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Get Ready?

File1 Tear Down The Walls
「うわー…っ」
校門の手前で大口を開けて立ち尽くす秀俊。思わず鞄を落としそうになる。
が、次の瞬間彼は本当に鞄を落とすこととなる。後頭部への衝撃で。
「何をぽけーっと突っ立っとんねんっ」
「っ痛ぇ、なんだよ矢吹っ!」
秀俊は頭を押さえ背後を見上げる。そこには、ハリセンを肩にかついで彼を睨みつける烈馬の姿があった。その後ろには知之や祥一郎、時哉の姿もあった。
「“なんだよ”やないやろ。こないなトコで鼻の下伸ばしよって…」
「だ、だっておめぇはこれを何とも思わないのかよ!先月まで野郎しか歩いてなかったこの高校の敷地に、お、お、女」
「そこでどもんな」烈馬は秀俊をもう一発しばいて言う。「ホンマに変態みたいに見えるで」
「羊谷ぃ、矢吹が新年度早々オイラを苛めるうっ」頭に大きな瘤を2つつけた秀俊は、時哉のもとに縋り寄る。
「んまぁ、確かに驚きは驚きかもしんないさねー」秀俊の頭を軽く撫でつつ(そして軽くあしらいつつ)言う時哉。「俺たちの制服まで変わっちまって、まるで別の高校みてえさ」
そう、この秀文高校は今年度から女子生徒を入学させることとなった。そしてそれにともなって、彼ら男子生徒の制服も昨年度までの学ランからブレザーへと変わったのである。まぁ時哉はそれでもアクセサリーを幾つかつけているのだが。
「あー、そうっスよねー…僕、ネクタイとか締めるの得意じゃないから戸惑っちゃったっスよ」苦笑しながら自分の首のネクタイを触って言う知之。ちなみに彼のネクタイは母親の汐里に締めてもらったのであるが。
「にしてもわざわざ男子の制服まで変えなくても、女子をセーラー服にするなり何なりあったろうにな」祥一郎が面倒臭そうに言う。「あれか、学校側としては今年度から全部一新した感じを出したかったってやつか」
「いや、単にもう1個の連載も学ランにしてもうて、見た目的に微妙やからっちゅう作者側の都合かも知れへんで」…矢吹さん、そんな正解をさらっと口にしないで下さい。
と、その時。
「あっ、皆さんおはようございますーっ☆」
「…え?」
聞き覚えのある声に一同が振り向くと、そこにはブレザーを身にまとった湊の姿があった。
「あ、あれ?湊ちゃん、なんでこんなトコに…」きょとんとする知之。「てゆうか、その制服って、まさか…」
「はいっ!私、今日から秀文高校の生徒になっちゃいましたっ☆」
「えっ…ええええぇぇっっ?!?!」
知之は驚きのあまりガードレールに激突する程後ずさりしてしまった。
「そういや、お前がどこの高校受けてたかとか聞いてなかったな」
「なるほどねー、ワザと秘密にしておいて、今日この日に俺達(というかマクラ)を吃驚させてやろうっつー企みだったわけさね」
「まぁ湊ちゃんくらいの学力やったら秀文受かってても可笑しないわな」
祥一郎・時哉・烈馬の言葉をよそに、湊はガードレール脇に座り込んでいた知之に笑顔で近寄る。
「ですからっ、これからは麻倉先輩とずっとご一緒できますねっ☆」
「あ、う、うん、そう…っスね、ハハハ…」
腰を押さえながら、知之は苦笑するしかなかった。

「…それにしても…」
校舎の入り口に貼り出されたクラス分け表を見ながら、一同はきょとんとしていた。
「まさかオレら全員同じクラスになるとはねぇ…」

●2年D組(担任:海瀬 紘乃)
1 麻倉 知之…(中略)…22 篁 祥一郎…(中略)…35 羊谷 時哉…(中略)…43 弥勒 秀俊 44 矢吹 烈馬…(後略)

「うわっ、これってもしかして、運命ってヤツっスかねっ?!」半ば嬉しそうに言う知之。
「いや、単に全員違うクラスにすると作者がこんがらがるからラクしようとしただけじゃね?」…弥勒さんも、そんなぬけぬけと正解を口にしないでいただけますか。
「んー…これは、困ったなぁ…」頭を掻きながら、烈馬はぽつりと言った。
「え?何でっスか?」
「いや…ほら、生徒会がな…」
「…あ」

秀文高校生徒会会則(抜粋)
第5条 生徒会の構成員は、各クラスから1名ずつ選出されるものとする。
第6条 生徒会の構成員の任期は、年度間の4月1日から3月31日までとする。但し、3年生の構成員の任期は7月31日までとする。なお、構成員が停学・退学等になった場合、代わりに他の生徒を構成員として補うことは原則として行わない。
第11条 生徒会長並びに副会長は、全構成員の中から、前会長の任命によって選出される。
第12条 生徒会長並びに副会長の任期は、2年生である年度の7月1日から翌年度の6月30日までとする。
第13条 生徒会長並びに副会長は、構成員の3分の2、又は全生徒の過半数の賛成があれば、任期途中であってもその職を剥奪される。その場合、新しい生徒会長並びに副会長は構成員が話し合って選出するものとする。

「そういえば、生徒会ってクラスから1人ずつしか出れねえんだったなー」秀俊が言う。「1-Aは矢吹がさくっと立候補しちまったから特に気にも留めてなかったけど」
「せやねん…まぁ、あんまり生徒会に来てへんかった篁君と羊谷君は正直どっちでもええねんけど、でも経験者が1人しかおれへんっていうのもなぁ…」
「ちょい待ち、どっちでもいいってどういうことさ…」
「まあまあ、仕方ないっスよ…」一応戦力に含まれていたらしい知之が時哉をなだめる。「でも、ここはやっぱり矢吹君が出るんっスよね?ほら、吉良先輩にも信頼篤いっスし」
「んー…とりあえず、吉良先輩にメール打っとくわ…」ケータイを取り出す烈馬。
「あれ?でも、昨年の1年生の生徒会メンバーって、麻倉先輩と矢吹先輩と羊谷先輩と篁先輩の4人なんですか?」湊が素朴な疑問を何ともなしに口にする。「5クラスから1人ずつ出るんだったら…」
「あ゛ー…1-Dのメンバーは、学校やめちゃったっスからね…」苦笑いではぐらかす知之。
「あ、えっと…ごめんなさい、ヘンなこと聞いちゃって…」申し訳なさそうにうつむく湊。
「あ、い、いいんっスよ…」慌てふためすぎて、知之の声が裏返る。「えっと…そろそろ教室行きましょうっス」
「そうさねー。あー、2年の教室かー、階段のぼるのめんどいさ…」校舎に入っていこうとする時哉が、ふと振り向いて言う。「おーい、矢吹ー、置いてくぞー」
「あっ、悪い、今行く」烈馬は、ケータイを閉じると彼らについて行った。

From:吉良 大樹
件名:Re:どうしましょう?
まぁ、仕方ないからとりあえずお前が立候補しとけ。あと、放課後に話があるから生徒会室に来るように。

「ま、俺もあん中で1人選べって言われたら迷わず矢吹だけどなー」
生徒会室で、ぱらぱらと何かファイルを見ながら言う現生徒会長の吉良。ちなみに彼の苗字はシリーズ第4作から出てたくせにフルネームが出たのは今回が初めてだったりする。まぁ、それまで決めてなかったっていうのもあるんですけど。ああ、今回は作者の私事がこんなにたくさん出てしまった。新年度一発目の話なのに。
「篁と羊谷は論外だし、麻倉は仕事は出来なきゃないけどドジっ子だし…一応俺の中学の後輩で、けっこう使える2年の奴が入ってくるけど、将来のことを考えるとやっぱりお前だな」
「ハハ…」麻倉君まで非道い言われ様やな、と内心思いつつ、烈馬は入り口すぐのところで立ったまま言う。「…って、今“将来のこと”って…?」
「あ、そうそう、その話もしたかったんだ」吉良はふと、烈馬の方を振り返る。「単刀直入に言うけど…矢吹、お前、生徒会長やってみる気ないか?」
「…え、お、おれがですか…っ?!」
「ああ。お前は人柄もいいし仕事も出来る。勉強もスポーツも出来るし生徒からの信頼もある。それに勿論、昨年度の経験がある人間がお前だけになってしまったってのもあるし、個人的に俺がお前を信頼しているっていうのも大いにあってな。だからさ、お前さえよければ、任命したいと思ってるんだが…」
「……」うつむいて立ち尽くしたまま、烈馬は小さく呟いた。「…かいかぶりすぎや」
「え?今何て…」
「あっ、い、いえ…」烈馬は顔を上げる。「えっと…少し時間貰えますか…?」
「そりゃまあ、まだ任命まで時間あるからいいけど…」不思議そうな表情の吉良。「でも意外だな、矢吹ならすぐ引き受けてくれると思ってたのに」
「あ、すみません…」烈馬は、再び顔を下げた。


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おまけ
新年度です。2年生になりました。
そんなわけで女子を入れようっていうことは前々からほのめかしておりましたが、制服まで変えちゃいました。
ちなみに湊ちゃんを秀文に入れるっていうのはずっと考えてたことでして。殆ど伏線も張ってなかったけど。
知之たちのクラス名簿ですが、実はD組は全部作ってあったりします。なんか機会あったら出します。無いか。
吉良先輩はちゃんと出てきたのは初めてかも知んないですね。便宜的に名前も決めちゃった。
さてさて、烈馬は生徒会長を引き受けるのでしょうか??
なお今回のタイトルはThe HouseJacksの名曲から。

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