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Family tale

File2 親の心、子の心
ぴんぽーん♪

時哉が歌い終わると、再びチャイムが鳴った。
「何だよ、今日は客がよく来るなぁ…」不機嫌そうな顔を見せる惣史。
「あ、もしかして僕達邪魔だったっスか…?」知之が言う。
「いやいや、そんなことないさ」笑って答える時哉。「あ、弥勒、ギターケースに片付けといてくれさ」
「あ、おう」
時哉は秀俊にギターを渡すと、2回目のチャイムが鳴る玄関に向かう。
「ほいほい、今出るさ…」時哉がドアを開けると、そこには長身でメガネをかけた20代後半くらいの青年が立っていた。「あ、えと…」
「羊谷刑事の息子さんですか」その青年は中指でメガネを正しながら言う。「羊谷刑事はご在宅かな」
「あ、オヤジの知り合いさ?」やけに若い知り合いが居るもんさ、と時哉は思った。「んじゃ今オヤジ呼んで…」
「何の用だ、霞」
「へ?」時哉が振り向くと、其処には既に惣史が立っていた。
「非番の時にすみませんね」霞と呼ばれたその青年は、何処か自信有り気な笑みを浮かべて言う。「ただ、一応上司には敬称くらいつけた方が宜しいと思いますよ」
「え、アイツ羊谷の親父さんの上司?」リビングから様子を窺っていた秀俊が言う。「ぜってぇ親父さんの方が年上に見えんだけど…」
「ええ、彼、私と同い年だもの」と柏木。「彼は霞 春彦。神奈川県警の警部だから、私達や羊谷刑事の上司に当たるわ」
「あの歳で警部ってことは…」烈馬が言う。「いわゆる"エリート"っちゅうヤツやな」
「はい…しかもお父さんやおじいさんも警察の要職を務めていたそうです」と勝呂。「何ヶ月か前に県警(ウチ)に転任してきていきなり警部だから、警部補であるお師匠様にとっては少し疎ましい存在みたいです…」
「そうなんっスかぁ…」知之が言う。「それじゃあ、なんでそんなヒトがわざわざ此処に…?」
「…その理由なら」冷汗を足らして玄関の方から目を逸らす勝呂。
「…大いに思い当たるフシがあるわね」同様の表情を見せる柏木。
「…来客の様子を覗き見るなんて、余り良い態度とは思えませんね」
「え゛っ…」勝呂と柏木が振り向くと、其処には霞が立っていた。
「もっとも、仕事をサボってこんなところに居るという方が、警察官としては余っ程良い態度とは言えませんが」
「うわー、スゴイ迫力…」台所からその様子を窺(うかが)い見る千尋。
「あ、す、すみません、霞警部…」平謝りする勝呂。
「…厭味はいいから、さっさと用件言ったらどう?」と柏木。「わざわざ此処まで出向くってことは、何か急用があるんじゃないの?」
「ええ、2つ程ありますよ」霞はきっぱりと言う。「まずは、桜木町で殺人事件です」
「さっ、殺人っ…?!」知之の声に、寝そべり男の瞳が開いた。
「桜木町にある丘野物産社長丘野 庸介氏の自宅で、丘野氏の秘書である神坂 姫乃さんが死体で発見されたんです」
「それやったらまだ殺人かどうかは…」と烈馬。
「神坂さんの頭部に鈍器のようなもので殴られた傷があっても、ですか?」
「…それ先に言うてください」烈馬の心の中にも霞に対する嫌悪が生まれ始めた(笑)。
「…兎に角(とにかく)、現場に行ってみたらどうだ」
「え?」振り向くと、惣史が缶ビールを持って立っていた。その顔は少し赤い。
「お、オヤジ、いつの間に酒を…?」
「こんなトコでぐだぐだ言ってねぇで、さっさと現場行って関係者の事情聴取でもしろってんだ」惣史は更に缶ビールをあおる。
「…流石は県警の古株警部補さんですね」と霞。「勿論、そうする積もりですよ」
「あー、だが俺は今日非番だし、何よりもう酒飲んじまったなぁ…」少しわざとらしく言う惣史。「人手は多い方がいいんだろ?」
「それは…そうですけど…」と勝呂。
「…しゃーねーな、俺がついてってやるよ」
「え?」霞が振り向くと、其処には目をぱっちり醒ました祥一郎が起きて立っていた。
「た、篁君…?」驚いた様子の知之。
「篁…そうか」と霞。「君があの篁君ですか。噂はかねがね聞かせてもらっていますよ」
「ふーん、そいつは自己紹介する手間省けていいぜ」かけてあった上着をまといながら言う祥一郎。
「ですが、捜査に一般人の、しかも高校生の手を借りるなどと言うことは本来あってはならないことです。人手くらい、警察なら幾らでも用意できますので、君はどうぞそのこたつでごろごろしていてください」不敵な笑みを浮かべて言う霞。
「ああ、そう」と祥一郎。「でもなー、勝呂刑事は来て下さいオーラをめっちゃ出してるし、俺は睡眠不足を補いたてでコンディション抜群だしなー…」
「うわ、珍しく篁が喧嘩売ってるさ…」小さく言う時哉。
「そうですか…それではこうしましょう」霞は中指でメガネを上げて言う。「君がこの事件を解決できたら、私は君を認めてあげましょう。もしできなければ、もう二度と警察の捜査に首を突っ込まないでください。よろしいですね」
「なっ…」目を見開く勝呂。
「推理勝負ってわけか…別に俺はいいけど?」
「ちょ、篁君…」制止しようとする知之。
「別にいいだろ、どーせヒマだったんだしよ」と祥一郎。「んじゃ勝呂サン、柏木サン、行こうぜ」
「あ、ちょっ、篁さん…」玄関に向かう彼の後をついていく刑事2人。
「…全く」ため息混じりに言う霞。「面白い人ですね、彼は」
「まあな」惣史は缶ビールを一口飲んで言う。「ほら、あんたもさっさと現場行け、霞“さん”」
「……」霞は踵(きびす)を返して玄関に向かった。
「ところで…」祥一郎が靴を履きながら勝呂らに尋ねる。「あのえっらそーなあんちゃん誰?」

「がんばれよー」
空いたビールの缶を持ちながら、少し面白そうに言う惣史。
「ほ、ホントにいいんっスかね、羊谷刑事…」小声で言う知之。
「なんか、羊谷刑事はこうなるよう仕組んだ風にも見えんねけどな」と烈馬。
「はあ?なんで?」秀俊はふと周囲を見た。「…あれ、ところで羊谷は?」
「え?」全員が辺りを見廻す。「そ、そう言えばどこにも…」

桜木町駅から程近いところにある大きな邸宅の前に、2台の車が停まる。塀が高く、庭に高い木が立っていて、家の中の様子は窺い知れない。
黒い車からは霞が、そして赤い車からは運転手の柏木と助手席の勝呂、そして男子高校生が2人降りてきた。
「…で?なんでお前まで此処に居んだよ、羊谷」
「え、なんでって…一応ほら、オヤジの窮地だしさ」屈託無い笑顔で答える時哉。
「全く…どういう教育を受けているのでしょうね」ため息混じりに云う霞。
「…それ、どういう意味さ」
「別に、気にしないでください」霞は邸宅の方へ向かう。「ほら、ついてきてくださいね」
「…なぁ、霞サン」ぽつりと云う時哉。
「…何ですか?」霞は立ち止まり、だが振り向かずに云う。
「もし、俺らが勝負に勝ったら、オヤジのことを苔みたく罵んのやめてくれ」
「羊谷…」時哉の真剣な眼差しに、祥一郎も驚く。
「…いいでしょう」再び歩みを進める霞。「君たちが勝ったら、ね」
「…それじゃあもしかして、時哉君がついてきたのって…」と柏木。
「すみません、勝呂サン、柏木サン、俺の我儘(わがまま)につき合わせちゃってさ…」時哉は云う。「でも俺、オヤジがあんな風になじられんの我慢できなくてさ」
「分かりました、僕達に出来ることなら出来る限り協力しますよ」
「ええ、私達も霞警部には気に入らない部分(コト)が多かったしね」
そう云って一行は邸宅の中に入っていった。
「…この勝負しかけたのは、オレと霞だけどな」祥一郎がぽつりと呟いた。
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おまけ
いよいよ参上しました、霞警部。
この厭味加減はなかなか難しくもあり楽しくもありという感じでした。
ま、今後祥一郎とかとの絡みを描くのも楽しみでございますv
あ、ちなみに神奈川が舞台のクセに、実在する神奈川の地名が出てきたのは多分今回が初めてです(爆)。

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