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偽りの銃弾


File2 〜長い夜の始まり〜
食事を終え、篁たちは19階の自分達の部屋に戻った。
「うまかったさ、あの料理」と羊谷。
「ああ」矢吹が言う。「どうやらあそこモーニングもやってくれるらしいから明日の朝ごはんもあそこにしよか」
「ねぇ、お風呂わたし達入ってきちゃうね」千尋が言う。
「え?ここにあるシャワー使わないっスか?」
「やっぱゆっくり湯船につかりたいからね。男性陣に覗かれたくないし」とつかさ。
「誰もんなことしねぇよ…」篁が小っちゃくツッコむ。
「それじゃ行ってきまーす」千尋とつかさは部屋を出て行った。
「めんどくさいさね、女って」と羊谷。「俺はここのシャワーで充分さ。先俺入ってくるさ」そういうと羊谷はタオルや着替えなどを持ってシャワー室に入っていった。
「テレビも面白いのやってねぇからよ、なんかゲームでもしようぜ」と篁。「前みたいにつかさトランプでも持ってきてるだろ」ちなみに"前"とは氷上島の時のことである。
「えーっと、つかささんの鞄はこれっスね。トランプは…と」麻倉がつかさの鞄の中を探る。「あ、あったっス」トランプが麻倉の手によって取り出された瞬間、1枚の写真も鞄から現れた。「あれ?この写真…?」
「ん?なんや?」矢吹と篁もその写真を覗き込む。その写真に写っていたのは、つかさとつかさより幾つか年上の男性の写真であった。
「もしかしてそのヒト、つかさの恋人とか?」篁がちょっと笑って言う。
「まっ、まさかそんなぁっ…!」19階にいるのに海底1万メートルくらいまで打ちのめされたようなショックを受ける麻倉。
「いや…多分ちゃうみたいやで」矢吹が写真の裏を見て言う。「この人は多分、つかさの兄さんやな」
「え?」
「ほら、"修兄さんと"って書いてるやろ」矢吹は写真の裏を2人に見せる。
「あ、ホントだ…」
「つかささん、お兄さんいたんっスねぇ…。そんな話聞いたことなかったっスよ」
と、その時、部屋の電話が鳴った。
「電話?内線かな…」篁が出る。「もしもし…」
「あ、わたし。海瀬。みんなヒマ?」
「いや、風呂入りに行ったヤツがいるけど…」
「そっか、じゃあ丁度いいや。10時頃にわたし達の部屋で一緒にトランプでもしない?」
「10時…ですか?」
「うん、さっき麻那美がどっか行っちゃったから。わたしも9時からのドラマ観たいし」
ドラマは関係ないだろ、と篁は心の中でツッコんだ。
「じゃあ、10時頃6人でそっち行きます」
「うん、じゃあ待ってるね。あっ、そういえば部屋番号言ってなかったと思うんだけど…」
「3回くらい聞きましたけど?11階の1113号室って…」
「あれ?そーだっけ?まいいや。じゃ、待ってるよ」そう言うと海瀬は電話を切った。

10時丁度。6人は約束どおり海瀬のいる1113号室へやって来た。
「海瀬せんせー、来たっスよー」麻倉がドアをノックして言う。が、応答は無い。
「あれ、おかしいっスねぇ…」
「10時にここでって言ったんだろ?」羊谷が篁に言う。
「ああ、確かに10時って…」
「鍵は開いてないし…」麻倉がドアノブを廻しながら言う。
「知之クン、ここ、オートロックだよ」とつかさ。
「あ…(・・;)」
そんなコントじみた会話をしつづけ3分後。
「あっ、ごめーん!!」廊下の角から紙袋を抱えた海瀬が現れて言った。
「人を呼んどいて遅いですよー」と千尋。「もう10時廻ってますよ」
「え?そうなの?わたしの時計だとまだ9時58分なんだけど…」
「先生の時計5分遅れてるっスよ」麻倉も時計を見て言う。
「え?そう?後で直しとこっと。ところで、何で入って待ってなかったの?」
「鍵が開いてないのにどーやって入れって言うさ?」
「え?てことは麻那美まだ帰ってきてないの?」海瀬は持っていたキーでドアを開けた。
「もしかして帰ってきたけど鍵が開いてなかったから先生を探してたかもしれへんな」
「それはないわよ」と海瀬。「鍵は麻那美も持ってるはずだし」部屋の中に入る海瀬。「やっぱり帰ってきてないんだぁ…わたしが部屋出て行った時のまんまだし」
部屋のテレビはつけっぱなし、灯りもついたまま、テーブルの上にはポテトチップスの空き袋があった。
「って、これが人を招き入れる部屋かぁ?」と篁。
「ごめんね、飲み物とおつまみ買いに行ってたんだけど、帰ってきてから片付けようかと思っててね。麻那美が帰ってきたら自分で片付けるだろうし」海瀬は机の上に買って来たものを広げると、そのビニール袋にゴミを片付けた。
「あれ?2人部屋なのにベッドは1つしかないんですか?」と千尋。今いる部屋には確かにベッドが一つしかない。
「あぁ、麻那美の部屋はそっちだから。ここってホテルって言うよりマンションって感じよね。2人部屋だから部屋が2つあったり、シャワーや湯船とトイレが別々だったり。あ、でもマンションじゃ歯ブラシやドライヤーは置いてないか。よしっ、片付け終わり」

数分後、部屋に松浦がやって来た。
「あれ?松浦君、峰岸君は一緒じゃないの?」
「いや、峰岸のヤツ、晩飯食い終わって部屋に戻ってきたらすぐどっか行っちゃったんだ」
「もしかしてみんな呼んだっスか?」麻倉が海瀬に訊く。
「まぁだいたいね。松浦君と峰岸君のいる1120号室と、高浜さんのいる706号室に電話したから」
「そういえば高浜さん、今日このホテルに泊まるって言ってたさね」
「じゃあ高浜さんも来るのか?」と松浦。
「ううん、高浜さんの部屋に電話したけど誰も出なかったから…。そう言えば松浦君の部屋に電話かけた時出たの松浦君だったでしょ?峰岸君はここに集まるってこと知ってるの?」
「一応置き手紙しといたから大丈夫だろ」松浦はビールの栓を開けた。

しばらく経って、部屋に現れたのはTシャツの上に上着を羽織った磯貝だった。
「どこ行ってたの、麻那美?もう10時半よ?」海瀬が訊く。
「ちょっと邑井さんに呼び出されたんだけど…なんか変なんですよね」
「何が?」
「部屋に帰ってきた時、ドアの下の隙間にメモが挟まってたの。途中でそのメモは捨てちゃったんだけど、なんか9時にホテルのプールに来てくださいって、邑井さんから…」
「プール?」篁が言う。
「うん…結局さっきまで居たんだけど何もなくて…」
「ま、とりあえず麻那美もトランプしようぜ」松浦に促され、磯貝もトイレの方に行ってからそのままゲームに加わった。

時計の針が11時を廻った時、漸(ようや)く部屋に峰岸が入って来た。
「随分遅かったな、峰岸」と松浦。
「いや、ちょっと出かけてたんだ。あれ?高浜さんはいないのか?」
「そういえば…もう一度電話してみるね」海瀬は部屋の電話から電話をかけた。
「…変ねぇ、出ないよ」
「彼の部屋に行ってみます?」と磯貝。
「でも、寝てたら迷惑じゃないっスか?」
「いや、あの人はいっつも12時になるまでは寝ないって雑誌の連載で書いてたよ」と峰岸。
「それじゃ行ってみるか」一行は高浜のいる706号室へ向かった。

「高浜さーん?」ドアをノックする峰岸。
「やっぱり寝てるんじゃないですか?」とつかさ。
「あれ?ドアの隙間に何か挟まってんで…」矢吹はドアに挟まっている"もの"を見つけた。「これは…灰皿?」
「これって予め部屋の中にあったヤツだろ?」と松浦。「なんでこんなもんがドアに挟まってんだ?」
「とりあえず部屋の中入ってみよっか…この灰皿のおかげでドアに鍵かかってないし」と海瀬。
「それじゃあ、失礼しまーす…」峰岸はゆっくりとドアを開けた。「……!!」
「ん?どうした、峰岸…?」ドアをしっかりと開け、松浦は部屋の中を見た。
「なっ…?!」
「な、何かあるんですか?」部屋を覗き込もうとする千尋を矢吹が制した。
「見たらあかん…」
部屋の中は異様な匂いが立ち込めていた。部屋の真ん中に仰向けに横たわっていたのは、額に弾痕を刻まれ、何かに怯えた表情のまま事切れていた高浜 巽の姿であった。
「きっ、きゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!」


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