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Brotherhood


File1 〜Jealousy〜
「ねぇ、知之くん、祥一郎くんってカッコいいよね」
知之がつかさにそんな事を言われたのは、秀文高校近くの公園にある、夕陽が眩しく映えるベンチだった。
「え…?」知之は、その言葉を聞いた瞬間身動(みじろ)ぐことが出来なかった。というより、思考回路が真っ白になり、躰(からだ)を動かすという行為を脳が指令出来なくなっていた。
「昨日だってさ、時哉くんのお父さんが頭抱えてた事件をあっさり解決しちゃうし、顔も俳優の橘 正敏(たちばな・まさとし)にちょっと似てるしさ」つかさは知之の聴覚が言葉を辛うじて拾っているような状況にある知之に気付かず、どんどん話を進めていく。「あたし、祥一郎くんタイプかもしんないなぁ」
「……?!」知之は、肌を抓(つま)まれたようにつかさを見た。二人を眩しく包んでいた夕陽は次第にその光を小さくしてゆく。
「知之くんは、祥一郎くんのコトどう思う?」つかさは知之に訊く。
「えっ…」思いも寄らない質問にたじろぐ知之。祥一郎のことをどう思うか、と訊かれても困る。知之にとって、祥一郎は顔は似ないものの正真正銘の双子の兄である。しかし、混乱を避ける為つかさ達にはその事実は隠されている。
「…えっと、うーんと…」知之は暫(しばら)く考えて言った。「顔も結構カッコいいし、推理力もスゴくてイイ人だと思うっス…朝寝坊なのはどうかと思うっスけどね」
知之は結局、つかさと同意見を答えた。
「やっぱり知之くんもそう思う?」嬉しそうな笑みを浮かべ言うつかさ。「ねぇ、祥一郎くんってさ、彼女いるのかなぁ?」
「え…」どうしてつかさはこんな質問ばかりを投げかけるのだろう。あなたのことが好きなのに。だからこうして一緒にいようと思ってこうしているのに。…弱気な自分はそれを言い出せずにいるのに。
「そ、そうっスね…」同じ屋根の下に暮らしているのだから、その質問の答え等すぐに出るはずなのだが、知之は少し考えて言った。「あっ、なんか、篁君と誰か女の子が手を繋いで街中を歩いてるのを見たって噂聞いたっスよ」
「え?そうなんだぁ」ちょっとがっかりしたような表情のつかさ。「ま、あたしは掠奪(りゃくだつ)愛なんてのは趣味じゃないから、諦めよっと」
その時、つかさはふと知之の腕時計を見て言った。「あっ、もうこんな時間?ゴメン知之くん、7時から古着屋でバイトなんだ。また今度ね」つかさはそう言うと、陽の光がもう幽(かす)かに映る程度になってしまった公園を立ち去った。

知之は、自分の家までのそれ程長くない道程を歩きながら、昨日のファーストフード店での会話を思い出していた。


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