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Get Ready?

File3 People Get Ready
「…って、何新学期早々机の上散らかしてんねん」
教室に来た烈馬は、自分の前の机に色とりどりの紙切れを山積みにしてへばっている様子の秀俊を見下げる。
「別にオイラが好きでこうしてるわけじゃねえよ」
「あ、えっと…弥勒君、部活の勧誘に巻き込まれちゃって…」
「へ?勧誘?」烈馬は知之の言葉を反復する。
「ほら、女子が入ったのに伴って、今年度から部活を新設する要件がかなり軽減されただろ。“(新入生以外の)部員が3人以上居て顧問が居て校内に主な活動場所があれば良い”ってやつ」祥一郎が言う。「それで、新しい部活が一気に増えて、今日から新入生に対する勧誘活動が始まったってわけだ」
「さっきなんかすごかったよなー」と時哉。「校門から校舎までなっがい行列が2列出来てて、その間を通って校舎に行くまで、新入生にはビラが流れ作業的に配られるって寸法でさ。俺らは2年生だから何もされなかったけど、前を歩く新入生とかマジでキツそうだったさ」
「へ、へぇ…まるで大学のサークル勧誘やな…」早めに学校に来ていたためそれを知らなかった烈馬は、呆れて笑うしか出来なかった。「…って、それでなんで弥勒君が死に掛けてんねん?野球部のビラ配る側やったとかか?」
「あ、いや、弥勒君…新入生と間違われちゃって…」
「…は」再び呆れ顔の烈馬。
「1人目が弥勒にビラを渡しちまったもんだから、全員がよってたかって弥勒にビラを押し付けてったんだ。あれはまるで地獄絵図だったな」祥一郎がさらっと言う。
「まぁ、あん中の何人かは明らかに嫌がらせに見えたけどな」苦笑して言う時哉。「笑ってた奴も居たし、元1-Aの奴も居たしさ」
「はぁー…あいつら巫山戯んじゃねえよ…」秀俊は深い深いため息をつく。「大体見りゃ分かんだろ、1年生かそうじゃないかくらい」
「いや、君の場合は紛らわしいてしゃあないんちゃう?」嫌味っぽい笑顔で言う烈馬。「145なんて高2の男じゃ滅多に居てへんもんな」
「オイラは今146だよ!」秀俊は一気に顔を上げる。その拍子に、机の上のビラが大雪崩を起こしてしまう。「…あ」
「あっ、ちょっ、大丈夫っスか?!」秀俊と一緒にビラを拾う知之。「それにしても、女子限定の部のビラまで弥勒君に渡さなくてもいいのに…どっちみち弥勒君入部出来ないじゃないっスか」
「えっ、そんなんあんのかっ?!」
「途端に嬉しそうな顔すんなっ」ハリセンで秀俊をしばき倒す烈馬。「麻倉君っ、女子部のビラ全部燃やしたって」
「まぁビラ燃やしたってこいつなら覗きくらいしそうだがな…ん?」祥一郎はふと、ビラの山のうち1枚を手に取った。「これは…?」
「ん?何さ?」祥一郎が取ったビラを覗き込む時哉。「んーっと…“推理研究部”?こんな部まで出来たんさね。篁、興味あんだろ?」
「べっ、別に…っ」少し顔を赤らめる祥一郎。
「またまたー」時哉はいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。「でも、その部面白そうさねえ。みんなで覗いてみねえさ?」
「そうっスねえ、僕生徒会の仕事なくなって時間あるから寄ってみてもいいっスよ」知之が言う。
「おれも今日は予定ないから見てみよかな」と烈馬。「まぁおれは流石に生徒会(長)と掛け持ち出来る程暇でもないけど」
「じゃあ弥勒も行こうぜ、どうせお前暇さ?」
「え、オイラも…?」明らかに嫌そうな顔の秀俊。「でもオイラ、野球部あるし…」
「いや、運動部どうしやなかったら部活を2つ掛け持ちするんは校則上問題ないで?」烈馬が言う。「運動部と文化部、文化部と文化部なら大丈夫や」
「ほらほら、そういうわけだからさ。お前も来いよ、な」秀俊の腕を引っ張る時哉。
「あーもう…分かったよ」不貞腐れつつ言葉を吐く秀俊。
「というわけで、勿論行くんっスよね?」知之は、祥一郎の顔を見て微笑む。
「…ったく、しゃあねえな…」

その日の放課後。3年C組の教室。
「すみませーん、“推理研究部”って此処であってますかー?」
ビラを片手にドアを開ける時哉。後ろに烈馬、知之、祥一郎、秀俊が続く。教室の中には3人の男子生徒と1人のスーツ姿の男が居た。
「おっ、来たな?名探偵ども」3人のうち一番がたいのいい男子生徒がにやりと笑って言う。
「ほーら、ボクの言ったとおりちゃんと来たじゃん」メガネをかけた男子生徒が、ノートパソコンを叩きながら言う。
「いらっしゃい、ようこそ、この“推理研究部”へ」もう1人の男子生徒、茶髪で顔立ちの整った人物が、一同に手を差し伸べて言う。「篁君に麻倉君、羊谷君に矢吹君に弥勒君?」
「えっ…なんで、俺たちの名前知ってんのさ…?」
「こう見えても推理研究部をつくるくらいのミステリ好きだからね」茶髪の男が言う。「秀文高校やその周辺で起こった事件に次々と巻き込まれ、それらを解決しているキミ達のことは、部を結成する前から知ってたよ」
「おれ達いつの間にそないな有名人になってたんや…?」
「まぁそうじゃなくても割と君達は目立ってるけどね」唯一スーツ姿の男が言う。「よくキャラの立ってる子ばかりだから」
「あれ、えーっと…古文の両門先生?」と知之。「もしかして此処の顧問って両門先生なんっスか?」
「ああ、そうだよ」両門と呼ばれた男は、男子生徒たちに目配せする。「ほら、君達も自己紹介なさいな。流石に勝手に名前知られてるって状態は彼らも気持ち悪いでしょ」
「そうですね」茶髪の男子生徒が立ち上がって言う。「僕は、一応この部の部長をやってる3年C組の千石 隆則。宜しくね」
「俺は3-Aの十日町 健造だ」がたいのいい男子生徒。「まぁ、副部長だな」
「ボクは2-Bの徳丸 訓生だよ」メガネの男子生徒が言う。「昨年度C組だったから篁は覚えてるだろ?」
「……」徳丸の顔をじいっと見る祥一郎。「…悪ぃ」
「あっ、ほ、ほら、篁君って他人にあんまり興味ないから…はは」無理くりフォローする知之だが、それはそれで若干失礼な気がする。
「それはさておき」時哉が言う。「俺らの名前知ってるってことは自己紹介は省略していいんだろうけどさ、此処って具体的に何する部なんすか?見たとこなんもしてなさそうに見えっけどさ」
「んー…まぁ、色々だね」千石が座って言う。「とりあえず今度の連休に合宿をしようと考えているけどね」
「合宿…?」
「ああ。ちょうど俺の親戚が伊豆に別荘みたいなもんを持ってて、連休の間使っていいって言われたもんでな」十日町が言う。「まぁ交流会をかねて合宿でもするかっつー話になったわけだ」
「宿舎代はかからないし、そんなに人数居ないから交通費も安く済んで、費用はせいぜい1人あたま5000円くらいの予定だよ」と徳丸。「折角だからみんな参加してよ」
「あー…悪いんやけど」烈馬が恐る恐る言う。「おれ参加でけへんわ。連休は生徒会の仕事が詰まっとるし」
「オイラも無理だな」秀俊は割ときっぱり言う。「その頃は野球部の練習がだいぶキツイ筈だから」
「えー、うっそー?」残念そうに不満そうに言う徳丸。「他のみんなは?来るでしょ?」
「特に用事とか無かったら是非参加してよ。僕ら、キミ達の話とか聞きたいんだ」千石が言う。
「そこまで言うんだったら、じゃあ…」と知之。
「マクラが行くんだったら俺も行こっかな」時哉が言う。
「…この流れはオレも行く流れなんだろ…?」祥一郎は、知之からの熱い視線に眼を背けながら言った。
「よっし、そんじゃ篁と麻倉と羊谷は参加決定ね!」そう言うと徳丸はパソコンのキーボードを叩き始める。
「ところでさぁ」時哉が尋ねる。「さっき“そんなに人数居ない”つったけど、この部って今のところあんたら3人だけなんすか?」
「あ、設立した時点ではこの3人だったんだけど」千石が言う。「さっき、キミたちより先に1人新入部員が来たんだよ。ちょっとトイレ行ってくるって出てったんだけど…そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
と、ちょうどその時、教室のドアが開いた。漆黒の長い髪をした、女生徒が入ってくる。
その“闇色”とも言うべき瞳は、凛としていながらもどこか憂いのようなものを感じさせ、彼女の雰囲気全てをどこか幻想的なものにさせていた。
「ああ、岩満君。ちょうどいいところに来た」千石はその女生徒に微笑みかけて言う。「紹介するよ、彼女がさっき言った新入部員の岩満 恭子君だ」
「岩満…?」ぽつりとつぶやく秀俊。
「ん?どうした?」その声に反応する時哉。「弥勒の知り合いさ?」
「あ、いや、実はな…」時哉に耳打ちしようとした秀俊は、その周囲に烈馬や知之や祥一郎が居ることに気付いて口を噤む。「…って、何なんだよお前ら…」
「何なんだよつってもよ、その態度は気にならざるを得ないだろ」と祥一郎。「ほら、話してみろ」
「ったく…」秀俊はしぶしぶ言葉を続ける。「…これは、オイラの親父(※秀文高校数学教師の吉田陣也)から聞いた話なんだけどよ。今年から女子生徒を入れることになったんだけど、それはあくまで新入生、つまり新1年生に限定するつもりだったんだ。だが、そんな中で唯一、新2年生として編入届けを出してきた女子が居たんだよ」
「じゃあもしかして、それがあの岩満さんっスか?」
「ああ。でも、1人だけ2年生に女子を入れるのは、他の2年生(男子)との折り合いとか受験したくても出来なかった2年生女子からの批判とかが色々面倒臭そうだったから、教師陣はそれを受理しないようにしようと考えたんだ。つっても、何の理由立てもなく追っ払うのも気不味いから、教師陣は一計を案じた。めちゃめちゃ難しい編入試験を受けさせて、それに不合格にさせてしまおう、ってな」
「んー、まぁ非道い話っちゃ非道い話だけど、学校側の気持ちもわかんなくはないさね」
「試験問題はそれこそ非道い問題だったらしい。難関大学の入試問題の改題だったり、解が1通りに決まらない問題だったり、制限時間がどう考えても足りないような設定だったり、あの手この手で合格を阻止しようとしてたんだと」
「くあー、その卑怯さ、まるで弥勒君みたいやな」
「は?ど、どういう意味だよ矢吹っ!!」
「ま、まぁまぁ…」しれっとした態度の烈馬に逆上する秀俊をなだめる知之。「そ、それで?それからどうしたんっスか?」
「あ、ああ…で、まぁそんなこんなで問題作って解かせてみたら、意外にも設定時間を3分の1くらい残して終わったんだ。てっきり諦めてしまったんだろうと思って、教師陣が採点してみたら、なんとこれが全科目満点だったんだよ。解き方は完璧だし、中には教師の用意してた模範解答よりもスマートな解法のものまであった。これはもう編入を拒否する理由が無い、てか寧ろ、こんな優秀な奴をこの学校の生徒に出来るならばそれはそれで良いんじゃないかってことになって、結局教師陣は岩満の編入を許可したんだそうだ」
「へぇー…そりゃまた、鼻につくくらい良く出来た奴なんさね」
「ああ…オイラもそんな女はタイプじゃねえし」
「な、何を本人を目の前にして言ってるんっスか…」時哉や秀俊に対し、呆れ顔の知之。
「それで?岩満君は合宿に来てくれるのかな?」千石が岩満に尋ねる。
「そうね…彼らは来るのかしら?」岩満の声は、少し低めでとても落ち着いたふうだった。それがまた、彼女の謎めいた雰囲気を増幅していた。
「ああ、全員ではないが、今のところ篁君と麻倉君と羊谷君の参加が決まっているよ。それが?」
「いえ…」岩満は、知之たちのほうに目をやって言う。「それじゃあ…私も行かせていただこうかしら」
「……?」祥一郎は、岩満の視線が自分に向かっているように感じた。
「ほんと?良かったー、じゃあこれで8人目だね。女の子ー♪」嬉しそうにパソコンに入力する徳丸。
「…宜しく、お願いしますね?」岩満は、祥一郎のもとへ歩み寄って言う。「篁、さん?」
「え…?」眼を丸くする祥一郎。「な、なんでオレ…?」
「ふふ…」岩満は小さく笑うと、祥一郎に背を向けて歩き出す。
「んー…彼女、篁君に気ぃあるんちゃうか?」嫌らしく微笑んで祥一郎に耳打ちする烈馬。
「…さあな」
祥一郎は気分悪そうに言葉を吐きつつも、この1年で何かが起こるのではないかという奇妙な胸騒ぎを僅かに抱いていた。


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おまけ
推理研究部についても、割と前から考えておりました。
だからやっと新年度になって書けてよかったと思っております(笑)。
そんなもんだから、この話で初登場のキャラクター達の名前もかなり昔から考えてました。
徳丸の名前がちょっと変わったくらいでほぼ同じ。
まさか自分が「千石」駅の傍に住むようになるとは思ってもいませんでしたがw
んでもって2話の駿人に続いて、今後重要な立ち位置になる予定なのが恭子ちゃん。
謎過ぎて自分でもよく分かんないですが、こちらもぜひご愛顧よろしく。
なお文中に出てた「合宿」ですが、ゴールデンウィークかなと思っているので、この次の話は別の話になる予定ですのであしからず。
タイトルはHuman Natureの楽曲から。全体タイトルの「Get Ready?」のアンサー的なつもりで持ってきました。曲自体は関連無いけどね。

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