取り出した。
「あ、そうだ、紹介してなかったね。この人は青羽 紫織さん。この着付教室の経理みたいなことやってるの」千尋が紹介する。
「どうも。」青羽は座ったまま小さくおじぎをした。篁達も軽くおじぎをする。

しばらく歓談をしている6人。
と、そこに一人の女性が入ってきた。長い黒髪と眼鏡から、秘書か何かを
しているように見える。
「紫織さん、電話よ。児島さんって方から」
「こ、児島…?」青羽の表情は一瞬曇ったように思えたが、そのまま彼女は部屋から出て行った。
「…それから千尋さん、あまり長いことサボってると蘇芳先生から叱られますよ」
「わかってますよぉ」千尋が返事をすると、その女性はさっさと部屋から出て行ってしまった。
「ねぇ、今の人誰っスか?」小さな声で麻倉が訊く。
「今のは浅葱 緋那子さんって言って、会社でいうなら副社長って所かしら。蘇芳先生の次に立場が上の人なんだ。浅葱さんも着付の講師やってるんだけどね。」
「え?みんな講師じゃないさ?」
「生徒さんに直接教えてるのは蘇芳先生と浅葱さんの2人だけ。わたしも萌来ちゃんも助手ってとこね。紫織さんは少し位なら教えられるんじゃないかな」
と千尋が言ったその時、浅葱の出て行った方とは逆の入口側から大声がした。
「冗談言わないでよっっ!!!」
「…ふぇ?」篁たちは声のしたほうを覗いた。声の主は受付のようなところにある電話で話している青羽のようだった。
「あ…」青羽は篁たちの視線に気付き、少し電話の相手に何かを話すとすぐ受話器を置いた。
「何かあったんっスか?大声で叫んでたっスけど…」麻倉が青羽に問う。
「な、何でもないわ。ゴメンね大声出しちゃって(^^;)」何事も無かったかのように青羽は部屋の中に戻った。
「……」その様子を不審げに見つめる篁。

そしてまたしばらく時が流れる。
「げっ、もう5時前じゃん!」部屋に置かれた時計を見ながら千尋が言う。
「蘇芳先生呼んでこなくちゃね…」そう言いながら青羽は部屋を出て行った。
「それじゃオレたちもそろそろ帰るか」篁が席を立つ。
「そうっスね。また今度ヒマな時にでも来るっス」麻倉も席を立った。羊谷と矢吹も席を立とうとしたその瞬間。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「なっ、何や?今の悲鳴…」
「もしかして紫織さんかな…」千尋が呟く。
「なぁ、紫織さんが蘇芳先生を呼びに行った部屋ってどこだ?」篁が千尋に問い掛ける。
「え?ここの3つ隣にある蘇芳先生の部屋だと思うけど」
その千尋の言葉を聞いた篁と矢吹は部屋を急いで出て行き、千尋の教えてくれた部屋へ向かった。
「ちょ、ちょっとなんなのよぉ」千尋と羊谷、麻倉もあとからやって来る。
「入るな!!」あとから駆けつけようとしている千尋を制するように矢吹が大声で言った。
「え…?」
「千尋さん、警察を呼んできてくれ。部屋の中で、蘇芳先生が死んでる」
「す、蘇芳先生が…?!」
部屋の中には、白目を剥いて倒れている着物姿の蘇芳 紅梅の死体があった。
篁は部屋の中に入り、蘇芳の死体を調べ始めた。
「お、おい篁…」矢吹も部屋の中へ入ってくる。
「絞殺…だな」篁が呟く。
「え?」
「ほら、首に何かで締められた跡が残ってるだろ?」
「あ、ホンマや…、ん?何か握ってんで」矢吹は何かを握っている右手をこじ開け、中身を取り出した。
「これは…青い千代紙?」矢吹が取り出したのは、クシャクシャになった千代紙だった。
「そういえばこの辺にたくさん散らばってるな、千代紙…」蘇芳の倒れているすぐそばにある机の上に置いてあったと思われる千代紙が死体の周りに散乱している。
「ま、待てよ篁…これってまさか、ダイイング・メッセージってヤツじゃ…?」
「え?」
「犯人に首を締められてる間、蘇芳さんは犯人の名前を示そうとこの千代紙を握ったんちゃうか…?」
「確かにそれは考えられるけど…だったら誰が犯人だって言うんだよ?」
「わからへんか?この千代紙、青色やで」
「まさかオメー、あの人が犯人だと…?」
篁と矢吹は部屋の入口にいる羽 紫織を見つめた。
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