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Happy?! Birthday


第6話 9月21日
「おはよー」
秀文高校の1年A組の教室に、180cmはあろうかという長身の生徒が入ってきた。
「おう、矢吹」弥勒が居た。頭の包帯はなくなっていた。
「あ、おはよ、弥勒君」烈馬は満面の笑みを弥勒に向けた。弥勒はその笑みにちょっと圧倒されてしまう。
「…や、やけに元気そうだな、矢吹」
「そうか?別にいつもと変わらんつもりやけど」烈馬は窓際の席に鞄を置いた。「あ、せやせや」
「ん?」弥勒は烈馬が鞄の中から何かを取り出すのを見た。「あんだよそれ…只の弁当じゃねぇか」
しかし、弥勒はふと気付いていった。「え?弁当…?お前、一人暮らしだったんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうやけど」依然上機嫌な様子の烈馬。
「じゃあ、何でそんなどう見ても手作りな弁当なんて持ってんだよ?」
「ああ、これ、千尋が作ってくれてん」
「え…?」弥勒は固まった。烈馬はそのまま話を続ける。
「いやぁ、昨日ケンカしてしもたんやけど、その後俺が千尋ん家行って謝って、ほんで仲直り出来たんや。あいつ、コミケ(同人誌即売会)に向けての準備で忙しゅうて碌に誕生日プレゼント用意でけへん言うてて、"やったら弁当かなんかでええで"って言うたらホンマに今朝弁当届けてくれたんや。あ、千尋って料理上手いんやで。この弁当もぜーったい上手いんや」
若干自慢気に話す烈馬の様子に、弥勒はぐうの音も出ない。
「いいなぁ矢吹」と諏訪。「俺にも一口ちょーだい
「だーめ」烈馬はさっさと弁当箱を鞄に仕舞い込んだ。「さてとっ、1時間目は数学やったかな」
「…なぁ矢吹よぉ」弥勒は烈馬の前の席に座る。「お前、ホントに千尋ちゃんのコト諦める気ねぇワケ?」
「ああ、塵一つもないで」鞄の中から教科書とノートを取り出しながら言う烈馬。「あ、表紙ちょっと折れてるわ」
「…そっか」と弥勒。「でも、俺も諦める気は更々ねぇかんな」
「…は?」弥勒はそのままその場を立ち去ってしまった。

「うん、うまい
食堂のテーブルの1つで烈馬が卵焼きを頬張って言う。
「ホントうまそうだよなぁ」と祥一郎。「一口くらいくれてもいいじゃん」
「アカンアカン、これは千尋から俺への誕生日プレゼントみたいなモンなんやから」烈馬はホントに美味しそうに食べ続ける。
「あ、そう言えばさ矢吹、お前が昨日関わったって万引き事件のことだけどさ」時哉が言う。
「えっ?!矢吹君万引き事件起こしたんっスか?!」驚いた表情の知之。
「んなわけないやろ」知之を小突く烈馬。「で?親父さんなんだって?」
「えっと、犯人の小椋 亜樹ってヒト、あの列車にガングロの女子高生が数名乗ってるのを知っててあの列車に乗り込めるよう万引きをしたみたいさ。改札をスッと抜けれるように定期も用意してたそうだし」
「あー、やっぱ定期持ってたんや。ちょっと気にはなってたんやけどな」
「へぇ…そう言えば矢吹」祥一郎が言う。「聞いた話だと、オメーその小椋ってヒトが死のうとしたの止めたんだって?オメーもカッコいいとこあんじゃん」
「茶化すなや」少し顔を赤らめる烈馬。「俺は只反射的にあのヒト助けなあかんて思ただけやて」
「その科白が既にカッコいいっスよ」と知之。「あ、そう言えば矢吹君、つかささんもやっぱ暫く忙しいんっスか?」
「そやろなぁ、"風虹明媚(ふうこうめいび)"ってサークルは千尋とつかさちゃんの2人でやってるモンらしいし」烈馬は弁当を平らげた。「あ、せや、麻倉君にも手伝って欲しいって言うてたんやけど…」
「よっ、喜んでっ!!」
次の瞬間、一同に笑いが起こった。
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