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此処に在る理由

第8話 True Heart
「え?納屋のところに来てくれって?」
聖は突然部屋にやって来た知之の言葉に驚いた。
「はいっス」と知之。「大事な話があるんっスよ」
「大事な、話…?」訝しげな表情の聖。「…分かったわ」
「宜しくお願いします」知之はそう言うと、そそくさと走り去って行った。
「……」その様子をじっと見つめる聖。

聖が納屋に向かうと、其処には他の面々も集まっていた。少し陽が差して来た。
「あれ、聖君もか」と大山。
「大山さんも?真田さんや珠里ちゃんまで…」
「ねぇ、千尋ちゃん…」琥珀の肩を持って瑠璃が言う。「一体、何んの用なの?」
「大丈夫。烈馬達のことだから…」
その時、納屋の中から祥一郎と烈馬が出て来た。
「おっ、集まってくれてますね」と烈馬。
「一体、此れは如何(どう)したっていうんだ?」大山が不機嫌そうに言う。
「簡単なことですよ」祥一郎が言う。「この館で起きた連続殺傷事件の、真相ですよ」
「し、真相って…」と真田。「犯人は、輝彦様だったのでは…?」
「いいや、石原サンは殺されたんだ。真犯人に罪を着せられてな」
「し、真犯人…?」珠里は少し顔を強張(こわば)らせる。
「で、でも…」と琥珀。「あの納屋は密室状態だったと…」
「そうだぜ篁」弥勒が言う。「ドアの鍵は石原さんの死体が握ってて外から密室を作るのは無理だって先刻おめぇが言ってただろ?あの窓だって俺でさえ通れなかったんだし」
「…通ってみようとしたんだ」呆れ顔の瑠璃。「でも、確かにあの窓は子供くらいしか通れない筈だし…」
「瑠璃、今何んて言った?」
「え?」いきなりの祥一郎の言葉に驚く瑠璃。
「あの窓は子供くらいしか通れな…」言いながら、祥一郎の意図に気付きだす瑠璃。「…ま、まさか…」
「そういうこと」と祥一郎。「あの窓は16歳の弥勒では通れなかったが、10歳の子供なら通れるんだよ。そうだよな?琥珀」
「そ、それじゃあまさか…」聖が言う。
「そう」と祥一郎。「つまり、石原サンを殺してあの納屋で首を吊らせることが出来るのは、お前しかいないんだよ、石原 琥珀
「え…」瑠璃は、思わず触れていた琥珀の肩を離す。
「瑪瑙サンを殺したのも、瑠璃を殴りつけたのも、全部お前がやったことだよな」
「そ、そんな…」と聖。「こんな子供に、人を2人も殺すなんて…それにあの足跡は…」
「足跡は全部コイツが石原サンの靴でも持ってきてわざとつけたモンだよ」祥一郎が言う。「瑠璃の部屋のベランダやら琥珀の部屋やらにやたらと足跡が残されていたのは、犯人が大柄な人間だと印象付けたかったからだ。ちなみに、石原サンを殺しに行ったのは自分の部屋に入ってすぐだ。すぐさま窓から部屋を抜け出し(この時は足跡が残らない様に排水溝の上でも歩いたんだろう)、予め納屋に呼び出しておいた石原サンを首吊りと同じ跡が残るように絞殺し、施錠した後天井から吊るし鍵を手に握らせて窓から外に出て、今度は石原サンの靴を履き後ろ向きに歩いて、雪の上に跡を残して部屋に戻る。そしてガムテープを貼ってから窓を割って、部屋に足跡を残してベッドに横になって悲鳴を上げた、という処だ」
「窓ガラスにガムテープを貼ったのは、割れる音を部屋の前に居た羊谷君達に聞かれて、まだ準備をしてる時に入って来られない様にする為っスね」と知之。
「で、でも…」と瑠璃。「なんで琥珀が、兄さんや父さんを殺したりなんか…」
「その理由は、此れや」烈馬が1枚の書類を出して言う。
「何ですか、それ…?」と真田。
「東京の警視庁におる金田っちゅう刑事に頼んで、石原さんが2年前に起こした医療ミス事故について調べてもろうたんや。で、これがその調査結果や」烈馬は書類を皆に見せる。「注目すべきは其処に載っとる、被害者が家族と一緒に映っとる写真や」
「写真…?」覗き込む一同。「…こ、これって…」
被害者の横に映っていた少年の姿は、眼前に居る琥珀に瓜二つであったのだ。
「これ、どういうこと…?」と瑠璃。
「その書類によると、被害者の玉置 真里菜さんはその3年前に夫を亡くしていて、その当時は一人息子の晶(あきら)と2人暮らしやったらしいんや」烈馬が言う。
「…てことはまさか…」と大山。
「そう、そいつは石原 琥珀なんかじゃない…」祥一郎が言う。「玉置 晶だ」
その瞬間、琥珀は視線を落とした。
「…そ、そうなの…?琥珀…」瑠璃が恐る恐る尋ねる。
「…そこまで調べられてたんじゃ、もう太刀打ち出来ないなぁ」
「こ、琥珀…」瑠璃は、口調の変わったその少年に顔を蒼褪(あおざ)める。「まさか、本当に…」
「そうだよ。俺の本当の名前は、玉置 晶。あの男に殺された、玉置 真里菜の息子さ」
「き、君があの時の女性の、息子…?」と大山。
「大山さん、御存知なんですか?」聖が尋ねる。
「ああ…2年前にウチの病院に入ってきた女性で、確か糖尿か何かだったんだが、手術を担当した石原がヘボって、彼女を死なせてしまったんだ。彼女の親が病院と石原に激しく言い寄った結果石原は病院を辞めたんだが…」
「よく覚えてんじゃん、あんた」晶が言う。「あの男も、それ位責任感持っててくれりゃあよかったのになぁ」
「それって、どういう…?」と真田。
「俺、石原が病院を辞めた後、必死で石原の事を色々調べたんだ。で、この北海道で宝石集めをしてることとか、子供に宝石の名前つけて髪まで染めさせてることとか知って、上手く此処に潜り込むことにしたんだ。家宝にしてる原石の残り一つが琥珀だから、"琥珀"と名乗って琥珀色に髪を染めてれば、もしかしたら受けいれてくれるかもってな。でも、奴は数回俺の顔見てる筈だから、無理かもしれねぇと思いつつ此処に来たんだ。そしたらアイツ、俺の事なんか何も覚えてなくてさ。大喜びで俺を自分の子供として認めて、宝石コレクションの一つに加えやがったんだ。その時、俺決めたんだ。母さん殺しといてのうのうと生きてやがる石原を殺して、この家ごと消し去ってやろうって。だから、アイツの子供も殺すことにした」
「じゃあ、何で…?」瑠璃が言う。「何で、私は殺さなかったの…?いっそのこと、兄さんや父さんと一緒に殺してくれた方が…」
「優しく…してくれたから」
「…え?」戸惑う瑠璃。
「何んの血の続(つ)ながりもない俺に、優しくしてくれたのが嬉しかったから…かな」琥珀の瞳に、薄(うっす)ら光るモノがあった。「…だから、殺さなかった」
「…一つ、いいですか」
「え?」一同は、突然真田が言葉を発したのに驚いた。
「此れは勝手な私の憶測ですが、屹度(きっと)輝彦様は、貴方がその女性の息子であることに気付いていたんだと思います」
「…え?」晶は突然の言葉に戸惑う。「な、何言ってんだよあんた…そんなことある訳…」
「輝彦様は医者を辞めてから、玉置様の事を案じて度々私に調べる様申しておりました。それが琥珀様がいらしてからはぱったりと無くなり、代わりに琥珀様を出来る限りを尽くせと申しておりました。彼(あ)の頃はそれが何故か分からなかったのですが、恐らく…」
「…嘘だ」晶が言う。「嘘だ、嘘だ…あの男がそんなこと…」
「あのヒトは、あんたが思ってる程冷たい男じゃないわよ」
「え…」晶は声のした方を向いた。聖だった。
「だって然うでしょ?自分の子供が可愛くない親なんて居ないのよ。其れが譬(たと)え、血が続ながってないと分かっていてもね」
「え…?」聖の言葉は、晶だけでなく、別の男の心も搖らした。

その後、吹雪が止んでやってきた北海道警の車で、玉置 晶は連行されていった。
「あ、あの、聖さん…」烈馬が尋ねる。「あなたは一体…?」
「…さぁね」聖は素っ気無く言う。「…どうせ、あたしの父親も死んだしね」
「……?」烈馬は首をかしげた。

その時千尋は、瑠璃と話していた。
「じゃあ瑠璃ちゃん、神奈川には帰らないの?」
「うん、暫くはね…」と瑠璃。「…色々あったしね」
「そっか…」
「ま、心配しないで。手紙も書くし、すぐ会いに行くからさ」
「うん」
「千尋ちゃんも、烈馬くんと仲良くネ」
「…え」ほんのりと顔を赤くする千尋であった。

そしてこっちは弥勒が時哉に話している。
「オイラ一つだけわかんねぇんだけど」
「何がさ?」
「なんでわざわざ琥珀の原石を納屋ん中に残してたんだ?置くんなら琥珀の部屋なんじゃねぇの?」
「あれは多分、"琥珀"が石原さんを殺したっていうのを、アイツが天国に居る母親に示したかったからってトコだと思うさ。"母の仇(かたき)"として殺したわけだしさ」
「ふーん…そんなに母親って恋しいモンなのか?」
「そうだろ普通」時哉は少し驚いたような表情で弥勒を見る。「お前は違うのさ?」
「…まぁな」弥勒は少し顔をそむけて言う。そして、傍に居た祥一郎の方を見る。「篁も、そうなのか?」
「…かもな」
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おまけ
事件解決。犯人予想は当たりましたか?
一番のミスリードは聖のつもり。なんか最後まで謎残したまんまだし(笑)。
瑠璃や珠里も犯人かなと思った人居るかもですが、残念でした。

最後数行はちょっとワケありな感じですねぇ。まぁこの辺がちょっと9話に関係するわけですが。
弥勒がこんな反応を示したのにもちゃんと理由があるのですよ。その辺は4つくらい後のお話で明らかに。(笑)

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