inserted by FC2 system

Happy?! Birthday


第1話 9月19日
「おはよー」
秀文高校の1年A組の教室に、180cmはあろうかという長身の生徒が入ってきた。
「あ、おはよう矢吹」生徒の一人が応対する。「なぁ矢吹、矢吹って野球部の事件に関係してるって噂ホント?」
「あのなぁ諏訪(すわ)君…」矢吹と呼ばれた生徒は呆れ顔で言う。「んなこと俺が言えるとでも思うか?」
「じゃあやっぱ関与してんじゃん」諏訪の隣に居た生徒が言う。
「渡辺(わたなべ)君までなぁ…」彼は二人をやり過ごすと、窓際の自分の席に向かった。そして鞄を机の横にかけ、その図体の大きい体を椅子に下ろすとため息をひとつついた。
昨日の事件のことに関して、彼は興味本位で誰かに話すつもりはなかった。事情が事情なのだ、高が一生徒が軽々しく公言できるモノじゃない。彼の思慮深さは確固たるものであった。
と、その時であった。
「あっ、弥勒!お前もう学校来て大丈夫なのか?」
先程彼が話していた諏訪の言葉に、矢吹は思わず声のした方を向いた。昨日と同じく、頭に包帯を巻いた弥勒がそこには居た。
「ああ、オイラの怪我はてぇしたことねぇんだ」笑ってみせる弥勒。その表情には曇りというモノは微塵も無かった。矢吹にはそれが何故か気に障った。
「あ、そうそう弥勒」渡辺が言う。「矢吹の奴事件の事何も話してくんないんだけどさぁ、何か教えてくんない?」
矢吹は思わず、突いていた肘に乗せた顔を滑らせた。ヤバイ予感。
「ああ、いいよ。犯人は神保先輩で…」言い始めた弥勒の口は急に背後から伸びた手に塞がれ、彼は教室の外へ連れ出された。
その光景を見ていた諏訪と渡辺は、その出来事如何よりも、連れ出された弥勒と連れ出した矢吹との約35cmの身長差に驚いていた(笑)。

「っったく、何しやがんだよっ!」
廊下で漸く解放された弥勒は、それまで閉ざされていた口を大にして怒鳴る。
「あのなぁ弥勒君」矢吹も負けじと思わず大きな声で言う。「事件の事をそう軽々しく話してどないすんねん?神保サンとかに悪いとかちっとは思わんのか?」
「別に」きっぱり言っちゃう弥勒。「オイラが体験したことを、オイラが話して何が悪いってんだ?」
「君なぁ…」段々怒りのヴォルテイジが上がってくる矢吹。「君にはも少し人の事を思い遣るとかそういうんは…」
「あ、わかった」
「…は?」突然話の腰を折られつんのめりそうになる矢吹。
「矢吹、オイラが千尋ちゃんに気に入られかけてるからスネてんだろ?」
「…な、何言うてんねん?」訳が分からないという表情の矢吹。
「なんせ千尋ちゃん、オイラの病室まで見舞いに来てくれたしなぁ…そろそろお前に飽きたんじゃねぇ?」
「…何やて?」
その時、朝のホームルーム開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あ、さっさと席に戻らないと吉田センセに怒られるから帰ろっと」弥勒はさっさと教室に消えてしまった。
「…どういうこっちゃ?千尋が、弥勒君の見舞いに…?」腑に落ちないままの矢吹も、教室に戻ろうとした。その時、トーストを頬張ったまま教室まで駆けて行く祥一郎が、全力疾走で彼を追い越した。
「…また遅刻しかけなんかい(^^;)」矢吹は祥一郎には聴こえない程度にツッコんだ。

その夜、烈馬は千尋の携帯に電話をかけた。
「もしもし…」聴き慣れた千尋の声。
「あ、千尋?俺や、烈馬」
「あ、烈馬?ゴメン、もうすぐバイト入らなきゃいけないから余り話せないんだけど…」
「お前…」彼は千尋の言葉を実質無視して話を進める。「弥勒君の病室に見舞いに行ってたそうやな?」
「え?」思わぬ質問に驚く千尋。一緒に行った知之には口止めをしておいた筈なのだが…?「ど、どうしてそれを…?」
「弥勒君が自分から言うてきたんや」と烈馬。「アイツ、千尋が自分に惚れてると思い込んでんねんで」
「ちょっとやめてよ、あんなナンパ男となんてぇ…そりゃ、ちょっとはカッコいいけどさぁ…」
「お前、明日夕方のバイト休みや言うてたな」
「え?」千尋は叉も思わぬ質問をする烈馬に驚く。「そうだけど…」
「今時間ないんやったら、そん時ゆっくり話ししよか…明日4時に"ライム"でな」そう言うと烈馬は、一方的に電話を切ってしまった。
「ちょ、ちょっと烈馬ぁ…」ツー、ツーという音のみを発する携帯を見つめながら、千尋は不貞腐(ふてくさ)れた。「何よ…ひがんじゃって」
最初に戻る続きを読む

inserted by FC2 system