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Colours


第3話 〜真相〜

蘇芳の殺された隣の部屋に、華田と千尋、浅葱が呼び出された。
「一体何の用ですの?」浅葱は少し怒っているような表情だ。他の2人にも多少不安の表情が見える。
「実は、この事件の真相がわかったんですよ」と篁。
「じ、事件って、どういうこと…?」華田が訊く。
「蘇芳さんは、殺害されたんですよ…。この着付教室関係者の中の誰かにね」
「えっ…?!」全員に驚愕の色が見えた。
「そ、そんなぁ…」千尋は信じられないという様子だ。
「実は、事件のあったここの隣の部屋に、蘇芳さんの遺体の発見された時の状況を再現してあるんです。どうぞ」
篁は事件のあった部屋に、3人を促した。
「こ、これは…」部屋に入った3人は若干驚いていた。部屋の中にいたのは、着物を着て倒れている麻倉の姿だったのだ。
「な、何やってるの、麻倉クン…」
「さっき言ったじゃないですか、事件の再現ですよ」篁が説明する。「このように着物を着た状態で横たわっていた、そうですよね、紫織さん」
「え、ええ…」部屋の中にいた青羽が言う。
「ちなみにマクラにこの着物を着せたのも紫織サンさ。あのときの蘇芳さんと同じ状態で着せてもらったさ」と羊谷も言う。
「え?蘇芳先生はこう着物を着ていたんですか?」浅葱が尋ねる。
「ええ。あ、やっぱり浅葱さんは気付いたようですね」と篁。
「き、気付いたって?」華田が問いかける。
「これじゃ襟が左右逆なのよ。あなた達はまだ助手程度だからわからないでしょうけど、着物の襟は普通左側が前にくるものなの。でもこれは右が前に来ている…」と浅葱。
「その通り、着付の講師である蘇芳先生がこんな初歩的なミスをするはずがない。ほんならなんでこんな状態で蘇芳先生が亡くなっていたかっちゅうと…」矢吹はそう言って麻倉の着物の帯を外して、麻倉の首に巻きつける素振りをして言った。「犯人はこの帯を凶器にして蘇芳先生を殺し、その凶器を隠すために蘇芳先生に着物を着せたんや。せやけど焦っとったんか何か知らんけど、襟の前後を逆にしてしもうたんや。それで凶器が帯やと分かってしまったというわけや」
「つまり、犯人はこんなミスを犯してしまう人物、即ち講師としての腕を持たず、かつアリバイのない人間…」
「まさか、それって…」千尋や浅葱は、ある人物のほうを向いた。篁もその人物に指をさしていった。
「そう、華田 萌来さん、あなたです」
その瞬間、華田の表情が曇ったように見えたが、すぐもとの表情に戻った。
「な、何言ってるんですか?確かにわたしは生徒さんに教えることなんかできないし、アリバイもなかったけど、そんなことで犯人にされちゃ困りますよ…」
「もちろん、他にも根拠はあるっスよ」死体役として横たわっていた麻倉が立ち上がって言う。「蘇芳先生の握りしめていた、この千代紙っス」麻倉は手に握っていた青い千代紙を差し出して言う。
「ち、千代紙?」浅葱はそれを見つめて言う。
「これは、蘇芳さんのダイイング・メッセージだったんですよ」篁が言う。
「ダイイング・メッセージ?」
「千尋さん、蘇芳さんは昔の色の呼び名に詳しかったそうですね」篁が千尋に問い掛ける。
「え?ええ、そうだけど…」
「それじゃあ千尋さん、この色、昔だと何色って言う色ですか?」
「それは、確か縹(はなだ)色…ま、まさか…?」
「そう。最初昔の色の呼び名を知らなかったオレ達や警察は"青"羽さんを疑ってたんだけど、本当は"華田"さん、あなたのことを示していたんですよ」
華田は無言で篁の話を聞いている。
「蘇芳さんはあなたに首を締められて殺されている時、たまたまそばにあった"縹色"の千代紙をダイイング・メッセージとして握っていたんだ。あなたが気付いていたかどうかはわからないが、もし気付いていたとしてもあまりに固く握られていたから気付いていてもそれを取り出す事が出来なかったのかもしれないですが」
篁の推理に華田はただ黙ったままだ。
「華田さん、もしあなたが犯人で無いというのなら、この縹色の千代紙をなぜ蘇芳先生が握っていたのか、説明してもらえますか」
しばらく沈黙が流れた。だが、それを破ったのは華田自身だった。
「ここまで追い込まれちゃ、反論できないわね…」
「それじゃ、まさか…」
「そう、わたしがあの人を殺したの」心なしか華田の声のトーンが若干下がったようにも感じられた。
「どうして、萌来ちゃんが蘇芳先生を…?」青羽が訊く。
「わたしの父はわたしが小さな頃に病気で死んで、母は女手一つでわたしを育ててくれた。借金を返す為に、朝は朝刊配り、昼間はパート、夜は水商売までしていた母のことを、わたしは子供心にせつなく思っていたわ。
わたしは高校には進学せずに、アルバイトを掛け持って母を助けようとしてた。そんな中、ここのバイトに出逢ったの。ここは割と時給もよかったし、昔から着物には興味があったわたしは、迷わずここに飛び込んだわ。
そんなある日、急に母が倒れたの。過労がたたっての病気で、治療さえすればよくなると医者の先生は言ったけど、生きてくのもやっとなのに治療費なんて出せない…。そう思ったわたしは、経済的に余裕のあった蘇芳先生にお金を貸して欲しいと頼み込んだの。
でも蘇芳先生は"帰す宛てのない人間に金なんか貸せない"と言って取り合ってくれなかったの。わたしは必死で働いてお金を作ったけど、結局母は死んでしまった。あの時蘇芳先生がお金を貸してくれてたら、母は死なずに済んだのに…。そう思うとわたし、蘇芳先生が憎くなって仕方なかったの。そして…わたしは蘇芳先生を…」
そう言うと華田の瞳には涙が溢れ出した。涙で声が途切れ途切れになり、最後にはうずくまって泣き崩れてしまった。
「うっ…うっ……」
「萌来ちゃん…」千尋は華田の肩を抱いた。千尋の瞳にも光るものが見えた。

エピローグ 〜告白〜

その翌日の日曜、矢吹は千尋を公園に呼び出した。
「矢吹のヤツ、上手くいくさ?」植え込みの陰から覗き込んでいる羊谷が言う。
「どうっスかね…上手くいくといいんだけど」と、こちらも植え込みの陰から覗いている麻倉。
「あっ、千尋さん来たぜ」篁も植え込みの影に隠れて様子を見る。

「ゴメンね烈馬クン、遅れちゃって…」
「いや、俺もついさっき来たところやから…」
ウソつけ、ホントは約束の1時間も前からそこにいただろうが(^^;)、と胸の中でツッコミを入れる篁。(笑)
「で?話って何?」
「あ、あのさ…着付教室のバイトって結局どうするんや?」思いっきり違う話から持ち出す矢吹に、3人はちょこっと呆れる。
「結局、新しいバイトを探す事になったんだ。もうあそこは蘇芳先生もいなくなっちゃったしね」
「へ、へー…」平静を装う矢吹の顔は、どう見てもまっかっかなのだが、どうも千尋は気付いてないようだ。

そんなこんなで結局関係のない話を続けて30分。
そろそろキメてくれと外野の3人は思っているところなのだが。
「ね、ねぇ烈馬クン」
「え?何?」
「烈馬クンってさ、恋人いるの?」
「え゛っ…?(・_・ι)」まっかっか度が最高潮に達する(笑)矢吹。「い、いないけど…」
「じゃあさ、わたしと付き合ってみない?」
「…へ?(*・・*;)」
「わたし、窓からわたしのこと見てたときからずっと烈馬クンのこと気になってたんだ。それで、昨日の推理見てからもう烈馬クンのこと思い出すたびドキドキしちゃって…」千尋は真っ赤になって言っているが、矢吹はそれ以上に驚いている。
まさかこんな展開になるなんて、と外野の3人も驚いた。
このあと、矢吹が千尋の告白をOKしたのは言うまでもない。
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