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Sleepless Mystery


第1話 〜お酒は二十歳になってから。〜

「え?合コンっスか?」ファーストフード店の一席での会話。
「そう。今度わたしの同人仲間の女の子と合コンすることになったの。でも男の子が3人足りなくて…」と茶色の長い髪を掻きあげながら言う千尋。
「同人、って何さ?」フライドポテトをかじりながら羊谷が訊く。
「あ、わたし同人誌やってるの。桐生奏子(きりゅう・かなこ)先生の漫画のパロディが中心なんだけどね。それで、その活動を通じて知り合った友達が来るの」千尋が説明する。
「へー…」
「それで、男の子3人が足りないから、篁クンと麻倉クン、羊谷クンに頼もうかなってね」
「まぁ矢吹は予約済みだからな」と篁。矢吹は前回の話(Colours)で千尋と付き合い始めたのだ。
「別に僕は人数合わせくらいなら行ってもいいっスけど…」麻倉がジュースを飲みながら言う。
「俺もどうせその日はオヤジいねぇし、構わないさ」と羊谷。
「それじゃオレも行くか…どーせヒマだし」篁もOKを出した。
「よっしゃ、ほな…つかさちゃん、ちょっと来て」矢吹は店内を掃除している、金髪のボブカットで目元にホクロのあるアルバイト風の女性を捕まえて言った。
「ん?何の用?烈馬くん」どうやら彼女は矢吹の知り合いらしい事は見て取れた。
「今度の合コンのことやけど、メンツ決まったから」
「あ、そう?ありがと」そっと微笑んで、彼女は店内の掃除を再開した。
「今の誰さ?」羊谷が訊く。
「ああ、彼女はその合コンの参加者の一人や。古閑 つかさちゃんって言うねん」
「へー…」麻倉はつかさの後姿を見つめていた。

そして日曜日、合コン当日。
「ここが合コン会場や。もう千尋たちは来てるはずやで」と矢吹。
そこは大通りから少し外れた場所にある小さな喫茶店のような感じだった。矢吹の話だと、食事なども出来るちょっとした穴場だという。
「行っとくけど矢吹、俺達は人数合わせで来てるだけさ。真剣に恋人を探しに来たってわけじゃないさ。なぁ、マクラ」
「う、うん…」
4人は店の中へ入っていった。

「あっ、烈馬!遅かったじゃない」千尋が矢吹たちに言う。
千尋の隣には合コン相手と思われる3人の女性が座っていた。
「あ、あれ…?3人っスか…?」麻倉が言う。
「おい矢吹!オレ達はただの人数合わせのはずじゃ…」篁が矢吹に耳打ちする。
「ちゃんと篁君達連れてきたで!」矢吹はそれを無視して千尋達に近づく。納得の行かないまま、篁達も矢吹の後に続いた。
「あら、案外カッコいいじゃない」ウェーヴのかかった茶髪の女性が言う。
「あ、わたしカレがタイプかも」その隣の黒い三つ編みでメガネをかけた女性も言う。
「こら綾美、まだ早いわよ?」その隣に座っているのは、先日会った古閑 つかさだった。
「ほら、祥一郎クンたちも座って。さっそく始めましょ!」千尋が勧めるままに、席に着く3人。
「ほんなら最初は自己紹介からしよか。あ、俺と千尋は今日は司会やから。ほな澪ちゃんから」と矢吹。
「はーい。私は板倉 澪。蓮井(はすい)高校1年で、趣味はハイキングとイラスト。来週も御崎(みさき)山に登るつもりなの。よろしく!!」茶髪の女性である。
「次わたし?わたしは菅沼 綾美。澪と同じ蓮井高校1年、趣味はイラストと料理です、よろしくね!」とメガネの女性。
「あたしは古閑 つかさ。4人の中では一番年上の18歳。千尋と2人で同人サークルやってるの。趣味はスポーツ観戦とイラストかな。よろしく。」
「それじゃ次は男の子ね。知之クンから」と千尋が言う。
「え?ぼ、僕っスか?えっと、麻倉 知之っス。秀文高校の1年生で、趣味は…うーん、特にないっス(^^;)」
「カワイイんだ、知之くん」とつかさ。
「え…(*・・*;)」ちょっと照れる麻倉。
「ん?次は俺さ?俺は羊谷 時哉。秀文の1年、趣味はギターさ」
「ギター?もしかして今持ってたりする?」澪が言う。
「え?ああ、持ってるさ…」ギターを取り出す羊谷。
「ねぇねぇ、何か弾いてよ!」と綾美。
「別にいいけど…」そう言うと、羊谷はギターで弾き語りを始めた。

――永遠に廻り続ける時計(とき)をもし戻せるのなら
  君が傷ついていなかったあの頃まで
  君の涙声は僕に 何を訴えているのか
  分からない僕が もどかしく感じた
  dear my precious friend
  dear my favorite friend…

「うわーっ、すっごくカッコいいー!!」綾美も澪も羊谷を気に入った様子だ。
「そ、そうさ?」ちょこっと赤くなる羊谷。
「ほな最後、篁」と矢吹。
「オレ?オレは篁 祥一郎。秀文高校の1年生で、趣味は読書かな」
「え?もしかして、あの祥一郎くん?」とつかさ。
「ん?」
「あ、この前の着付教室での事件のこと、彼女たちにも話したのよ。解決したのは烈馬たちと祥一郎クンのおかげだって」と千尋。
「へー、あの名探偵くんかぁ…」と綾美。

しばらくの間、話が続いた。
最初はあまりノリ気ではなかった篁達も、次第に言葉数が増えてきた。
そんなある時。
「あ、すみません、ビール2本もらえます?」綾美が言う。
「え?ビールっスか?」
「あれ?もしかして知之くんはお酒ダメ?」
「前に一度だけ、センパイに無理矢理飲まされて吐いた事があって…」
「そうなんだぁ…、それじゃ祥ちゃん(=篁)と時哉君は?」と澪。
「オレは…飲んだ事ねぇけど…」と篁。
「俺も飲んだ事ないさ。オヤジが刑事だし…」と羊谷。
「え?時哉くんのお父さんって刑事さんなの?」とつかさ。
「ああ、一応捜査一課の…」
「捜査一課って、もしかして殺人課ってヤツ?」澪が言う。
「すっごーい!」と綾美。
「ま、そんなカタイこと言わないでさ。2人とも飲んでよ!」と千尋が篁と羊谷にビールを勧める。
「お、おい、ちょっと…」抵抗する羊谷や篁を制して、千尋達は2人の口にビールを流し込む。
「う゛ーっっ!!(>_<ι)」

そして。
「ねぇおねーさん、もっとお酒ねーの?どんどん持ってきて!」お酒のせいで、かなりハイになっている篁。
「たくさん飲むっスねー…」
「あったりめーだろ?せっかくなんだからよ!」篁はそう言うと、ジョッキに入ったビールを一気飲みした。
「きゃー、カッコいい!」綾美が煽る。
「ね、ねぇ、マクラ…」
「どうしたっスか?羊谷君」
「ボク、もう飲めないよぉ…すっごく今気分悪いんだけどぉ…」こっちもお酒で性格が変わってしまっている。
「何言ってんだよ羊谷!もっと飲めよ!!」そう言うと、篁は羊谷に無理矢理ビールを飲ませる。
「うぅっっ!やっ、やめてよぉ…うぐっ」

10分後。
「…どうする?」
「二人とも、寝ちゃってるの?」
「そうみたいね…(^^;)」
篁と羊谷は、酒が回ってぐっすり眠ってしまったのだ。
「無理してあんなにお酒飲むからっスよ…」
「いや、少なくとも羊谷は飲まされてたんとちゃうか…」矢吹がツッコむ。
「それじゃそろそろ帰る?」澪が言う。
「そうね…」とつかさ。
「あ、ちょっと待って、わたしコーヒー残ってるの」綾美はコーヒーを流し込む。
「そう言えば私も…飲んどこっと」澪も残ったコーヒーを飲み干す。
「ところで、誰がこの2人連れて帰るの?」千尋が言う。
「せやな…羊谷君は家近いから俺がなんとか…」
「うっ…!」矢吹の言葉を遮るように、澪が突然コーヒーカップを落とした。そして、急に咳き込みはじめた。
「ど、どしたの澪…」綾美が近くにあった水を澪に飲ませる。が、澪はますます苦しんでいる。
「おい、どうしたんや?!」
「澪さん?!」
しばらく苦しんだあと、澪のもがきは止まった。
「…アカン、死んでるで」烈馬が言う。
「えっ…?!」
「ウソ…、そんな…」
綾美もつかさも驚いた表情だったが、依然羊谷と篁はソファーに横たわってぐっすりと眠っていた。
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