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よみのうた

閉幕


その後、この事件は日本中を動揺させた。メディアはやはり、こぞってモンスターペアレントを取り上げた。それに絡んで、日常生活に存在する様々なモンスターを取り上げている。多くの賢明なメディアはこれについて、あくまで客観的な視点に立とうとし、その立場から報道をしている。しかし、ごく一部の報道関係者は気がついていない。彼らこそ自分たちやその報道を揺ぎ無い正義だと信じてその価値観を押し付ける、「モンスターヒーロー」だという事に…。

「ねえ、パパ!お願いがあるの!」
「どうしたんだい?」
「車を出して。深月小学校まで行きたいの」
「ああ、いいけど…どうした、夏未?」
「清彦を殺したの。今から清彦の死体を教室に吊るすから、パパ、お願い、手伝って」
「…………ああ……………いいよ」
「やった、ありがとう!私、パパのこと、だ〜い好きっ!!」

新年度になって、深月小学校には多くの児童が入学した。事件直後の学校側の誠実な態度が、多くの保護者の共感を得たらしい。学校が出来てから初めての「1年2組」はプレハブでの授業を余儀なくされているが、それでも彼らは皆、一様に明るい笑顔を見せている。非現実的かつ感傷的な表現をすれば、館田清彦は、天国からこの様子を温かく見守っていることだろう。

「あっ、お兄ちゃん!」
月倉疾風はいつもの公園で、日向優奈と再会する。
「優奈ちゃん、こんにちは」
「お姉ちゃんは?別れたの?」
「もう、ひどいな…今日は1人ってだけ」
「な〜んだ。お兄ちゃん、言ってくれたら、私いつでも、お兄ちゃんのお嫁さんになってあげるね」
「ありがとう。気持ちだけもらっておくね」
「あ〜、ヒドイ〜!」
「ね、優奈ちゃん、学校は楽しい?」
「うん、すっごく楽しいよ!今日はね、みんなでお花の絵を描いたの!」
「本当?見せてくれる?」
子どもたちの笑顔は絶えない。それはこの町を、優しく、包み込んでいく。


舞台裏

皆様、深駆の小説「よみのうた」、お楽しみいただけましたでしょうか?まずはこの小説を読んでくださった皆様に感謝感謝です。どうもありがとうございます♪
今回はネタバレもほとんどないので、こちらからお読みくださっても大丈夫だと思いますが、できればやはり、皆様には先に「よみのうた」を読んでいただければ、と思います。
今回の作品、テーマは「学校の怪談」。でもそこまでホラーな印象はなくって、深駆的にはかなり社会派に近い匂いも感じます。これは…テーマ自体は割と早い段階で思いついていたんですけど、もちろんこのテーマにはマンガ「金田一少年の事件簿」シリーズの名作「学園七不思議殺人事件」という、この手の金字塔的前例がありまして。そこに出来る限り近づくことなく、お話を発展させていくには…と考えて出来た作品です。ああ、でもやはり「放課後の魔術師」(注、上記の事件の犯人の通称。マンガの中では「不動高校の七不思議を全て知ってしまうと、放課後の魔術師に殺されてしまう」といわれていた)は使ってしまった(苦笑)。今回、美寛ちゃんの推理小説ネタはこれとクリスティの某作品(トリックに関わるから言いませんけど)だけ。疾風関連のゲームネタはゼロです。
今回の主眼はいわゆる「ワイダニット」に置かれています。かなりアクロバティック(というか非論理的というか…苦笑)な推理を展開してしまいますが、皆様お許しください。最近の深駆がそんな問題をよく考えているから、深駆的には今回の事件とその動機はスッと結びついたのですが、普段からこんな発想をしていないと、こんなの結びつかないよねぇ…(苦笑)。
最初の小ネタトリック連発は…本当に遊びです。あ、もちろん透明人間の元ネタは、某作家の小説ですよ(その小説の方が状況は格段に精緻ですので…)。BTBはねぇ、一番考えた。元ネタはもちろん、マンガ「名探偵コナン」の某事件で使われたフェノールフタレインなのですが…最初はプールの掃除に使う「塩素」とメチルオレンジ(酸性で赤く、中性とアルカリ性で黄色くなる指示薬)で、プールの水を赤くできないかな、とか思っていたのです。この案を速水さんに話したら、なんとプールの掃除に使う「塩素」は中性で、プールいっぱいの水を酸性にするには、超危険な量の酸を使わないといけないことがわかって断念。で、結局相当ユルいものに変えました。ま、ここらへんが安全面も考えると落としどころかなぁ、と。速水さん、その節はお世話になりました。でも実は、重曹ってあまり水に溶けないんだよね…(苦笑)。見逃してね。
今回は、かなり色々マズイところがあると深駆自身も思っています。普通そんなに簡単に事件直後の、しかも学校に入れるわけないし、トリックの面でもできるか不安なのがあるし、事件の真相も理詰めでは答えられないし…。ある意味、かなり実験的なものになっているかもしれません。皆様、できればどうか温かい心で見てやってください…って、多くの人はもう読みましたよね?じゃあ忘れてください(苦笑)。でも、深駆の思いや動機の扱い、その流れなんかは、個人的には上手く出来た方だと思っているの。ま…深駆は、こんなもんかなぁ、って(苦笑)。
とにもかくにも、読んでいただいた皆様、本当にどうもありがとうございます。今回が割と重かった気がするので、次回はもっともっと遊びな作品を書いて、皆様にももっともっと肩の力を抜いて、楽しく読んでもらえる作品にしたいと思っております。実現できるかなぁ…(苦笑)。それでは今宵も皆様が、笑顔で楽しい夢を見られますように…。

Dreamily Yours 深駆

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