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Brotherhood


File2 〜不可能犯罪?〜
それは学校が終わった後のある午後。知之と祥一郎、時哉、烈馬、千尋の5人は、時哉の父であり神奈川県警の刑事である羊谷 惣史に誘われ、とあるファーストフード店にいた。
「え?事故に出頭してきただって?」羊谷刑事におごってもらったシェイクのストローを銜(くわ)えて祥一郎が言う。
「ああ、そうなんだよ」殆ど空っぽになった財布を鞄に仕舞いながら言う羊谷刑事。勿論彼の前には食べ物も飲み物もない。
「その事故って、昨日起きた、柏原高の女子高生とタクシーがぶつかって女子高生が死んだってヤツ?」と千尋。
「随分詳しゅう知っとるなぁ」烈馬が言う。
「私毎朝ちゃーんと新聞読んでるもんね(^^)」えっへんと言わんばかりに大威張りで言う千尋。
「それなら俺も知ってるさ」と時哉。ちなみに時哉は、他の4人が遠慮して飲み物1杯程度にしているが自分だけは父親のおごりと言うことで、期間限定のセットメニューを頼んでいた。羊谷刑事の財布が空っぽになった最大の理由はそれであった。「でもあれって只の事故で、タクシー運転手は病院に運ばれたんじゃなかったさ?誰が出頭なんか…」
「出頭してきたのは、その柏原高校の3年生、楠木 靖彦と棟方 哲樹。二人の証言によると、彼らは事故死した同じ柏原高校の2年生、碓氷 茜に付きまとっていたらしい」
「あぁ、碓氷 茜ってコならあたし知ってるよ」たまたまそのファーストフード店でバイトをしていたつかさが、モップを持ったまま割り込むように言った。
「え?ホントっスか?」
「うん、だってそのコ、去年の柏原高の文化祭でやってた"美少女コンテスト"でグランプリとったんだもん。グランプリに選ばれるだけあって結構カワいかったよ」
「へぇー…」と烈馬。「で、その二人はその茜って人につきまとってたっちゅうのはどういうことなんや?」
「ああ、二人はそのコンテストの直後に、茜に付き合ってくれと言ったそうだ。その時茜は断ったそうだが、二人はどうしても茜と付き合って欲しいと言って、自転車で帰宅途中の彼女を追い掛け回していたらしい」
「うわぁ、ヒドーイ…」と千尋。
「まるでストーカーっスね」
「で、昨日も二人は茜に付きまとっていたんだが、二人から必死に逃げようとしていた茜は、後ろの二人を気にしていたあまり、交差点から飛び出してきたタクシーとぶつかったそうだ。とまあ、ここまでがその二人の証言だ。ちなみに茜は全身を強く打って死亡、タクシー運転手の木谷 明宏は命に別状はない程のケガだがまだ意識は戻っていない」
「ふーん…なら、そうなんじゃないさ?」
羊谷刑事は、時哉のセリフを当然のものと受け止めつつ言った。
「それがな、楠木と棟方にはその時間アリバイがあったんだよ」
「あ、アリバイ…?」
「茜の死亡推定時刻は、硬直の具合から見て午後4時頃。現場から柏原高校までは自転車でどんなに飛ばしても30分はかかるが、楠木も棟方も、学校が終わった時刻は3時50分頃だそうだ」
「それじゃあその二人、茜さんが死んだ時間にその場所に居れないんじゃないの?」と千尋。
「だから我々警察は、二人が虚偽の証言をしているものだと思っているんだが…」
「どうして嘘をついてるかわからへんっちゅうことやな」
「ああ…誰かを庇(かば)うにしても事故だから庇うような人なんていないだろうし…」羊谷刑事は警察手帳を閉じながら言う。
「なぁ、羊谷刑事」祥一郎が言う。「茜は腕時計してたのか?」 「えーっと…」羊谷刑事は現場の写真を取り出して言った。「いいや、つけてないよ」
「それじゃあタクシーの中に時計は?」
「デジタルの時計が1個あったが、我々が駆けつけた時には壊れて消えていたよ。運転手の木谷も腕時計はしてなかったし」
「じゃあ、茜のアリバイは確認したのか?」
「あ、茜のアリバイ…?」
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