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FEVER

第1話 Dream'in Girl
「ほな次、蓄銭叙位令(ちくせんじょいれい)は何年?」
放課後で空になった1年A組の教室に声が響く。
「えーっとぉ…確かそれは…」先刻(さっき)とは違う声が響く。「…あ、セブンイレブンで711年っス!」
「ピンポーン」ノートを手に持った背の高い青年が、椅子に座って言う。「じゃ、723年に出されたのは?」
「723年っスか?」その青年の前に行儀良く座るもう一人の青年。「えーっと…墾田永年私財法(こんでんえいねんしざいほう)、とかっスか?」
「ちゃうちゃう、それ20年後やって」
「20年後ってことは…あ、三世一身法(さんぜいっしんのほう)っスね」
「そうそう」背の高い方の青年――矢吹 烈馬が、ノートを机に置いて溜め息をつく。「ふぁー…少し休憩しよか」
「そうっスね」もう一人の青年――麻倉 知之が言う。「でもだいぶ日本史覚えてきたっスよ」
「日本史て覚えることぎょーさんあるからしんどいなぁ」烈馬はその長身を、後ろの机まで届く様倒す。「ま、んなこと言うてられへんねけどな」
「期末テスト直ぐ其処っスからねぇ…」然(そ)んな芸当が出来る程身長はない知之は、大きく伸びをした。「日本史の三枝(さえぐさ)先生、問題数多いんっスよね」
「せやから細かいのも一杯やっとかななぁ…文化とかな」
「あー…すごい厭(いや)なトコっスね」と知之。「あ、そう言えば、最近ずっと僕と一緒にこうやってるっスけど、千尋さんは会えなくて不満がったりしてないんっスか?」
「ああ、それやったら心配せんとき」上体を起こして言う烈馬。「アイツ、つかさちゃんと一緒にマンガ大賞に出す作品描いてて忙しいから、暫(しばら)く会わんといてくれって言われててん。たまに来るメールによると、湊ちゃんも手伝ってくれてるんやって」
「そうなんっスかぁ…色々忙しいんっスねぇ…」
「俺らもな」笑って言う烈馬。「…ん?メールか?」
「バイブにしてるんっスか?」携帯をポケットから取り出す烈馬を見て言う知之。
「ああ、授業中に送ってくる奴なんておらんやろけど、一応な」携帯を操作する烈馬。「…あれ?千尋からや」
「噂をすれば、って感じっスね」微笑む知之。「で、何って書いてるんっスか?」
「えーっと何ナニ…?"つかさちゃんが熱を出しちゃったから至急来て欲しい"やて?」
「え?!つかささんが熱っスか!?」

「あ、烈馬…知之くんも」
マンションの自室のドアを開ける千尋。
「随分速かったね、メール出したの10分くらい前なのに」
「そりゃお前、あんなメール出されてもーたら急いで駆けつけるに決まっとるやろ」
「それで、つかささんの様子は…?」知之は息を少し切らして言う。
「今寝てるんだけど…上がる?」
二人はそそくさと千尋の部屋に上がっていった。

「ゴメンねー、散らかっててさ」マグカップを3つリビングに運んで来る千尋。「ま、テキトーに座ってよ」
「あ、じゃあお言葉に甘えて…」知之は足許(あしもと)にあったクッションに腰を下ろす。
「あっ」驚いた様な表情を見せる千尋。「其処は…」
「え?」下ろした腰をもう一度上げる知之。その尻には、柄のついたビニールがびろーんとくっ付いていた。
「トーン(スクリーントーン)を置きっ放しにしてたから…」テーブルにマグカップを置きながら言う千尋。「除(の)けて座ってね」
「ホンマに少しは片した方がええで…」と烈馬。
「だって、〆切まであと1ヶ月ちょっとだから忙しくってぇ…」
「でも僕、女の子の部屋って初めて入ったんっスけど…」改めて座り直す知之。「女の子の部屋って此ういう感じなんっスねぇ…」
「いや、全部が全部こうって訳やないで、麻倉君…」一応ツッコむ烈馬。「寧(むし)ろ多分こっちが少数派やて…」
「あ、折角だしさぁ」と千尋。「今まで描いたトコ見る?」
「いいんっスか?」
「勿論よ。ちょっと恥ずかしいケド」千尋は散らかったテーブルの上を弄(まさぐ)る。「えーっと…何処にあったかなぁ」
「…完成原稿くらい別んトコ除けとけや」今日はひたすらツッコんでばかりの烈馬。

「あ、あったあった」埋もれていた原稿用紙を取り出す千尋。
「見つけるまでに5分掛かったで…」小さく言う烈馬。
「えー?何か言ったー?」少し怖い笑顔で言う千尋。
「べ、別に…」
「えーっと…」千尋から原稿を受け取りそれを見る知之。「あれ?タイトルは決まってないんっスか?」
「うん、いいタイトルが思いつかなくてねぇ」と千尋。「読んで思いついたら言ってね」
「分かったっス」読み始める知之。「…あれ?この男のヒト、"烈馬"って名前なんっスか?」
「ええっっ」驚きの声を上げる烈馬。「…そないなことしてんの、千尋」
「うん、そうだよ」呆気羅漢(あっけらかん)と言う千尋。「その話はね、主人公のヒロって女の子が異世界に飛ばされて、冒険の旅に出ていた烈馬っていう男の子と一緒に、元の世界に戻る為に冒険をするっていうお話なんだよ。ちなみに、その烈馬は実はその国の王子様だったりするっていう隠し設定があるんだけどね」
「俺が王子様かい…」呆れ顔の烈馬。
「ううん、こっちの烈馬がね」
「ややこいなぁ…」知之が読み終えた部分の原稿を見る烈馬。「…ほんで何処と無く俺に似とるしな」
「其れは気の所為じゃない?」と千尋。「わたし、烈馬に似せて描いたつもりないもん」
「そうかぁ…?」原稿を凝視する烈馬。

其の時、隣の部屋から辛そうな咳が聞こえた。
「あ、つかさちゃん起こしちゃったかナ…」襖(ふすま)を見る千尋。襖の向こうに居るつかさに言う。「大丈夫?今烈馬と知之クンが来てるんだけど」
「…う、うん」聞こえた声は枯(か)すれていた。「そっち行って、いい…?」
「勿論っスよ」と知之。烈馬も頷(うなず)く。
そして、緩(ゆ)っくりと襖が開く。少し乱れた寝間着(ねまき)姿のつかさは顔を熱で朱(あか)らめ、瞳はやや虚ろで、金髪は寝汗で濡れていた。深い呼吸は些(いささ)か色気を感じる程である。
「大丈夫っスか、つかささん…」
「知之クン…」小さく咳払いをするつかさ。「うん…一寸(ちょっと)楽になったよ」
「ホンマ?まだ熱あるっぽいやんか」烈馬は立ち上がり、つかさの前髪を上げ額に手を当てる。
「あ…」其れ迄も朱かったつかさの頬が、立待(たちま)ち朱味(あかみ)を増してゆくのを烈馬は感じた。
「ど、どないしたんや…?」
「…王子様…?」
「…は?」烈馬は、呆気に取られた。其れを見ている知之と千尋も訳が分からないという表情をしている。
「王子様だ…」つかさはそう言うと、烈馬の躰(からだ)を自らの方に抱き寄せた。然(そ)して潤んだその瞳で烈馬を見る。「会いに来てくれたんだ…」
「……?!」何時しか烈馬の頬も急速に朱くなっていた。


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おまけ
つかさちゃんのキャラにはない感じの乙女回路が発動。(笑)
もう自分で書いてて小っ恥ずかしいくらいのレヴェルにしてみました。いかがでしょう?

冒頭の日本史ネタは高校生の皆さん是非流用しちゃってください(笑)。
ちなみに「セブンイレブン」は、火内氏が或るサイトで見つけてきた覚え方だったりします。これで蓄銭叙位令はカンペキ。

千尋のマンガのストーリーはテキトーです。何処と無く「スターオーシャン セカンドストーリー」に似てる、とか言っちゃダメ。(爆)

あと今回やたらとフリガナが振ってるっぽいのも気のせいです。(ぇ

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