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Colours


第2話 〜ダイイングメッセージ〜

数十分後、警察が到着した。
現場で10人ほどの警官らが捜査をしている中、別室では羊谷刑事による関係者の取調べが行われていた。
「つまり、こういうことですね。着付教室の生徒が来る時間になったので、青羽さんが蘇芳さんの部屋に彼女を呼びに行ったところ、彼女が倒れていた、と」
「ええ…」青羽が答える。
「それまであなたはどこに?」
「丁度この部屋で千尋ちゃんや矢吹君たちとおしゃべりしてましたよ」
「何時ごろからか覚えてますか?」
「そうねぇ…」青羽は少し考える素振りを見せた。その時、矢吹が言った。
「3時過ぎだったはずや。俺たちが来たのがそれ位やったから」
「3時か…、それじゃ青羽さん、あなたには犯行は無理ですね」
「え?」
「死体の体温低下の具合や死後硬直の程度から見て、蘇芳さんが亡くなったのは4時前後。あなたがずっと話をしていたというのなら無理でしょう」
「そうっスよ、紫織さんはたった1回電話しに行っただけで、それ以外はずっと僕たちと一緒に居たっス」と麻倉。
「電話?」羊谷刑事が聞き返す。
「えっと、何とか島って人から電話がかかってきてるって浅葱さんが伝えに来て、それから受付の電話で話ししてたっス。途中大声で何か叫んでたっスけど…」
「青羽さん、その電話の相手はどんな人物ですか?よろしければ教えていただけると…」
「…私の、昔の夫よ」
「昔の、夫…?」
「ええ、蘇芳先生の紹介で知り合って3年前に結婚したんだけど、性格の不一致っていうの?なんか合わなくてね…。それで去年離婚したの。でも彼からは今でも数回電話がかかってくるのよ。最近は職場(ここ)にまで…」
「大声で叫んでいたというのは?」
「ああ、彼がもう一度やり直さないかなんて言ったから、ついカッとなっちゃっただけよ」
「そう、ですか…」羊谷刑事のその妙な返事を見て、息子の羊谷がそっと耳打ちする。
「オヤジ、なんでそんなに紫織サンが怪しいって思ってるさ?彼女は俺たちとずっと一緒にいたんだから、蘇芳さんを殺すなんて無理さ」
「実はな、被害者の蘇芳さんの手に青い千代紙が握られていたんだよ。死ぬ間際に、蘇芳さんが犯人の名前を示そうとして握った可能性が高いんだ。結構固く握られてたから、他の人が握らせたとは思えないんだよ」
「だから"青"羽さんって言うさ?そんな安易な…」羊谷は父から去った。
「ところで、他の方は4時ごろ何をしてましたか?」取調べを再開する羊谷刑事。
「わたしも烈馬クンたちとおしゃべりしてましたけど…」と千尋。
「私は教室で5時からの生徒のための準備をしておりました」浅葱が言う。
「それは一人でですか?」羊谷刑事が問う。
「ええ、萌来さんは受付にいましたから、私一人で」
「それじゃ華田さんはずっと受付にいたんですか?」
「そうです。別に誰も来なかったから、時々入口に飾ってる着物とかを整えたりしてました」

篁と矢吹は羊谷刑事につきあって捜査をしていたが、その間麻倉と羊谷は千尋と一緒に教室のほうで待っていた。
「結構広いっスねー…」
「大体50人くらいはいけるはずよ」と千尋。
「50人も?!かなり蘇芳先生って人は人気があったってことさ?」
「ええ、そうね…。…ところでさぁ」
「ん?何?」
「烈馬クンってどんな人なのかな」
「そうっスねー…、関西弁で言葉がキツく聞こえるけど、ホントは結構やさしい人だと思うっスよ」
「まぁ悪いヤツじゃないさ。スポーツも割と出来るし、成績も悪くないしさ」
「…そう」
「…?」羊谷と麻倉は、千尋がなぜそんな質問をしたのかよく分からなかった。
ふと、麻倉はあるものに目がいった。
「あれ?これって間違ってるんじゃないっスか?」
「え?」千尋が覗き込む。羊谷もやって来る。
「ほら、緑色なのに"青"って書いてあるっスよ」
それは、色と名前が幾つか組み合わせて書いてあったのだが、麻倉が指したのは普通の緑色だった。だがその隣には「青」とかかれていたのだ。
「ああ、それ、昔の色の呼び名なのよ。昔は色の名前をその染料になる草木の名前で決めてたんだって。だからその"緑色"は昔は"青"と呼ばれていたのよ」
「あ、"蘇芳"って色もあるんっスね」
「ええ、蘇芳先生はこの色と同じ色の着物をよく着てたの。結構先生はこの時代のことに詳しくてね。ほら、この色も今の名前と違うでしょ?」千尋はある色を紹介した。
「…え?」羊谷は、その色を見てある事に気付いた。
「まさか、それじゃ…」羊谷は急いでその部屋を出て行った。
「どうしたんっスかね、羊谷君…」麻倉と千尋はわけがわからないままそこに居た。

一方こちらは現場。死体は移動され、捜査はまだ続いていた。
「それにしても、蘇芳さんの首をしめた凶器が見つからねーんだよな…」と篁。
「こんだけ探してないとなると、犯人が持ってったかもしれへんな」
「ちょっと外のほうも見てみるか…」羊谷刑事は部屋を出ようとした。その時…
どんっ。
「いったぁ…」羊谷刑事は、部屋に入ろうとしていた息子時哉にぶつかって倒れたのだった。
「と、時哉…、何お前そんなに慌ててるんだよ」床に落とした警察手帳を拾いながら羊谷刑事が言う。
「あ、あのさ、蘇芳サンのダイイング・メッセージの本当の意味がわかったんだよ!」
「本当の、意味?」
「ああ、あれは…」羊谷は自分の推理を篁たちに話す。
「そ、それホンマか?!」
「ウソついてもしょうがないさ(^^;) だから犯人はあの人だと…」
ふと足元に視線を落とした羊谷は、床に落ちている写真を見つけた。
「あれ?これって現場の写真じゃないさ?」拾い上げた写真は、蘇芳の死体の写った現場の写真だった。
「ああ、さっき落としたんだな…」羊谷刑事が警察手帳を取り出す。
「ん?」その写真を見た羊谷は何かに気付いた。「これって、おかしくないさ?」
「何がや?」矢吹が訊ねる。
「だって、普通これはああなってるんじゃなかったさ?」
「…言われてみれば確かに不自然だな」羊谷刑事が言う。
「ということは…、さっきのオメーの推理、あながち間違いでもないみてーだぜ」
「え?」
「凶器の隠し場所と犯人の正体がわかったんだよ」
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