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FEVER

第2話 crossing calculation
「な、なぁつかさちゃん…」
風邪引きに良いらしい韮粥(にらがゆ)を、リビングのテーブルの横にちょこんと座るつかさの前に置き、つかさの横に座る烈馬が言う。
「なーに?王子様」つかさは、朱味は帯びているが真っ更な笑顔で応えて言う。
「あ、風邪の具合はもうええの…?」
「うん、王子様が来てくれたんだもん」つかさは目前に置かれた粥を一口すくい、烈馬の口許(くちもと)に近づける。「はい、あーん」
「あ…ああ…」烈馬はヘンに断るのも忍びないので、躊躇(ためら)いながらも其れを口に入れた。

(何んなのよ、何んなのよ烈馬ってば)
丁度其の正面に座り、其の様子を眺めながらカップラーメンを啜(すす)る千尋は思っていた。
(何んでつかさちゃんとでれでれしちゃってんのよぉ…そもそもつかさちゃん、何んで烈馬をマンガの方の烈馬と勘違いしちゃってる訳?わたしや知之クンは其の侭(まま)なのに。一疎(いっそ)の事わたしをヒロって呼んでくれれば烈馬と…とか言ってる場合じゃないわね、兎(と)に角(かく)、つかさちゃんを何んとかして正気に戻さなきゃ)

(何んで矢吹君断らないんっスかぁ…)
千尋の隣で、同様に烈馬とつかさの遣(や)り取りを見詰めながらカップラーメンを啜る知之は思っていた。
(若しも此の侭つかささんが矢吹君と恋に堕ちたりなんかしちゃったら、僕どうすれば…つかささん、何んで矢吹君をマンガの方の烈馬ってヒトと間違えてるんっスかぁ…折角なら僕の方を然(そ)うだと思ってくれたらよかったのに…大体、矢吹君には千尋さんが居るじゃないっスかぁ…矢吹君もでれでれし過ぎっスよ)

(あ゛ー…2人の視線が刺さって来るー…)
烈馬はつかさの相手をしながら、突き刺さる視線を否(ひ)し否(ひ)しと感じていた。
(何んとかしてつかさちゃんを正気に戻さへんと、俺2人に凹(ボコ)にされるかも知れへん…かと言うて、今のつかさちゃんに色々言うたかて効果無いやろし…ん、待てよ?確かマンガの中の"烈馬"は冒険の旅をしとったんやったな…ほんなら…)
烈馬はふと立ち上がった。不意に立ち上がった彼に驚き、3人とも視線を上げた。
「わ、悪いんやけど…」烈馬は幾許(いくばく)か現れる恥ずかしさを直隠(ひたかく)しにしながら言う。「俺、未(ま)だ冒険の旅の途中やさかい、もう発(い)かなあかんねん…」
「え…」哀しそうな瞳をするつかさ。其の横で知之と千尋は小さくガッツポーズをする。
つかさの瞳に心が敗けそうになるが、烈馬は其れを振り切って続ける。
「せやから…御免な」烈馬は玄関の方に向かってゆく。
「烈馬!!」つかさは彼に追い縋(すが)ろうとする。
しかし、彼女の前に千尋が立ち塞がる。
「ちょ、ちょっと何するのよ千尋!」
「仕方ないの」千尋も若干の恥ずかしさを乗り越えて言う。「烈馬は、あなたの事を考えてあなたを置いてくんだから…彼の気持ちを無駄にしちゃ駄目よ」
「そ、然うっスよ」知之も加わる。「其の内戻って来るっスよ。だから、少し此処で休んでた方がいいっス」
「…烈馬ぁ」尚(なお)も哀しい瞳のつかさ。烈馬は若干胸が痛んだが部屋を出て行った。
其の時、知之と千尋に目配せしたのを2人は気付いていた。

「…寝たっスか?」
隣の部屋から出てきた千尋に小声で言う知之。
「うん」音を立てない様に緩っくりと襖を閉める千尋。
「其れにしても…つかささんがあんななっちゃうなんてビックリしたっスよ」
「わたしも…」腰を下ろすと、徐(おもむろ)に携帯に手を伸ばす千尋。「烈馬もでれでれし過ぎだよねー…」
「で、でも矢吹君があの小芝居してくれたお陰で一段落着いた訳っスし…」と知之。「千尋さんもお芝居上手かったっスよ」
「あれは恥ずかしかったよ」メールを打ちながら言う千尋。「あんなベタベタの科白、自分でもよく言えたと思うもん…絶対作品では使わないどこっと」
「あはは…」苦笑いする知之。「で…誰にメール打ってるんっスか?」
「決まってるじゃない」打ち終わったメールを送信する千尋。「あの名役者の王子様よ」

「ただいまー…」再び千尋の部屋のドアを開ける烈馬。「…って、何んでそない怒った顔で待ち受けとんねん…自分で"戻って来ぃ"っちゅうメール打っとった癖に」
「何んでじゃないでしょー?」相当御冠(おかんむり)の千尋。「幾ら何んでも彼処(あそこ)まででれでれしなくてもいいじゃない」
「ち、千尋さん…」知之は彼女を抑え様とするが彼女の怒りは然う簡単に抑えられそうも無いのは容易に見て取れた。
「誰もでれでれなんてしてへんやろ」烈馬の語調が少し荒くなる。
「してたじゃない、"あーん"とかしちゃってさぁ」
「あっ、あれはしゃあないやろ、状況が状況やったさかいに」
「でもねぇ…!」
「ちょっとぉ…」
「え…?」喧嘩の真最中の2人(と知之)は、自分達とは違う声が聞こえた方を向いた。襖を開け、明らかに不機嫌な眼付きのつかさが其処に居た。
「あ、つ、つかささん…」冷汗垂らりの知之。折角先刻烈馬を"旅立た"せ寝かし付けたのに。と思ったら。
「何があったか知らないケド、病人が寝てる隣でぎゃあぎゃあ痴話喧嘩なんかしないでくれるー…?」そう言うと、つかさは咳払いをした。
「え…?」呆気に取られる千尋。「もしかして正気に戻った…?」
「はぁ?何んの事?」眠そうなのは誰にでも見て取れた。「あたしはずっと寝てたでしょ?」
・・・・・・・・・・・・。
3人は顔を見合わせた。

「ゴメンねー…何んか迷惑かけちゃって…」
マンションの下、烈馬と知之を見送りに来た千尋が言う。
「ううん、いいっスよ」明るく言う知之。
(俺はよかないっちゅうねん…)烈馬は心からそう思ったが口には出さなかった。
「それじゃあまたねー」

翌日。
「え゛っ?!あっ、あたし、そんなコトしてたの…?」
すっかり元気になり原稿描きをはじめたつかさが言う。
「そうだよー、覚えてないんだ?」
「全っ然…お粥食べたのも覚えてない」つかさのペンが止まる。「…ゴメンね」
「いいんだよ、つかさちゃん風邪引いてたんだし」

其の場に居た湊は、つかさが其の侭烈馬と恋に堕ちたら自分が知之と付き合えたのに、と口惜しがったりしたとかしなかったとか。
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おまけ
あーあー、こんなにクサいセリフ書いちゃうなんて(笑)。虹星でも書かないだろーなぁ^^;
ラストが若干急ぎ足になってますが気にしないでください^^;

ちなみに風邪引きに韮粥がいいというのは、フルバ(アニメの方)で知りました。ホントかどーか知らないケド。

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