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Happy?! Birthday


第2話 9月20日 午後4時
烈馬がドアについた鈴が鳴るのを聴いたのは、待ち合わせから5分程経った時であった。
「ゴメーン、烈馬…電車がちょっと遅れてて」額に軽くついた汗を拭いながら言う千尋。「あ、コーヒー1つお願いしまーす」
千尋はマスターに言うと、烈馬の居る窓際の席に座った。彼のコーヒーも、幸い余り減っていない。
「…で?なんでわざわざわたしを呼び出したの?」
「…お前なぁ」烈馬の語調から彼が怒っているということは千尋にも感じ取れた。「なんであんな奴の見舞いになんか行くんや?」
「そんなの、わたしの勝手じゃん」千尋は言う。「ただなんとなく気になっただけよ、誰も教えてくれないからさぁ」
「せやけど、せめて俺には言えよ…なんでわざわざ隠すねん」
「言ったら絶対烈馬反対したじゃない」次第に千尋の語気も強くなる。「だから知之くんに病院聞いて…」
「あのなぁ」烈馬の声も強まる。「俺とお前は恋人なんやぞ?その恋人達にとってみれば弥勒君は"敵"みたいなモンや、その敵地にわざわざ踏み込むやなんて、訳わからんわ」
「烈馬の方が訳わかんないわよ!」席を立つ千尋。「もう、烈馬がそんな嫉妬深いヒトだなんて思わなかった!帰る!」
千尋は鞄を持って、早足で"ライム"から出て行ってしまった。
「あーあ、怒らせちゃった」
「え?」烈馬は背後から聴こえた聞き覚えのある声に振り向いた。時哉だった。「な、なんで羊谷君が此処に…?」
「あ、オヤジがここのマスターと知り合いでさ、今日バイトのコが休みだって言うから代わりに入ってんのさ。ほい、コーヒー」そう言うと時哉は、盆に載せたコーヒーカップをテーブルに置いた。
「え?コーヒーって…?」
「千尋のさ。ほら、入ってきた時頼んでたろ?」
「あ、そっか…」と烈馬。「んじゃ、返品」
「んなこと出来っかよ」どうしてもツッコミ役になっちゃう時哉(笑)。「ちゃんとお金払うさ」
「はいはい…なんなら、羊谷君が飲む?」
「おっ、いいさ?サンキュ」そう言って早速砂糖を入れ飲み始める時哉。「…にしても、弥勒の奴もかわいそうさねぇ…」
「え?」時哉の言葉に虚を突かれた様な烈馬。
「だってさ、単に好きな女の子にアプローチしてるだけなのに"敵"だのなんだの言われてさ」一口コーヒーをすすって言う時哉。「あっ、やっぱここのコーヒー美味いさ(^^)」
「…せやけどなぁ…」
「弥勒は、お前が思ってる程悪い奴でもないんじゃないさ?折角同じクラスの出席番号1つ違いなんだろ?だったら、ちーっとは仲良くしてやりゃいいじゃん」
「……」何も言えない烈馬。
「ほら、さっさと千尋追いかけてやれって。誤解させたままじゃハッピーバースデーにゃなんねぇさ」
「…せやな」
烈馬はそう言うと、徐ろに立ち上がった。
「…ありがとな、羊谷君」烈馬は微笑んで言うと、店を出て行った。
「…まーったく、世話の焼けるカップルだこと」その時、時哉はある重大な事を思い出した。「…あっ!アイツ金払ってねぇさ!」
時哉は急いで烈馬を追いかけ、代金をちゃんと戴いた。
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