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此処に在る理由

第3話 "family"
「…むっちゃくちゃそんなことあるさ…」
リムジンが停まり、車の外に出た時哉が言った。彼の目の前には、散らつく雪の中で壮大にそびえる石原家の豪邸があった。
「ホント、こんなのTVでしか見れないわねぇ…」目を丸くするつかさ。
「それでは私は、車をガレージに停めて参ります」真田は一同が車から降りたのを確認すると、再び車に乗り走り去っていった。
「瑠璃さん家ってすっごい大金持ちなんですねー!」はしゃぐ湊。
「…あくまで、父さんが、だからね」
「え?」知之は、瑠璃が急にトーンを落として言ったその言葉がやけに気に掛かった。「それって、どういう…」
「さ、それじゃ行きましょ」瑠璃は真っ先に目の前の豪邸に向かっていった。
「ちょ、ちょっと瑠璃ちゃん…」戸惑いながらも、他のメンバーもそれについていった。

左右に噴水やオブジェなどを見ながら一行が玄関先に辿り着くと、其処にはいわゆるメイド服の女性が立っていた。つかさと同い年か少し年下といったところであろうか。
「お帰りなさいませ、瑠璃様」彼女は瑠璃に深くお辞儀をした。
「ただいま、珠里さん」瑠璃は彼女に微笑み、手に持っていた荷物を彼女に渡した。
「あのー、瑠璃さん…」と知之。「この人は…?」
「あ、さっき話してた真田さんの孫の珠里さんだよ」と瑠璃。
「初めまして、真田 珠里です」珠里は一行に向かっても深くお辞儀をする。
「ど、どうも…」自分達と同い年くらいの女性に頭を下げられ戸惑う一同。
「先にみんなを部屋に案内してくれる?」瑠璃が珠里に言う。「荷物置いた後父さんと会っときたいから」
「分かりました」珠里はそう言うと、大きなドアを開けた。「では皆様、こちらでございます」
一同は外観よりも更に広く感じる屋内と、同い年くらいの珠里を顎(あご)で使う瑠璃に驚きながら、瑠璃と珠里の後についていった。

荷物を部屋に置いて出てくると、瑠璃と珠里が待っていた。
「部屋もホントに広いし、こんなトコ泊めてもらっちゃっていいの?瑠璃ちゃん」千尋が言う。
「いいのいいの。今日は他に2人お客さんが来てるんだけど、それでも部屋はまだあるしね」
「…そう」呆れ顔の千尋。
「さてと、それじゃあ父さんのトコ行こうか」と瑠璃。「やっぱり父さん展示室に居るの?」
「ええ、新聞社の方の取材を受けていらっしゃるところです」珠里が言う。
「て、展示室?」と時哉。「んなのまであるのさ?」
「うん…まぁね」

「ここが展示室。父さんのコレクションをお客さんに見せる為に作られた部屋なの」
これまた豪勢な扉の前で、瑠璃が言う。
「へぇー…」
瑠璃はドアをノックし、中からの返事を確認するとドアを開けた。
「おお瑠璃、お帰り」数多くのショーケースの中に居た大柄の40代ほどの男性が言う。隣には若い女性も居た。
「ただいま帰りました、お父様」瑠璃は彼に頭を下げる。「聖さんも、お久しぶりです」
「久しぶりだねー瑠璃ちゃん」聖と呼ばれたその女性が瑠璃に近づいて言う。「その髪の毛も未だ健在だし」
「ええ、お蔭様で」
自分達とでも、また珠里とでもない立ち居振舞いの瑠璃に驚いている一同に、瑠璃の父親である男性が気づく。
「ああ、君たちが瑠璃のお友達かね」
「あ、はい…」と千尋。
「私が瑠璃の父で、石原 輝彦だ。どうぞよろしく」
「あ、えっと…」如何(いか)にも大富豪、という感じの笑顔を見せた石原に戸惑う千尋。「せ、仙谷 千尋っていいます…」
「へぇー…瑠璃ちゃんのお友達かぁ」聖と呼ばれた女性も一同に近づいて言う。「あたしは、金月 聖。北見新聞って新聞社の記者なの。よろしくね」
「は、はい…」
「さてと」聖が言う。「それじゃ今日は、あの3つの原石の写真を撮らせてもらって帰ろうかな」
「3つの、原石…?」と祥一郎。
「そうだよ」と石原。「この家の家宝って所かな。何なら、君たちも見るかね」
「は、はぁ…」一同は石原達に続いて、展示室の奥まで入っていった。

「うっひゃー…」
大きなショーケースの中には、幅15cm程の大きさの石が3つ並べられていた。左から、緑色、青色、黄褐色をしており、少し霞んではいたが、知之たち素人目から見てもどれもとても奇麗であった。
「どうだね、素晴らしいだろう」自慢気な声で言う石原。
「あ、はい、とても…」と千尋。その横では聖がシャッターを切っている。
「なんかこういうコト聞くんもアレなんですけど…」烈馬が言う。「これって大体幾らぐらいするんですか?」
「3つで大体4000万円といった所かな。まぁ、今鑑定したら幾らになるか分からんがね」
「よ、4000万?!」一同は目を丸くしてショーケースの中の原石を見つめる。
「すっげー…」と弥勒。「確かに見た目は重そうだけど…」
「いいえ、それ見た目よりも案外軽いんですよ」瑠璃が言う。「私やお兄様が子供の頃持ち上げられたくらいですもの」
「そ、そう…」弥勒は瑠璃の態度に若干ヒいていた。
その時、展示室に入ってくる足音があった。足音と共に、男の声がした。
「お父様、輪島(わじま)先生からお電話です」
一同の視界に入ってきたその声の主は美しい顔立ちをしていたが、それよりも何よりも、彼の真緑色の髪が一同の目を引いた。
「おお、瑪瑙」瑠璃を迎えた時と同じ様な笑顔で言う石原。「今行く」
瑪瑙と呼ばれたその緑色の髪の青年が入ってくるのと入れ替わりに、石原が展示室を出て行った。
「あ、あの…」千尋が瑪瑙に話し掛ける。「もしかして、瑠璃ちゃんのお兄さん…?」
「…あん?」瑪瑙は、先程までとは全く違う表情で千尋を睨んで言う。「そうだけど、何か?」
「あ、い、いえ…」瑪瑙の変貌ぶりにたじろぐ千尋。「き、奇麗な髪の毛だなぁと思って…」
「ん?これか?」瑪瑙は髪の毛の一本を摘まんで言う。「こんなの、親父の趣味でいやいや染められてんだ」
「しゅ、趣味っスか…?」と知之。
「あ、実はね…」こちらも先程とは態度が変わった瑠璃が言う。「あの緑色の原石が"瑪瑙"で、青いのが"瑠璃"なの」
「め、瑪瑙と瑠璃って…?」とつかさ。
「そ。親父は俺達の名前まで宝石から取ってやんの」と瑪瑙。「全く、メーワクな話だぜ。お蔭で俺も瑠璃も、ガキん時からからかわれまくってるっつーの」
「そうだったんだぁ…」千尋が言う。「学校でも瑠璃ちゃん、先生にいっつも髪のこと言われてるけど、そういう訳だったんだ…」
「そうなのよ」と瑠璃。「私の場合は、帰省する度に染め直させられてるんだけど」
「ふーん…てことは」祥一郎がショーケースを見ながら言う。「もう1人、髪をこの茶色っぽい色にさせられてるヤツが居るってことか」
「ああ、それなら…」聖は何かを見て、言いかけていた言葉を止めた。「ほら、丁度来たわよ」
「え?」一同は聖の視線の方を向いた。そこには、少し長めの髪を黄褐色に染めた、矢張り奇麗な顔の少年が立っていた。
「あ、琥珀」と瑠璃。
「…この人たち、瑠璃姉さんの友達ですか?」琥珀と呼ばれたその少年が言う。
「そうよ。ほら、挨拶しなさい」
少年は一同に歩み寄ると、小さくお辞儀をして言った。
「初めまして、石原 琥珀です」
「あ、ど、どうも…」他の2人と違い、父親の石原が居ない場でも礼儀正しくするその少年にたじろぐ一同。
「それにしても…」とつかさ。「ホントに奇麗な琥珀色の髪の毛してるわねー…」
「つかささんも金髪ですけど…」小さくツッコむ湊。
「あ、そう言えば瑪瑙兄さん」琥珀が瑪瑙の方を向いて言う。「真田さんが探してたみたいですけど…」
「…そう」瑪瑙はどこか冷たさの残る言い方で返事をすると、展示室を後にした。
「なーんか、今の瑪瑙さんの態度おかしくなかったっスか?」と知之。
「…そ、それは…」躊躇いがちな表情の瑠璃。
「仕方ないじゃない、瑪瑙くんは琥珀くんが弟だって実感ないんだから」
「え?」聖の言った言葉に、訝(いぶか)しげな表情を向ける一同。「そ、それってどういう…?」
「実は、琥珀くんがこの家に来たのはほんの半年前のことなのよ」と聖。「石原先生の話だと、琥珀くんは石原先生と内縁の妻だった女性との子供――ま、いわゆる非嫡出子ってヤツね――だったわけ。半年前に突然此処にやって来て、最初は私も本当の子供かどうか疑ってたんだけど、その内縁の妻って女性は他界してるらしいし、何より石原先生がたいそう琥珀くんを可愛がるもんだから、今じゃ普通に石原先生の息子としてこの家で暮らしてるのよ」
「…そうだったんですかぁ」と湊
「ま、瑪瑙くんは亡くなった母親をよく慕ってたし、まだ琥珀くんを"弟"だと思えてないのよね」
「そりゃそうだろう」展示室に、叉別の声が足音と共に響いた。程無く、石原と同年代くらいのスーツ姿の男性が現れた。「父親の莫大な遺産を、横取りされるかも知れないとあったら、彼も気が気じゃないんだろう」
「お、大山さん…」瑠璃や聖はその男性を見て言う。
「あ、あの…」と烈馬。「この人は…?」
「ああ、申し送れてしまった」大山と呼ばれた男性は懐から名刺を取り出して言う。「私は大山 義貴。東京の病院で副院長をしているんだ」
「宝橋大学附属病院…って言ったら、確か石原さんの勤めてたっちゅう…」
「ええ、大山さんは父さんが医者をやってた頃父さんと親しかったんだって」と瑠璃。
「でも、確かにこんだけでかい家だったら遺産とかすっごいんだろな」時哉が言う。
「ああ、そりゃあ数え切れない程だ」と大山。「瑠璃君だって、そう思ってるんだろう?」
「そ、そんな…」瑠璃は戸惑ったような表情だ。「私は…」
「瑠璃ちゃん…」千尋は、淋しげに瑠璃の顔を眺めた。
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おまけ
3話。舞台設定的なコトが多いですね。ギャグも殆どないし。
登場人物も勢揃い。この登場人物名、しっかり宝石から取ってるんですよ。
瑪瑙・瑠璃・琥珀兄弟は見ての通りなので省略するとして、この「石原」という姓は「原石」からだったりします。
父親の輝彦は「輝き」、使用人の真田 珠里は姓名1字ずつとって「真珠」、その祖父の真田 利光は「光り」(名字は珠里の祖父だからってことだけっス)。
医者の大山 義貴は「大山」→「だいやま」→「ダイヤ」、「貴重」という感じ。
新聞記者の金月 聖は「金」と、ムーンストーンの「月」、「聖なる」という感じです。「金月」なんてヘンな姓、と思ったかもですが、声優さんにも居るのでよしとしてくださいな(笑)。
あ、あと電話がかかってきましたがあの相手の輪島は「指輪」からです。それと病院名も「宝石」の「宝」だったりします。こんな細かいトコにもつけてたりするのはただのこだわり(爆)。

さ、そろそろシリアスになっていきますよん。

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