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Happy?! Birthday


第5話 9月20日 午後5時半
「え?万引き犯が誰かわかった?!」
一同の視線は烈馬に向けられた。
「ああ…万引き犯は、小椋 亜樹さん、あんたや」
「え…」小椋は突然自分の名前が告発され驚きを隠せないといった表情だ。「ど、どうしてあたしなのよ…?」
「パーカーの傍で発見されたちょっと湿ったコットンは、この暑さがまだ残る街を1km以上走って出てきた汗を拭ったモンやろ?せやけどその時化粧のファンデーションまでちょっとついてしもたんや。他の2人よりあんたの化粧ちょっと薄いやろ」
「ちょっ、まさかそれだけの理由でって言うつもりじゃ…?」
「勿論そんだけやない。あんたの持ってた荷物からもそうやって言えるで」
「に、荷物…?」
「あんた、その服もバッグもネックレスも今日買うたモンやって言うてたよな?」
「そうだけど、それがどうしたって言うの?」小椋は強気に言う。
「やったら、なんでネックレスは箱か何かに入った状態やのうて、そんなハダカのまま紙袋に入ってたんや?」
「え…?」
「普通そういう小物(アクセサリー)は、どっか行ってしまわんように箱や袋に入れてもらうやろ?新谷さんのピアスもちゃんと箱に入ってた。せやのに同じ店で買うた筈のあんたのネックレスはどうしてハダカやったんや?」
「そ、それは…」と小椋。「列車の中でつけようと思って、箱を開けたのよ」
「じゃあその箱は何処や?」
「…そ、それは…」黙り込む小椋。
「恐らくその値札のついた服やバッグは、万引きが失敗した時に言い訳が出来るように用意してたモンやろ?もしくは万引きした服を隠す為…」烈馬は続ける。「それに、勝呂さんがジャケットを取り出す時に梃子摺ったんは、紙袋の取っ手のトコにでも貼ってあったガムテープに服の生地がくっついてしまったからや。さっきもらった筈の紙袋にガムテープなんてついてる訳ないやろ?」
「だっ、だからってあたしが犯人だって証拠には…」
「ほな聞くけど、なんであんたは厚底ブーツを履いてないんや?」
「え…?」小椋は思わず足元を見た。他の2人と違い、小椋だけは厚底ブーツではなく普通のスニーカーであった。「そ、それは…」
「ガングロのコギャル言うたら、厚底ブーツは必須アイテムやろ?やたらと新谷さんは背が高いなぁと思てたら、厚底履いてたからやったんや。せやのに、なんであんたは履いてへんねん?」
「……」小椋は何も言わない。
「言えへんのやったら言うたろか?あんたは万引きした後全速力で逃げるつもりやったんや。せやから走りやすいスニーカーを履いたんや。陸上やってた佐古田さんが追いつけへんかったっちゅうことは、よっぽどあんたはそのスニーカーで走り慣れてたんやろな」烈馬は言う。「というか、逆に厚底を履いてる他の2人には、そんな佐古田さんに追いつかれない様走るなんて芸当は到底出来へんっちゅうこっちゃ」
小椋は依然何も言わない。
「他に何か言うことは?」と烈馬。後ろでは列車の到着を知らせるアナウンスが響く。
「…ちっ」小椋は突然、列車が入ろうとしているホームに向かって走り出した。そして、白線を力強く踏み切ったその時、彼女の足を掴むものがあった。
烈馬だった。
烈馬がかなり勢いよくその足を引っ張ると、列車は小椋の髪の毛を若干掠(かす)ってホームに入ってきた。
二人は危機から逃れ、呼吸をかなり荒げていた。そして、少し落ち着いたところで烈馬は小椋に怒鳴る。
「…ったく、ふざけんなや!」
依然呼吸の荒いままの小椋は、その声に驚いて烈馬の方を向いた。
「あんたなぁ、自分の命なんやと思てんねん…高が万引きで捕まるから言うて死んどったら、命幾つあっても足りひんっちゅうねん」滴り落ちる汗を袖で拭いながら言う烈馬。「ホンマ…ええ加減にせぇよ」
「……」鬱向(うつむ)く小椋。
「さ、行きましょう」勝呂は彼女を連行していった。
「…ふぅ」疲れ切った表情で、烈馬はホームに座り込んだ。「…あ、」
烈馬はその時になって始めて、自分の本来の目的を思い出し、歩き出した。
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