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Family tale

File1 歌宴(うたげ)
「明けましておめでとうございまーす!」
羊谷家に広がる声。
「おっ、何だかんだで7人全員来たんさね」玄関に現れる時哉。
「おー、明けましておめでとう、みんな」時哉の後ろから出て来た彼の父、惣史が言う。
「お久しぶりですねー」湊が言う。ちなみに彼女が惣史と会ったのは「Pinch Kicker」以来である。
「あー…とりあえず先に言っとくが」咳払いをする惣史。「俺からのお年玉は時哉以外ないから、その積もりで」
「ええっ?!」素(す)っ頓狂(とんきょう)な声を上げる秀俊。
「ヒトの親からのお年玉期待しとったんかい…」秀俊をハリセンでしばいて言う烈馬。
「てかそのハリセンはどっから出てきたのよ…」小さくツッコむつかさ。「それに烈馬クンだって鳥渡(ちょっと)は期待してたクセに」
「え?」若干かわいい顔で黙る烈馬。
「昨日の帰り言ってたじゃない、"今年は麻倉君や羊谷君の親御さんからもお年玉もらえるやろから"って」
「…そうなんっスか?」と知之。
「そっ、それは…っ」あたふたする烈馬。
「まぁいいじゃねぇか、矢吹」祥一郎が真剣な顔で烈馬の肩を叩いて言う。「ぶっちゃけオレも、結構期待してたしよ」
「それ何のフォローにもなってないさ」と時哉。「ま、ぷち新喜劇はそれまでにして、さっさと上がれよ。こっちリビングだからさ」
「あ、でもよ羊谷」頭に大きなタンコブをつけたまま言う秀俊。「ご馳走は、ちゃんとあんだろ?昨日お前はっきり言ってたもんな」
「え?」先刻(さっき)の烈馬同様、若干かわいい顔で黙る時哉。
「え?って…まさか」

リビングに隣接するキッチンには、スーパーの袋に入ったままになった食材たちが所狭しと並んでいた。
「…これ、どういうことなんだ?羊谷」呆れ顔の秀俊。
「い、いや…俺もオヤジも料理って出来ねぇからさ…」時哉は苦笑いをしながら言う。「い、一応今朝これ買って来たんだけど、どうしようもなくって…」
「君ら日々の食事はどないしてんねん…」と烈馬。「俺は一応一人暮らしやから、たまに(大半は千尋に作ってもらうけど/笑)料理すんで?なぁ篁君」
「え?…あ、ああ、まぁな…」祥一郎は、自分が一人暮らしをしていることになっているということをすっかり忘れかけていた。「オレはコンビニとかで済ますことの方が多いけどな…」
「でも、どうするんっスか?」と知之。「食材だけあっても調理しなきゃ食べられないのもあるっスよ?」
「もう、しょうがないなぁ」腕まくりをしながら言う千尋。「わたしが料理してあげるよ」
「え?」惣史が言う。「君って料理出来るのか?」
「えっへん」千尋は胸を張って言う。「こう見えてもわたし、料理はなかなかもモンなんですよ?」
「おお、そうなのかっ!」目を輝かせる秀俊。「千尋ちゃんがオイラの為に料理を…ラッキー」
「"オイラ達"や」再びハリセンでしばく烈馬。
「だからそれどっから出してんのよ」とつかさ。「じゃ、あたしも手伝うわ」
「あ、私も何かしますよー」湊が挙手して言う。
「それじゃあ、お任せしようかな」と惣史。
「んじゃ、俺らはリビングにでも居よっか」時哉の案内で、男子勢は隣のリビングに向かった。

「へー、結城君と悠樹君から年賀状届いたんや」
リビングのおこたでぬくぬくしながら言う烈馬。
「うん、しかも丁度2人のが重なってて、びっくりしたんっスよ」
「てか、結城はまだ釈放されてないんじゃ…」時哉が言う。
「いや、少年院の中からでも年賀状は出せるよ」と惣史。「"年賀状"ってのは別に官製の年賀ハガキに限ったモノじゃないからな」
「でもあんま出しそうになさそうだけどさ…って、おーい、篁ー…」
時哉はおこたに突っ伏している祥一郎をつつく。祥一郎は微動だにせず、只心地良さそうな寝息を立てていた。
「こいつ、ヒトん家来て速攻寝ちまったのか?」目を丸くする秀俊。
「昨日も夜遅くまで本読んでたっスからねぇ…」知之が言う。
「ん?なんで麻倉そんなこと知ってんだ?」と秀俊。
「え」知之も知之で、自分の家に祥一郎が居ることが周囲に秘密であったのをすっかり忘れかけていた。「あ、さ、先刻此処に来る途中に言ってたんっスよ…」
「ふーん…」と烈馬。「なんか、君と篁君って意外と仲ええよな」
「へ?」冷や汗を垂れる知之。
「ああ、確かにお前らって、あんま性格合いそうにないよな」秀俊が言う。
「え?そ、そうっスか…?」白を切ってみる知之。
と、その時、ドアのベルが鳴った。
「ん?お客さんか?」と烈馬。
「あ、もしかしたら…」時哉と惣史は玄関に向かう。「あ、矢っ張り」
リビングに残された4人のうち、寝ている祥一郎を除く3人も玄関に顔を出す。其処には、スーツ姿の2人の男女が立っていた。
「あっ、勝呂刑事!それと…」知之は記憶の糸を辿りながら言う。「…あっ、柏木刑事っスね!」
「あ、麻倉さん達もいらしてたんですか」客人の男の方、惣史の部下である勝呂が言う。「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます」隣に居る女、同じく惣史の部下である柏木もお辞儀をして言う。
「あー、わざわざ来てくれたのか」と惣史。「今日は非番じゃないのに、すまないね」
「いえいえ、僕達が勝手に来ただけですから」勝呂が言う。
「あ、二人もどうぞ上がってくださいさ」時哉がスリッパを2組出しながら言う。
「あ、わざわざありがと」と柏木。「そう言えばあの子…篁君は来てないの?」
「あ、いや…」知之がリビングの方をちらと見ながら言う。「来ては、いるんっスけど…」
勝呂と柏木は首を傾(かし)げた。

「あちゃあ…これまたぐっすりと寝ちゃってるわね」
リビングに入った柏木は、胸部から下をおこたの中に潜らせ爆睡している祥一郎を見た。
「…先刻まではおこたの上に突っ伏してなかったさ…?」
「この数十秒の間に床に寝そべり直したんやろか…」驚き呆れる烈馬。
「あ、勝呂刑事と柏木刑事」隣の部屋から現れた千尋が言う。「先刻のチャイムはお二人だったんですね」
「あ、千尋さん」と勝呂。「台所で何やってるんですか?」
「あ、それってもしかして鳥の唐揚げ?」柏木は千尋が手に料理を持っていることに気づいて近付く。
「あ、はい…何品か作ろうと思ったんで、取り敢えず出来たのから順に持って…」
「うわー、美味しそーv」柏木は千尋の説明も終わらぬ内に、その唐揚げの一つを摘んで口にした。「あっ、あつっ…」
「あ、だ、大丈夫ですか?」思わぬ行動を取る柏木にあたふたする千尋。「揚げ立てだから熱いですよ…」
「柏木さん」勝呂も心配そうな表情で近付く。
「ほふほふ…うん、おいひい」
「…ふぇ?」
「矢っ張唐揚げは揚げ立てに限るわよねー」どうやら最早熱さは喉許(のどもと)を通り過ぎてしまったらしい。「もう1個もらっていい?」
「は、はい…」
「…柏木刑事って、意外と大食い?」
「んー…まぁたくさん食べる方ねー」2個目を頬張りながら言う柏木。「でも食べへもあんまひふほはない体ひつみはい(訳・食べてもあんまり太らない体質みたい)」
「そうなんですか?羨ましいです」と千尋。
「鳥渡、千尋ー?」台所からつかさの声がする。「唐揚げ次揚がったから早く取りに来てよー」
「あ、ごめん、今行くー」千尋は唐揚げをおこたの上に置くと、そそくさと台所に舞い戻った。
「仙谷さん達が料理作ってるんですか?」勝呂が尋ねる。
「ああ、まぁな」と惣史。
「あ、もしかして羊谷さんってば、あの子をお嫁さんにしようとか企んでたりします?」揶揄(やゆ)するように言う柏木。
「なっ…?!」綺麗なまでに驚きの声をハモらせる烈馬と秀俊。
「…そんなわけないだろ」飛び掛って来そうな2人の狼(笑)の姿を見て、惣史は冷や汗を垂らしながら言う。
「ホンマでしょうね?」今にも胸倉を掴んできそうな勢いの烈馬。
「はは…」苦笑いの時哉。「もしそうだったとしても、俺は千尋あんまタイプじゃねぇしさ」
「それも余り良いフォローになっていない気が…」と勝呂。
「ま、まぁまぁみんな落ち着いて…」知之が場を繕う。「あ、そ、そうだ羊谷君、折角だから1曲歌ってくださいっス」
「あ、ひいわねそへ(訳・いいわねそれ)」既に6個目の唐揚げに挑んでいる柏木が言う。
「…何個喰う積もりなのさ」呆れ顔で言う時哉。「んじゃ、今ギター上にあっからちょっち取って来るさ」
時哉はリビングを出て、階段を昇って行った。
「そう言えば…」ようやく落ち着く烈馬。「羊谷君の家って初めて来たけど、結構綺麗に片付いとるんやなぁ…」
「確かにそうっスねぇ…」と知之。「男のヒト2人だともっと汚くなってるかなって思ったっスけど」
「はは、時哉の部屋は足の踏み場もない程汚いよ」惣史が言う。「それに…片付いてるんじゃなくて、散らかしてないだけだよ」
「え?」
「ほら、可南子――俺の女房な、が6年前に死んだって話したことあったろ。可南子はとにかく綺麗好きで、家中を毎日掃除してたんだ。だから、可南子が死んで此処に引っ越してきても…」惣史は立ち上がり、テレビの上に置かれた写真立てにそっと触れて言う。「可南子の写真のあるこの部屋だけは、散らかさずにいつも綺麗なままにしておこうって、時哉と決めたんだよ」
「そうなんっスかぁ…」妙にしんみりする一同。
その時、ドアが開いてギターを持った時哉が現れた。
「…ん?どしたさ?なんかしんみーりした感じになっちまってっけどさ」
「いや、君も意外とええ奴なんやなぁってな」と烈馬。
「…は?」?マークを頭の上に生やす時哉。「俺はいつでもいい奴さ」
「その返しもどうかと…」食べた唐揚げが2桁個に突入していた柏木がツッコむ。
「ま、とりあえず何か歌うさ。何かリクエストあるヤツ居るさ?」
「あ、じゃあ…」知之が手を挙げて言う。「新年ってことで、U2の"New Years Day"とか…」
「あー、あれさね。おっけー」時哉は手早くギターのチューニングを行うと、早速ギターを鳴らして歌い始めた。

その頃、羊谷家の前に一台の黒い車が停まった。
「此処があのヒトの家か…」
運転手は煙草を灰皿の中に突っ込むと、車のエンジンを切った。
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おまけ
時哉パパの誕生日を1月2日に設定しちゃった責任を取りつつ書いてる感はあります(笑)。
柏木刑事がちゃんとたっぷり出てきたのも今回が最初かな?
烈馬のハリセン技も小説でちゃんと出したのは初めてですかね。
ちなみに「鳥渡」とか妙に小難しい感じが多めになってます(笑)。「鳥渡、千尋ー」というつかさの台詞が、ひとつの名前みたく見えるのは気の所為です(ぇ
なお「New Years Day」という曲は、ぶっちゃけ全く知りません(爆)。新年っぽい洋楽の曲を探してよーやく見つけたものだったりします^^;

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