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吟遊詞人7周年記念小説「ジョングルールの七不思議」

第1話 恋心/Written By 深駆
「…それで、美寛?俺たちはどこに向かっているの?この森のボスはソルジャー・ストンコング?」
私と疾風は、山道を歩いている。ううん、山道というよりは森の中、ね。少なくとも道は舗装されていない。いわゆる獣道だ。普通獣以外は通らない…ううん、獣だって通るかどうか怪しい道を、私と疾風は手をつないで歩いている。7月初旬の強い日差しも、森の中だと心地よい。う〜ん、でもちょっぴり湿度が高いかも。きっと昨日が雨だったからだね。昨日の雨がこの獣道にも、水溜りをいくつも作っていた。
「ボス…って、一体何の話?それより、もう少しで着くと思うの…だから疾風っ、もう少しだけ待って!」
さて、歩いている間に自己紹介。私の名前は雪川美寛。身長は154センチで、17歳。チャームポイントは瞳かなぁ。二重だし、大きめだし…うん、今でも十分可愛いけど、2次元にしてくれると、きっともっと可愛くなれると思うなぁ。今日はこんな道という事もあって、かなりカジュアルな服。髪型は、疾風の一番好きなツインテール。趣味は推理小説を読むことで、性格は…うん、そう、好きな人にとことん尽くすタイプ…かな?そして私の、この世で一番大好きな人…それが、今私の隣にいる月倉疾風。身長は169センチで、同じく17歳。私の幼なじみでもあるんだよね。サラサラの前髪、その奥に覗く凛々しくってちょっぴり情熱的な眼…。ああ、ホントにかっこいいの!趣味がゲームって言ったら、普通は眼鏡をかけたあんまりかっこよくない人を想像するかもしれないけど、疾風だけは特別だからね。性格は…うん、ちょっぴり無愛想。そしてちょっぴり秘密主義でミステリアス、かな?でも”Secret makes a woman woman.”って言うじゃない?疾風はもちろん男だけど…。そう、服もちょっぴり地味な服が多いかな?でも、似合うから別に気にならないの。今日着ている黒の長袖のジャンバーも、とっても似合ってる。それから、疾風は私にだけはすごく優しい。言葉は足りなくても、いつもその仕草や、表情や、目線が…私をときめかせて、虜にしてくれるの!もちろんそれ以上に、たまに聞かせてくれるちょっぴりキザな、でもカスタードクリームよりも甘〜い言葉が、私のことを、もうメロメロにしてくれて…。とにかく、私は疾風のことが大好き!!
…ノロケはそこまでにしろ、って?…もぉ、しょうがないなぁ。
「…あっ、見えてきた!疾風、あれ!」
「えっ?…何、あれ?…城か?」
そう、私たちが向かっていたところは、あるお城なの。こんな山奥にある割には、意外に綺麗かもしれない。
「…それで、美寛?何のためにわざわざ…」
あ、そうだ。私は疾風に何も言わずに、ここまで連れてきたんだった。じゃあ、ここで事情説明。
「んとね、招待状が来たの。私と、疾風に」
「はぁ?なんで俺たち二人に来るわけ?…誰から?」
「う〜ん、それが分からないのよね。差出人の名前には、ただペンネームみたいなものがあるだけ…とにかく、その人が言うの。私と疾風に、ここに来るように、って」
確かに雲をつかむような、要領を得ない話ではある。でも…なんか、面白そうだった。だから2人でこんなところまで、ある意味で冒険してきた。まるで何かのゲームみたいで、それだけでも私は満足。もちろん、隣に疾風がいることは大前提だけど。一方これを聞いた疾風は…当然だけど…訝しげな表情をしている。
「何それ?訳が分からないな…で、差出人の名前は?」
「ん?それが、自分は『7』だって」
「…え?それって数字の7?」
「うん、そう」
それを聞いて、ますます不審な表情を作る疾風。
「…例えばさ、美寛?美寛の友達に『奈々』とか『ナナ』とか言う名前の人は?」
「思い出せる限り、いないの。きっとそんな単純なことじゃないと思うけど…」
「確かに。…じゃあ英語読みでSEVENか?あのさ…」
疾風はそこで私のほうを見る。その顔は、私を心配しているようでいて…でもこれは、冗談を言う時の顔だ。
「美寛、ペロリンガ星人に洗脳されていたりとかしないよね?それか、今俺の前にいる女はピット星人の変装で、本物の美寛じゃないとか」
疾風の言葉の意味が全く分からない。…もしかして、この疾風こそ、偽物?
「…疾風、頭おかしくなった?私の愛で、治してあげようか?」
私と疾風は、2人で微笑みあう。
「ふふっ…美寛、ありがと。ま、相手が適当に選んだだけかも知れないしな。考えるだけ無駄か」
私たちは、城の方に少しずつ近づいていく。まだ城の全貌を見ることはできない。
「そういえばね、疾風…送り主が7って数字を選んだのは、自分を孤独だって思っているからかもよ?」
その言葉に疾風はきょとんとしている。
「…いきなり、何?」
「7という数字は孤独だって事。1から10のなかでは、仲間はずれなの」
「…例えば対称形じゃない、とか?」
「そんなの5とか6もそうじゃない」
「2や5はデジタル数字で点対称。6は…そうだな、9と2つ1組で点対称」
私はちょっぴり吹き出した。
「もぉ…。じゃあ3とか10は?」
「それは上下に線対称だろ?真ん中に横線を引けばいい」
「じゃあ4はどうする?」
「一画目と二画目の上の頂点をくっつけて書く4があるだろ?あれは左斜め45度に線を引けば線対称」
私は今度こそ笑い出した。
「もぉ、疾風ってば!ひどいこじ付けだなぁ」
「美寛はどんなことを思っていたの?」
私は意識して疾風の目を見る。そして、ゆっくりと話し始める。
「1から10までの数字を二組に分けてごらんなさい。そして、両方とも、グループの数字を全部かけ合わせるの。二つの積が等しくなることがありますか?」
疾風は最初こそ不思議な顔つきをしていたけど、私が言い終わると左手を口元にやった。これは、疾風が考える時の仕草。しばらく経って、疾風は口を開いた。
「なるほど…7が素数で、7の倍数が1から10の中には7しかないから、そんな事はできないのか。それで、7は孤独だって言いたいの?」
「うん、そういう事」
疾風は私を見据える。そして、ちょっぴり怒った声で話しかける。でも、この声を出す時の疾風はむしろ機嫌がいいくらいで、つまりこれは、わざと出す声なの。
「…で、美寛?これは何の引用?」
「ん?”The Perfect Insider”よ」
あ、私には好きな推理小説の文章を引用する癖があるの。でも、これはお互い様。疾風だって、好きなゲームのセリフをそのまま口にすることがある。これは、お互い割り切っている事だから、気にしない。だから、私は疾風が城を見上げなら言ったこの言葉も聞き流す。
「…少しだけ古びたグランエスタード城、って感じだな。中にシェイドマンがいないことを祈ろうか」
疾風の言う意味がどういう事なのかはよく分からなかったけど、やっぱり間近で見ても、意外に綺麗なお城だ。周りには堀のようなものがあって、そこには水も流れている。たぶん自然からそのまま流れ込んでくるんだろう。意外なことに、その傍には何台か車が止まっていた。私たち以外にも誰かいるのかな?…あれ、車があるって事はもしかして、車が通れるだけのもう少ししっかりした道があったんじゃ…。私は少し気を落としたけど、それを疾風に悟られないように、わざとその城のほうを注意して見る。正面の扉は木製で、今は閉まっていた。閉まった扉を見ながら、疾風が言う。
「…で?勝手に入っていいの?」
「うん、きっといいと思うよ」
疾風が扉を開けてくれる。私も続けて中に入った。

まず目の前に広がるのは吹き抜けの空間。もっとかび臭い匂いがするものだと思ったけれど、意外にもそんな匂いはない。でも、そこには何か異様なものがある。まず、私と疾風の目を奪ったのはそれだった。こんなもの…この空間に、全くそぐわないのに…。
「これって……笹?それとも、竹?」
疾風がそれを見つめたまま口にする。私はただ頷いた。そして、疾風の右腕にそっと自分の左腕を絡ませる。2人は一歩ずつ、前へと進んだ。
比較的小さな竹だった。たしか…比較的小さな竹を笹って言うんじゃなかったかな?だとすると、これはきっと笹だと思う。その笹が1本、ぽつんと植木鉢に植えられている。笹の近くにはテーブルがあり、そこにはご丁寧にも短冊と鉛筆が置かれていた。
「つまり、これは…七夕のお祝い?」
疾風は呆気にとられている。
「なんか…新手の都市伝説じゃないよな?」
「きっと違うと思うけどなぁ。…ね、疾風?せっかくだから何か書いていこうよ」
「………まぁ、いいか」
私と疾風は、短冊に思い思いのことを書いた。私がピンクの短冊、疾風は水色の短冊。…ピンクと水色が並ぶと、どうしても私は「恋のアリバイ崩し」を連想してしまう。きっと理系の疾風は、私が知らないゲームの情景かリトマス試験紙を想像しているだろう。
「ねぇ、何書いた〜?」
私は書き終わって、疾風にそう尋ねる。
「美寛には教えない」
「あっ、ヒドイ!!ふ〜んだ、じゃあ私も教えないもん!」
私と疾風は、お互いの短冊を見ないようにしながら、2人の短冊を並べて吊るした。


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