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Nostalgia

File11 Zukunft 〜これから〜
「昨日風見が学校に来てたのは、朝霞に本当のことを打ち明けるためだったってことか…」
月曜日、登校風景。
「何でも、もう岐阜の山奥に家も買ってあったらしいっス。風見先生も朝霞君も岐阜の出身らしくて」
「はぁ…なんか後味悪い事件やったなぁ…」と烈馬。「そう言えば、岡村先生の退職理由聞いた?」
「ああ、あれだろ、ノーベル賞かなんかを取る研究するためにってやつ」
「ほんとにあのおっさん、教授っぽいもんなー」秀俊が言う。
「そうっスね、女の子が入ってきたら特に不釣合いになっちゃうっスもんね」笑って言う知之。
「え、女の子…?」
「あっ、莫迦(ばか)っ…」口走る烈馬。
「おい麻倉、それってどういうことなんだっ?!」知之の首を絞める秀俊。「吐けっ、吐けーっ!!」
「ううっ、く、苦しいっスぅーっ!!」知之の顔がみるみる蒼くなる。
「…ホントに吐くぞこいつ…」祥一郎がぼそりとツッコむ。

「ええっ、秀文(ウチ)が共学になるだとぉーっ?!」
教室に秀俊の叫び声が轟(とどろ)く。周囲の生徒は“何お前知らなかったの?”的視線で秀俊を見つめる。
「そうっスよ…」まだけほけほと咳をしながら言う知之。「先月の学校集会で校長先生が言ってたじゃないっスか…」
「仕方ねーだろ、オイラ集会の校長の話なんか始まって5秒で寝ちまうんだからよっ」
「甘いな、オレなんか2秒で寝れるぜ」
「何自慢しとんねん、篁君…」呆れ顔の烈馬。
「それじゃああの工事って…」
「うん…女子更衣室と新しい部室、あと女子トイレが出来るんっス…」
「うわー…オイラ音楽部に入ろうかな」
「音楽室からすぐあの建物が見えるからって随分安易な理由やなぁ」
「うるせえよっ」
「それにしても…」知之が言う。「やっぱり今日、羊谷君来ないんっスかね…?」
「ああ…あんなことがあったからな…」

「ただいまー」
リビングのドアを開ける惣史。ソファーに、寝転がったままの時哉。
「…お前、落ち込むなら電気つけたままにすんなよ」
「…俺、暗いの苦手さ」
惣史の方を見ようとしない時哉。
「……」時哉の前にしゃがみこむ惣史。「…ていっ」
「痛っ?!」思わず飛び起きる時哉。「な、なんで急にデコピンっ…?」
「らしくもねえことしてんなっての」惣史は、立ち上がってテーブルの上にある携帯電話を投げ渡す。「ほれ、見てみ」
「え…?」時哉は携帯電話を開けてみた。“着信16件 新着メール9通”の表示。更に操作すると、こんな表示。

08:01 マクラ
08:05 矢吹
08:19 たかむら
08:26 マクラ
08:29 矢吹
09:36 弥勒
12:38 マクラ
12:44 矢吹
13:10 弥勒
15:20 マクラ
15:21 弥勒
15:22 矢吹
16:31 マクラ
16:57 たかむら
18:20 矢吹
18:59 弥勒

「あいつら…」微笑んで携帯電話を見つめる時哉。
「それと…」惣史は郵便物の中から一枚の葉書を取り出した。「これ」
「え?何さ…?」

この度、私達は結婚することになりました。
つきましては下記の日時で披露宴を行うことになりましたので、どうぞお越しください。

杜崎 拓哉(もりさき・たくや)
猪又 晶(いのまた・あきら)

「猪又 晶って、まさかあの亥のアキラ…?!」
思わず葉書を凝視する時哉。
「そうか、あいつ結婚するのか…あんな男勝りだったのに…ん?」
葉書の隅に、手書きの文字があった。

ユースケも近くに住んでるらしいね
もし会ってたら一緒に来て欲しいな
絵取のみんなでまた仲良く話そうね

「…そう、か…」
時哉は、窓の外を見た。
「会いに、行こっかな…」
3月の空には一番星が煌(きら)めきだした。


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おまけ
というわけで、めでたしめでたし。
37000字の長丁場、お互いお疲れ様でした(笑)。

さて、この話全体に施した大トリックなんですが、実はそれは、「井上 暁犯人説」に読者を引っ掛けさせよう、というものでした。
まず第2話冒頭でちらっと井上を出しておく時点で妙に怪しく(名前は出てないけど)、第3話で七不思議提供したりタレコミしたりしてもっと怪しくしておくと。
そして第6話の回想シーンが一番のクセモノ。ここにはまず、時哉のセリフ「最初に見つけた奴は何やってもいい」の箇所が、寺林殺害の第一発見者が怪しい、というヒントがあったのですが、それと同時に引っ掛ける罠も置いてました。
それが「アキラ」という人物の存在。この子、井上と同じで一人称がひらがなの「おれ」なんですよ。しかも第3話の時哉のセリフによれば、こやつは「亥のアキラ」らしいということもわかります。
此処で勘のいい読者の方には一つの仮説が立ったことでしょう。「辰のユースケ」は「たつかわ」、「未のトキヤ」は「ひつじたに」なら、「亥のアキラ」が「いのうえ」で、「暁(さとし)」という字が「あきら」とも読める。つまり、「亥のアキラ」こそが「井上 暁」本人なのではないか、と。
しかも第8話ではアリバイが一番あやふやだったりして怪しいし、七不思議の発案者もこいつっぽいし、「亥のアキラ」が「辰のユースケ」に何か恨みを持っててこっそり復讐でもしようとしているのではないか、と。他の登場人物に「池上」が居る上で、それによく似た「井上」という名前がもう一人居るのは妙だ、と。
でもコレこそが僕が用意した最大のヒッカケだったのですよ。アリバイやら七不思議やらについては第10話で明かされてる通り(行動を黙秘したのはピアノの練習をしてたから、ですよ)。
そしてこの仮説を完全否定するのが最後の最後に出てくる結婚式の招待状。此処に書かれた新婚夫婦の名前のうち、「杜崎 拓哉」はどう見ても男。となると「猪又 晶」は女。その後の時哉のセリフにもこの猪又が「亥のアキラ」であると明記されている上に「男勝り」とある。つまり「亥のアキラ」は女の子だったのですよ。
でも第6話で「おれ」って言ってるじゃん、と思うかもですが、そこの字の文をよく読んでください、時哉や祐介を指す時には「少年」と言うこともありますが、アキラについては絶対「少年」って使ってません。誰も男の子だなんて言ってないんです。
そもそもアキラ=井上なら、小6以来会ってなかった祐介ですら一目で気づいた時哉が、その後もしばらく一緒だったアキラ(ここでは井上と仮定)を見て何のリアクションもしてないのは不自然じゃないですか。時哉の中ではアキラ=女の子があるので、井上をアキラだと考える隙はひとかけらも無かったのです。
と、いうわけで、引っかかった皆さんごめんなさい(笑)。この手の誘導はシリーズ1作目「Meaning of Edge」から時々やってるんですが(その時は烈馬を犯人だと思わせようとしてました)、今回はたくさん盛り込めて僕は楽しかったです(笑)。

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