Get Ready?
File1 Tear Down The Walls「…それにしても…」
校舎の入り口に貼り出されたクラス分け表を見ながら、一同はきょとんとしていた。
「まさかオレら全員同じクラスになるとはねぇ…」
●2年D組(担任:海瀬 紘乃)
1 麻倉 知之…(中略)…22 篁 祥一郎…(中略)…35 羊谷 時哉…(中略)…43 弥勒 秀俊 44 矢吹 烈馬…(後略)
「うわっ、これってもしかして、運命ってヤツっスかねっ?!」半ば嬉しそうに言う知之。
「いや、単に全員違うクラスにすると作者がこんがらがるからラクしようとしただけじゃね?」…弥勒さんも、そんなぬけぬけと正解を口にしないでいただけますか。
「んー…これは、困ったなぁ…」頭を掻きながら、烈馬はぽつりと言った。
「え?何でっスか?」
「いや…ほら、生徒会がな…」
「…あ」
秀文高校生徒会会則(抜粋)
第5条 生徒会の構成員は、各クラスから1名ずつ選出されるものとする。
第6条 生徒会の構成員の任期は、年度間の4月1日から3月31日までとする。但し、3年生の構成員の任期は7月31日までとする。なお、構成員が停学・退学等になった場合、代わりに他の生徒を構成員として補うことは原則として行わない。
第11条 生徒会長並びに副会長は、全構成員の中から、前会長の任命によって選出される。
第12条 生徒会長並びに副会長の任期は、2年生である年度の7月1日から翌年度の6月30日までとする。
第13条 生徒会長並びに副会長は、構成員の3分の2、又は全生徒の過半数の賛成があれば、任期途中であってもその職を剥奪される。その場合、新しい生徒会長並びに副会長は構成員が話し合って選出するものとする。
「そういえば、生徒会ってクラスから1人ずつしか出れねえんだったなー」秀俊が言う。「1-Aは矢吹がさくっと立候補しちまったから特に気にも留めてなかったけど」
「せやねん…まぁ、あんまり生徒会に来てへんかった篁君と羊谷君は正直どっちでもええねんけど、でも経験者が1人しかおれへんっていうのもなぁ…」
「ちょい待ち、どっちでもいいってどういうことさ…」
「まあまあ、仕方ないっスよ…」一応戦力に含まれていたらしい知之が時哉をなだめる。「でも、ここはやっぱり矢吹君が出るんっスよね?ほら、吉良先輩にも信頼篤いっスし」
「んー…とりあえず、吉良先輩にメール打っとくわ…」ケータイを取り出す烈馬。
「あれ?でも、昨年の1年生の生徒会メンバーって、麻倉先輩と矢吹先輩と羊谷先輩と篁先輩の4人なんですか?」湊が素朴な疑問を何ともなしに口にする。「5クラスから1人ずつ出るんだったら…」
「あ゛ー…1-Dのメンバーは、学校やめちゃったっスからね…」苦笑いではぐらかす知之。
「あ、えっと…ごめんなさい、ヘンなこと聞いちゃって…」申し訳なさそうにうつむく湊。
「あ、い、いいんっスよ…」慌てふためすぎて、知之の声が裏返る。「えっと…そろそろ教室行きましょうっス」
「そうさねー。あー、2年の教室かー、階段のぼるのめんどいさ…」校舎に入っていこうとする時哉が、ふと振り向いて言う。「おーい、矢吹ー、置いてくぞー」
「あっ、悪い、今行く」烈馬は、ケータイを閉じると彼らについて行った。
From:吉良 大樹
件名:Re:どうしましょう?
まぁ、仕方ないからとりあえずお前が立候補しとけ。あと、放課後に話があるから生徒会室に来るように。
「ま、俺もあん中で1人選べって言われたら迷わず矢吹だけどなー」
生徒会室で、ぱらぱらと何かファイルを見ながら言う現生徒会長の吉良。ちなみに彼の苗字はシリーズ第4作から出てたくせにフルネームが出たのは今回が初めてだったりする。まぁ、それまで決めてなかったっていうのもあるんですけど。ああ、今回は作者の私事がこんなにたくさん出てしまった。新年度一発目の話なのに。
「篁と羊谷は論外だし、麻倉は仕事は出来なきゃないけどドジっ子だし…一応俺の中学の後輩で、けっこう使える2年の奴が入ってくるけど、将来のことを考えるとやっぱりお前だな」
「ハハ…」麻倉君まで非道い言われ様やな、と内心思いつつ、烈馬は入り口すぐのところで立ったまま言う。「…って、今“将来のこと”って…?」
「あ、そうそう、その話もしたかったんだ」吉良はふと、烈馬の方を振り返る。「単刀直入に言うけど…矢吹、お前、生徒会長やってみる気ないか?」
「…え、お、おれがですか…っ?!」
「ああ。お前は人柄もいいし仕事も出来る。勉強もスポーツも出来るし生徒からの信頼もある。それに勿論、昨年度の経験がある人間がお前だけになってしまったってのもあるし、個人的に俺がお前を信頼しているっていうのも大いにあってな。だからさ、お前さえよければ、任命したいと思ってるんだが…」
「……」うつむいて立ち尽くしたまま、烈馬は小さく呟いた。「…かいかぶりすぎや」
「え?今何て…」
「あっ、い、いえ…」烈馬は顔を上げる。「えっと…少し時間貰えますか…?」
「そりゃまあ、まだ任命まで時間あるからいいけど…」不思議そうな表情の吉良。「でも意外だな、矢吹ならすぐ引き受けてくれると思ってたのに」
「あ、すみません…」烈馬は、再び顔を下げた。