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恋人はネコ☆ 〜Cat I love you!〜

13ひき目☆ロリータ・ストロベリー・イン・サマー
「ったく…こんな夜中に急にアイスが食べたいだなんて…」
コンビニの袋をさげて、美菜緒は夜道で一人ごちていた。
「しかも陽が沈んじゃっててよーじは買いにいけないからって、私がパシられる形になるんだもんなー…まあ、それにこたえちゃう私も私だけど…ん?」
美菜緒はふと、通りがかりの公園の入り口の茂みに、何かが落ちているのを見た。
「なんだろこれ…って、ちょっとこれ、まさかスカート?!」
美菜緒が拾い上げたそれは、紛れも無く小学生くらいの女の子用のスカートであった。
しかも、更に美菜緒が周囲を見てみると、カットソーやら靴下やら、数々の衣料品が散在していた。ちょうど女の子1人分といったところか。
「な、何これ…まさか何か事件…?!」
美菜緒は胸の高鳴りを抑えきれぬまま、ふと茂みの中を見てみた。
「…えっ…?」
そこで美菜緒が見たのは、ぐったりとした表情で倒れこむ白い仔犬の姿だった。
「…えーっと…これってまさか…」
美菜緒は、ポケットから携帯電話を取り出した。

その翌朝。音桐家の食卓を囲む3人。
「いやー、それにしても、犬養にこんなかわいい妹さんが居るなんてねえ…」
「あ、えっと…ありがとうございます…」
白くて長い髪をした少女が、少し顔を赤らめて言う。
「ホント俺からもありがとうございます。犬の姿で倒れてた綾を美菜緒先輩が見つけてくれてなかったら、こいつどうなってたことか…」
と鉄。
「んー、でもあれは私のほうがびっくりしたわよ。女の子の服が一式落ちてたのを見た時は何か事件?!とか思ってどきどきしたもの。それで近くに犬の姿を見つけたから、もしかしてと思って犬養に電話してみたら妹さんだったなんて。あれ、他のヒトに見つかってたり、そのまま朝を迎えてたりしたらそれこそ大事件だったよ」
「ホントにすみません…」
綾と呼ばれたその少女はそう言ってうつむく。
「いや、まぁそれはいいんだけどよ、お前なんでそんなとこで倒れてたわけ?まさかやっぱり迷子になったんじゃ…」
「あ、ごめんなさい…予想通り迷子になったの…」
「あ、そう…」
おろおろした表情の綾と、呆れ顔の鉄。
「え、何、綾ちゃんってそんなに迷子になりやすい子なの?」
「ええ…引っ越す前は家から直線で行けるところでもよく迷ってて、学校まで俺が送り迎えしてたくらいなんすよ。だからこっち越してきた時は小学校のど真ん前の家を選んだくらいで…」
「あ、それでも何度か登下校で迷子になったことがあるんですけど…」
「…それって逆にすごいね…」
美菜緒は苦笑するしかなかった。
「で、それでなんで昨夜は迷子になったんだ?」
「あ、それは…」
また顔を赤くして頭を垂れる綾。
「…お兄様に、会いたくって…」
「…えっ…?」
鉄は、思わず動きを止める。
「あの…お兄様って最近全然家に居ないから、心配になって…それで、お兄様が書いておいてくれたこのよーじって人の家を訪ねてみようとしたんですけど…迷子になってしまって…」
「あー、確かにここんとこ、犬養ってずうっとこの家に居座ってるわねー。気がつけば私もあんたの分の食事までフツーに作ってたし、こーんなかわいい妹さん放っといて、何やってんのかねえ、お兄様?」
嫌味っぽい美菜緒の言葉が、鉄の心臓をぐっさぐさ刺す。
「あ、えっと、お、お兄ちゃんが悪かったよ、綾…んじゃあ今日は、一緒に帰ろうか。また迷子にならないように、な」
「あっ、ありがとうございますっ…」
鉄に頭を撫でられながら、綾は嬉しそうに笑った。
その時、リビングのドアを開ける音がした。
「…ふぁれえ、なんか見たことない女の子が居るなのお…?」
「…おはよう、よーじ」
空気読めよ、と言わんばかりの表情で美菜緒が言葉を吐いた。

その夜。
「んー、犬養が居なくて久々に2人きりで過ごせるっていいわねーw」
美菜緒はよーじと一緒にリビングでごろごろしながら、心から楽しそうな声で言う。
「そんな、鉄っちゃんをジャマモノっぽくゆっちゃかわいそうだよおー」
言葉とはうらはらに、よーじも嬉しそうな顔をしている。
「まぁでも、今日はゆっくりのんびり暮らしま…」

ぴんぽーん♪

「…ふぁ、誰か来たなのお」
「…なるほど?このマンガは私たちに安らぎの時間を与えてはくれないってわけね?」
美菜緒は深い深ーいため息をついた。

「よーじお兄ちゃんっ、こんばんはーっw」
玄関を開けると、そこにはある種異様な姿があった。
白いネコ耳やしっぽを生やし、そして、小学生の筈なのにセーラー服をまとった少女。
ドアを開けた相手は、しばしきょとーんとしていた。
「…なんだ、美菜緒か」
少女は、これ見よがしに舌打ちをしてみせる。彼女にとって残念だったのは、ドアを開けたのが愛しのよーじお兄ちゃんではなく、にっくき恋敵である(と彼女が勝手に思っている)美菜緒だということだった。
「えっと…よーじだったら中に居るけど…どうしたのかな、ゆんちゃん?」
「ふぇ?ゆんが来たなのお?」
美菜緒の声を聞きつけ、よーじもリビングからいそいそと出てくる。
「あっ、よーじお兄ちゃーんっww」
ゆんはよーじの姿を認めると、美菜緒の脇をすり抜けてよーじに飛びつく。
「ふぇっ、ゆ、ゆんっ?!てゆうかっ、そのカッコどうしたなのおっ?!」
よーじは目を丸くしながらも、ゆんに抱きつかれるがままになっている。
「えーっ、だってだって、男のヒトってセーラー服が好きなんでしょ?“もえぞくせー”って言うんだよね?」
「…どこでそんなの覚えたのよ、このマセガキちゃんは」
一人ノケモノにされたままの美菜緒がぽつりと言う。
「でもよーじって、そんなの好きだったっけ?」
「えー?そりゃちょっとはかわいいかもって思うケドぉ、でも別にとりわけ好きってわけでもないよお?んなコトゆったら、オレの学校の女の子、みぃんなセーラー服着てるもん」
あっけらかんと発せられたよーじの言葉に、ゆんの体は稲妻に打たれたような衝撃を受ける。
「そっ、そんな…よーじお兄ちゃんに気に入ってもらいたくて、わざわざヤ○オクで過酷な競り合戦を制してゲットしたのに…」
「うわっ、そこまでしたの…?ていうか12歳ってヤ○オクってやっていいんだっけ…?」
美菜緒から惜しみないツッコミを浴びせられるゆんだったが、そんなことくらいでへこたれてくれるゆんではない。
「…いいもんいいもんっ、もしかしたら万が一そんなことがあるかもしれないと思って、別の手も用意してあるんだからっ。ちょっとこの部屋借りるよっ!絶対に見ないでよねっ!」
そう言うとゆんは、たくさんの袋を手に一室(ちなみによーじの寝室)に勝手に篭城を決め込んだ。
「なんか、ツルのおんがえしみたいな捨てゼリフだったなのお」
「…これは夜遅くまで終わんないわね…梶助さんに迎えに来てもらおうか?」
「そーゆえばさぁ、ゆんって耳とかしっぽとか生やしたままここまで来たのかなぁ?」
「まぁ…あのカッコしてたら、耳とかしっぽとか生えてても不自然ではないわね…」

十数分後。
「じゃーんっ!これでどうだーっ!!」
立てこもっていた部屋から出てきたゆんは、セーラー服の代わりにフリフリのメイド服を身にまとっていた。無駄にキラキラ多め&くるくる廻ってスカートをふわっとさせまくっている。
「うわー…なにこのどっかの萌え漫画にありそうな絵…」
著作権の問題などを内心冷や冷やしながら言う美菜緒の言葉はとりあえず無視して、ゆんはよーじの前に立つ。
「さあっ、よーじお兄ちゃん!こんなカッコのゆん、どう思う?!」
「…んーっと…」
すっかり困り果ててしまった顔のよーじだが、とりあえず空気を読んで返事をしてみる。
「えっと、うん、か、かわいいんじゃない、かなぁ…」
「…これもハズレかー…よしっ、それじゃあ次っ!」
ゆんはそういうと、また部屋に戻っていった。
「…よーじ、ごまかすのヘタすぎ」
「ごめんなさいなのぉ…べつにオレ、鉄っちゃんみたいにメイドさんにそんなきょーみあるワケじゃないし…」
「…犬養はメイド萌えなわけ?」
若干ヒキ気味で美菜緒はツッコんだ。

「次は魔女っ子なのね…」
今度は若干呆れ顔でツッコむ美菜緒。フリルが色々ついた魔法使いの衣装に、どこから持ってきたのかきらきらしたステッキまで振りかざしている。
「そっかー、今回はベタな萌え漫画を目指してるわけね…」
「よーじお兄ちゃん、これならどーお?」
自信満々な顔をよーじにぐぐいと近づけるゆん。よーじはびっくりして思わず泣きそうな顔になる。
「…ふぇ、そんなに近づかれるとちょっと怖いなのお…なんかのろわれちゃいそうなのお」
「うーん…じゃあ次っ!」
ゆんは足早に部屋に戻る。
「てか、“呪われちゃいそう”はツッコまないどいてよかったわけ?んでもって、あの子は何着用意してきてんのよ…」
涙目のよーじをなだめながら美菜緒はつぶやいた。

それからも、チャイナだったりくのいちだったりシスターだったり巫女さんだったりあえての男装だったりと、様々な格好に着替えてはよーじにフラれていくゆんであったが、全く勢いを衰えさせるふうもなく、自信作(?)だという次の衣装に着替えていた。
「…ほんっとに何着あんの…?そして全部着るのか…」
もうぐったりという表情でつぶやく美菜緒。ちなみに現在午後11時。
「オレもうねむたいなのぉー…」
「どうしたら終われるのかしらね…ん?」
「んー…?どうかしたのぉ、みなお?」
「これ…さっきゆんちゃんが着てたメイド服よね?」
着替え中の部屋の前に、無造作に置かれたメイド服。
「ふぁ、ほんとだぁ」
「…何をどうやったらこんなとこに脱ぎ散らかされた状態になるのかしら?…あ、ねえ、私ちょっとイイコト思いついちゃったんだけど」
微笑みを浮かべながら言う美菜緒。
「ふぇ、もしかしてみなおがソレ着るなのお?」
次の瞬間、よーじの頭には大きな大きなげんこつができていた。
「うわーんっ、痛いなのおーっ;;」
「な、何を言ってんのよあんたはっ!それにこれ、ゆんちゃんのサイズだから私じゃ入らないしっ…」
顔を真っ赤にしてツッコむ美菜緒。
「それじゃあ、どうするなのお?」
「それはもう、決まってるじゃないのよw」
美菜緒が向ける満面の笑みに、よーじはちょっと背筋をひやりとさせた。
「…ふぇっ?」

「じゃーんっ!今度こそよーじお兄ちゃんを落とせるはずのナース服だよっ!どう、よーじお兄ちゃ…ん?」
白衣姿で勢いよくドアを開けたゆんだったが、次の瞬間、その体は硬直してしまった。
「ふぁっ、おかえりなさいませえ、おじょーさまぁ☆」
ゆんのほうを向いて屈託の無い笑顔を見せるのは、メイド服をばっちり着こなし床にぺたんと座っているよーじだった。
「えっ、よ、よーじ、お兄ちゃん…?」
正直自分より何倍も女らしくかわいらしいよーじの姿に、ゆんの目は釘付けになってしまう。
「やっぱりよーじはこういう服似合うわねー。同じネコ耳メイドさんなのにこんなにもかわいくなっちゃうなんて。あんた男なのもったいないわよ」
「そんな、恥ずかしいよぉ、みなお…」
顔を赤らめるよーじの姿に、更にくらっとくるゆん。
「しっかし、もしかしたら似合うかも、とは思って提案してみたものの…まさかこんなに化けるとはねえ。正直私よりかわいいじゃない…あ、とりあえず写メ撮っていい?」
「えっ、あ、うん…」
美菜緒の携帯電話に、よーじは天然なのか計算なのか分からないがとにかくかわいらしいポーズでこたえる。
「…負けた…」
ゆんは(ナース姿のまま)その場に崩れこむのであった。
「にしても…こんなヤマもオチもイミもない終わり方でいいの?」

「…あれ、残高が…?」
後日通帳を見た梶助はヘコみにヘコんだらしい。ていうオチ。


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あとがき
えーと、無駄に第12話と同時公開にしてみましたが、どうでしょうかこの阿呆話(笑)。
最初はゆんのくだりだけで1話作る予定でした。
ゆんって元々ツンデレ系の萌えキャラっぽく設定してたんですが(ぉぃ)、
この暴走キャラ、使いづらくってしょうがなくて(コラ)、正直出番が想像以上に少なくて;
なので1回くらいマジで完全に萌え系な感じで動かしてみよう!と思いついたのが今回の話。
ま、最後はよーじの女装に持ってかれてしまうわけですが。憐れゆん。
で、実際それを書いてみたら、意外に尺が足らず、3分の1くらい余ってしまったんですよ。
それでどうしようかなーと思ってたら、第11話を上げた時の予告が「あのキャラの妹が!」になってたんですよね。
「そう言えば綾ちゃんだそうと思ったけど結局やめたんだよなー。じゃあここで入れちゃうかー。どうせ綾ちゃん初登場話で1話は作れそうもなかったしー(ひどい)」ってな感じで、急遽前半に綾ちゃん話を盛り込んじゃいました。
綾ちゃんもちょっと萌えキャラなつもりでした。まぁ今回はあんまりそんな感じもなかったですが、おいおいそんな感じにするつもり。がんばる。
なおこんな阿呆話でも一応伏線とか張ってあったりしますよん。
ちなみにタイトルはSweetSというグループのデビュー曲。綾ちゃんとゆんだからまぁこのタイトルかなーみたいな(笑)。冷静に考えるとこれがデビュー曲ってSweetSすごいよね。曲はふつうだけど。

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