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クリスマス・パニック?!

第1話 初デート
こたつの上に、ぐつぐつと沸いている鍋。その中では美味しそうなフグがその身を委ねている。
「もーそろそろええやろ、ほら、二人とも早よ食べ」
「それじゃあいただきまーす!」
楽しそうな女二人とは反対に、もう一人の青年は不貞腐(ふてくさ)れてその様子を視ていた。
「…どしたん、烈馬」もう一人の女にフグをすくってやっている色黒の女が言う。「折角(せっかく)丞(すすむ)おじさんがお裾分(すそわ)けしてくれはったのに」
「…そーやなくてやな」烈馬と呼ばれた男が言う。「何でわざわざクリスマスの日なんかにフグ持って姉貴が俺ン家に来たんかっちゅうこっちゃ!」
「確かにクリスマスにフグはちょっと不釣合いだけどー…」もう一人の女がフグを頬張りながら言う。「里夏子サンの持ってきたこのフグなかなか美味しいよ
「そーゆー問題でもなくて!」烈馬は半分キレかけである。
「ほなどーゆー問題やねん」里夏子と呼ばれた女性は自分の椀にもフグをすくい上げて言う。
「俺と千尋はな、今日麻倉君達とダブルデートの予定やったんや。24日(きのう)が千尋の誕生日やったけど、千尋のバイトがどーしても抜けれそうになかったから今日にしたんや。せやのに姉貴が乱入したせいでそれがパーに…って、人の話を聞かんかい!!」
「あーホンマに美味しいわぁ」女二人は再びフグ堪能モードに突入していた。
「あのなぁ…っ」ブチギレ寸前の烈馬。だったが次の瞬間、フグが彼の口の中に飛び込んできた。「むぐっ…」
「ごちゃごちゃ言わんでそれでも喰うとき」と里夏子。「あたしは千尋ちゃんの誕生日祝いも兼ねてフグ持ってきたんやから」
「そうそう」もう一人の女、千尋が言う。「知之クンとつかさちゃんにはケータイで連絡すりゃいいんだし」
「……」なんか手玉に取られた感じの烈馬は、しばらく茫然として動けなかった。

「え?来れなくなった?」
つかさは、待ち合わせ場所となっていたねずみ地蔵前で携帯電話を取った。
「え?」ネイビーブルーのマフラーをいじっていた知之は、つかさの方を見る。
「うん、うん…分かった、じゃああたし達だけでってことね、うん、じゃあね」つかさは携帯を切り、知之に言った。「千尋と烈馬クン、なんか突然来れなくなっちゃったんだって」
「ふーん…」知之は少し考えると、それが驚くべき事である事に気付いた。「…そっ、それじゃあ僕達…?!」
「そう、今日はダブルデートの予定だったけど、シングルデートになっちゃったわね」
「ふ、二人きりで…デート…?!」知之の思考回路はしばらく蕩(とろ)けていた。

「矢吹君達は来れなくなったかぁ…」
物陰から双眼鏡で二人の様子を伺う影。
「な、なあ母さんよぉ…」その隣にもう一つの影。「これって、死ぬ程怪しくねぇか…?」
「いいのいいの、誰にもバレてないんだから」…実際には多くの眼がその怪しげな影を見たり見てみないフリをしたりしていた。
「…つーかよ、自分の息子がどんな初デートすんのか気になって、わざわざその兄貴取っ捕まえて一緒に尾行するなんて、よっぽどの親バカだぜ」
「だってー、知之にどんなコがつくのか気になるじゃない」母親は双眼鏡から眼を外して言う。「それにあのどんくさい知之だから、どんな飛んでもないコト仕出かすか分からないでしょ」
「非道い言われ様だなアイツも…」呆れ顔で、もう一つの影は知之の姿を見ていた。

「え、えーっと…」思考回路の蕩けが収まった知之。「まず、何処に行きたいっスか?」
「うーん、そーだねぇ…まだ晩ご飯には早いから…」とつかさ。「色々ショッピングでもしようよ」
「そ、そうっスね」二人は近くのショッピングモールへと向かって歩き出した。
そしてその後を、怪しいオーラを放出させまくりの親子がつけていた(笑)。

「うわぁー…」ショッピングモールについた二人。「むっちゃくちゃデカイっスねぇ…」
「駅前の新名所って銘打って先月出来たばかりだからねー…」とつかさ。「知之クンは此処来るの初めて?」
「うん、そうっス」知之は期末テスト以降、ほぼ毎日此処から2つ離れた駅でバイトをしていたので、行く余裕どころかその存在すら最近まで知らなかったのだった。「えっと、何処から行くっスか?やっぱり、ブランド物とかっスか?」
「ううん、あたしそういうの興味ないの」つかさはそう言うと、知之の手を取り店内に入っていく。「こっちこっち」
「えっ…」真っ赤になりながら、知之はつかさに身を委ねた。

「えー、ウソ、こんなのも100円なの?」
知之を連れ目的の店に入ってきたつかさは、そこに陳列されたモノを手に取りながらはしゃいでいた。
「あ、あの、つかささん…」
「ん?なぁに、知之クン?」
「クリスマスにデートで100円ショップっていうのも、なんか不釣合いじゃ…?」
そう、二人がやって来たのは、ショッピングモールの中にある100円ショップであった。
「いいのいいの。かえって人が全然居ないからゆっくり買い物できるしね」つかさはそう言って、棚のグラスを手に取る。「あー、コレとか結構可愛いじゃん」
「は、はぁ…」呆れ顔の知之。

「…完っ全にあの娘(コ)ペースねぇ」
柱の影から、双眼鏡で二人の様子をまだ覗いている女、麻倉 汐里37歳。
「…で?いつまで尾行(コレ)続けんだ?」その隣で困り果てた顔をする男、篁 祥一郎16歳。「もういい加減恥いんだけど」
「何言ってんのよ、どうせ誰もあたしらのコトなんて気付いてないって」
…イヤ、むっちゃ見られてるんですケド、と祥一郎は激しく言いたくなったが、結局とどまった。
「あ、レジに向かうわ。此処は知之がお金を出すべきよ、知之!」
よもやターゲットに丸聞こえになりそうな程大声で実況している汐里の横で、祥一郎は"何んでこんなヒトが母親なんだろう…"と沈み込んで膝を抱えていた。

「7点で、735円になります」
「はい」つかさはバッグから財布を出そうとする。
「あっ、つ、つかささん!」と知之。「ぼ、僕が出すっスよ」
「いいよ、あたし昨日バイト代入ったばっかだし」そういうとつかさは、財布からお金を出した。
「あ、そ、そうっスか…」知之は出しかけた財布を仕舞う。

「あーっ、もうっ!」
もどかしそうな表情で叫ぶ汐里。
「あの子ったら何やってんのかしら…ねぇ、祥一郎」汐里はそう言って振り向いた。しかし、其処には誰も居なかった。
汐里は周囲を見廻した。そして、こっそりとその場を立ち去ろうとしている祥一郎の後ろ姿を視界に捉えた。
「…待ちなさいっ」祥一郎の背中を掴む汐里。
「ちっ」折角上手く逃げられたのに、と嘆く祥一郎。
「ほら、叉移動したわよっ」汐里は涙を流す祥一郎を引き摺りながら、二人の後を追う。
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おまけ
いよいよ知之とつかさが初デート
この二人は書いてて楽しくなります(笑)。
烈馬と千尋と里夏子のコントも面白いですケド(笑)。
汐里と祥一郎の掛け合いもなかなか(笑)。
…ってほぼ全部ぢゃん!(爆)

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