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吟遊詞人7周年記念小説「ジョングルールの七不思議」

第2話 ひとは大昔 海に棲んでたから/Written By 冴戒椎也
「うっわー…何やねん、ここ…」
すっかり立ち尽くしてしまう烈馬と千尋。
何を隠そう、彼らの前には大きくそびえ立つ城があるのだから。周りの堀には自然に流れてきているらしい水もたくわえられており、どちらかというと綺麗な印象を受けた。
…ちなみに、彼らは歩いていただけで、日本の外には出ていない筈である。
「なんか…テーマパークにでも出てきそうなところだねー…ちょっと綺麗かも」
「ていうかめちゃくちゃ胡散臭いやろ!なんでこんな山ん中にこないどでかい城とかあんねん!」
「んー…やっぱり知之クン達に電話して探しに来てもらったほうがいいんじゃない?ほら、何とかまだ電波入るみたいだし」
千尋はネコ耳の男の子のストラップがついた携帯電話を手にして言う。
「せやけど、さっき俺らが道聞いたおっさんの話やと、俺らがおったキャンプ場ってここからずいぶん離れたところやて言うてたやろ?それにほら、此処には人が居てるみたいやから、その人らに何とかしてもろたほうが得策やて」
「え?どうして分かるの?人が居るって」
「見てみ、あそこに車が何台か停まっとるやろ?んで、タイヤの跡がしっかり残っとる」
確かに、烈馬の指差すほうには、車に向かって続くタイヤの跡があった。
「でも、これがつい最近ついたものかなんて…」
「分かるて。昨日までこのへんは雨やったって、キャンプ場の人が教えてくれたやろ?車が昨日より前に来てたんやったら、タイヤの跡なんか雨に消されてまう筈や」
「そっかー…じゃあ、とりあえずお城に入ってみる?」
「ああ…薄気味悪うてしゃあないけどな…」
この二人の決断が、この後のストーリーを大きく決定付けるのであった。

「…ん?何や、また随分城とは似つかわしくないもんが…」
正面の木製の扉を入ってすぐの吹き抜けの空間で二人を待ち構えていたもの、それは、立派な笹の七夕飾りだった。
「た、確かに今日は7月5日で、七夕は近いけど、このお城の感じとはかなりミスマッチだね…」
「しかもなんでこいつ、植木鉢に植えてある感じになってんねん?ふつうは立てかけてあるだけやろ」
「だよねー…ん?」
呆れ顔の千尋だったが、飾りのすぐそばに置かれた机を見つけて言う。
「あ、烈馬、短冊と鉛筆が置いてあるよ」
「うわー…随分ご親切なこっちゃな…」
「…ねえ烈馬、折角だから、わたし達も何か願い事書かない?」
「…はぁ?」
悪戯っぽい笑顔で言う千尋に、烈馬は目を丸くする。
「な、なんでまたそんな七面倒臭いことを…」
「えー、だっていいじゃん。どうせ家でも学校でもやらないし、折角道具は用意してあるんだし、それにほら、他にも願い事幾つかぶら下がってるじゃない」
千尋は、笹に飾られたピンクの短冊を手に取って読み上げる。
「『疾風とずっとずーっと一緒にいられますように… 雪川 美寛』だってさ。ほらほら、こんなかわいい愛の願い事が書いてあるんだからさー」
「…ああ、そう、みたいやな…」
烈馬も別の水色の短冊を見て言う。
「さ、ほらほら、烈馬も書こうよ!」
「お、おい…っ」
千尋に引っ張られて、烈馬も短冊の置かれた机の前に来る。
(…でも、今の短冊の奴、多分千尋が読み上げた子の彼氏なんやろな…)烈馬は心の中でそんなことを思っていた。

『美寛の願い事が叶いますように 月倉 疾風』

そうして烈馬と千尋も、短冊を笹の葉にくくりつけた。
「ねえ、烈馬は何をお願いしたの?」
「阿呆、願い事は他人には見せへんもんやぞ。千尋かて自分の願い事は俺に見られたないやろ?」
「えー?わたしはいいけど?わたしと烈馬は“他人”どうしじゃないもの」
「…はあ。ほな、さっさと行くで」
「あ、ちょっと、もうちょいリアクションとかツッコミとか無いの?」
千尋は烈馬のあとについて、向かって左手にある扉のほうへ向かって行った。
その二人の姿を見ながら、七夕飾りはそっと揺れた。

「ね、ねえ、烈馬…さっきから階段上ったりとかずんずん進んでるけど、道分かるの?」
少し薄暗い廊下を歩く千尋。その手は烈馬のそれをしっかり握っていた。
「いや…せやけど、とりあえずなるべく埃の少ないほうを選んどるつもりやで。埃とか蜘蛛の巣があるっちゅうことは、最近人が来た形跡はないっちゅうことやからな…おっと、千尋、見てみ」
「え?」
千尋は烈馬が指差すほうを見た。扉だ。そして、うっすら光が漏れている。
「ようやく、誰か居てる部屋らしいな…すんませーん、誰か居てませんかー?」
烈馬は、ドアをノックしながら呼びかける。
「…聞こえてないのかな。それとも、やっぱり誰も居ないんじゃ…」
千尋がそんなことをつぶやいた瞬間、古惚けた扉はギギギと音を立てながらゆっくり開いた。
そして中から出てきたのは、スーツ姿の老紳士であった。
「お待ちしておりました…私、『7』様の執事をしております、漆原 史朗と申します。どうぞこちらへ」
「…へ?」
「せ、『7』…?」
烈馬と千尋は顔を見合わせる。
(何や、そのけったいな名前…) (わたしも知らないよ…どっかの韓流スターじゃあるまいし)
「さ、他の皆様もお待ちかねです。先を急ぎましょう」
そう言うと漆原と名乗る老紳士は扉の向こうに行ってしまう。
腑に落ちない表情のまま、烈馬と千尋も彼について部屋に入るのであった。

「おー、ようやく来たか、最後のお二人さんが」
「これで、役者が揃ったってわけだな」
ずっと暗い廊下を歩いていたため、漆原につれて来られた部屋の明るさに目が眩んでいた二人に、そんな声がかけられた。
「は、はい…?」
戸惑う烈馬をよそに、漆原が話を進める。
「それではご紹介致します。こちらが最後の参加者である、七梨 銀之助様と、名波 有里様でございます」
「「は?!」」
烈馬と千尋は同時に大きな声を上げてしまう。その場の全員がきょとんとする。
「ん、何だ、違うのか?」
ソファーに腰掛けて葉巻を吸っていた中年の男が訝しげに尋ねる。
「…い、いえ…その、自分達が最後だなんて思ってへんかったもんですから…」
烈馬は苦し紛れに笑顔を作りながら言う。
(ちょ、ちょっと烈馬、何いい加減なこと言ってんの?)
千尋は背伸びをして烈馬に耳打ちする。
(しゃあないやろ?!どうやら俺ら、その七梨と名波って二人に間違えられてつれて来られたみたいなんやから、とりあえずそのフリだけでもしとかんと、また道端にほっぽり出されてしまうかも知れへんし…)
「さて、それでは七梨様と名波様もお揃いになりましたので、ここで改めて本日のルールを説明しておきましょう。どうぞお二人もお掛けになってください」
漆原に促され、七梨 銀之助こと烈馬と名波 有里こと千尋はそこにあった木の椅子に腰掛けた。
烈馬はふと部屋をぐるりと眺めてみる。かなり広い客間だが、それ程内装に凝ったという気もしない。もちろん多少の手入れはしてあるようにも見えるが、美術品などがあるわけでもなく、ただ古い建物のようにしか思えなかった。
「皆様にはお手紙で周知のことだとは存じますが、この城には『7』様が用意した宝箱が隠されております。皆様には今日の24時までにそれを探していただきます。そして第一に発見なさった方には、『7』様から1億円を進呈致します」
「「い、1億ぅ?!」」
烈馬と千尋は再び大きな声を上げてしまう。
「え…手紙にちゃんと書いてましたよね?もしかしてお二人、手紙を読んでないんですか…?」
大人しそうな女が二人に問いかける。
「あ、いえ、その…やっぱそういう部分ってリアクションせなあかんのかなて思て…はは」
「何、その若手芸人みたいな考え方」
烈馬の正面に座っている、眼鏡をかけた男が笑いながら言う。若く見えなくもないが、恐らく30代くらいだろう。
「ところデ、一つ聞きタイことがアルのデスがー」
壁にもたれかかっていた外国人の男が手を挙げて言う。
「何でしょうか、カノープス様」
「制限時間は今日ノ24時と言イマシタがー、ソレはどの時計によるモノなのでショウカー?」
「それならご心配なく。この城には中央の時計塔にしか時計はございませんので、そちらの時間で取り仕切りたく存じます」
「時計塔?」
「ほら、そこの窓から見えてるやつだ」
葉巻の中年の男性が、窓の外を指差して言う。
「今はちょうど1時…あと11時間ってことか」
「他にご質問が無いようでしたら、皆様の部屋の鍵と見取り図をお渡ししたいと思います。一旦荷物などを置いておくつろぎください。なお30分後に昼食をご用意しておりますので、その時には一旦食堂にお集まりくださいませ」


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