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Nostalgia

File8 Verbindung 〜つながり〜
「遺書にあった内容を加味しながら事件の流れを整理しておくと…」
色々と書かれたホワイトボードの前で勝呂が言う。
「まず金曜日の昼休みに立川さんが生物準備室で寺林さんを撲殺、それを岡村さんに言われて生物実験室にやって来た朝霞さんが発見。この時何故か寺林さんの左目が潰されていた。また立川さんが生物準備室から出てくるところを井上さんが目撃していました。
 その日の夕方、立川さんのもとに何者かから電話があって自分が寺林さんの左目を潰したと脅され、立川さんは指示されたとおりその夜工事現場(旧体育倉庫)で蛭田さんを殺害し跳び箱を乗せた。その作業中に学ランのボタンが外れて落ちたらしく、そのボタン並びに跳び箱の持ち手についた指紋が立川さんのものと一致しています。
 更に土曜日に電話があって自殺を強要された立川さんは、例の遺書を遺して服毒死した、それを時哉さんとお師匠様が鍵のかかっていなかった玄関を開けて見つけたということですね」
「何で鍵がかかってなかったんっスかね?」知之が首を傾(かし)げて言う。
「きっと立川君は、犯人に自分が自殺したことを確実に確認させたかったんやろな」と烈馬。「遺書によれば10時までにあの毒を飲むよう指示されたらしいから、10時に犯人がそれを確認しに来ることは立川君にも分かっとった筈や。現に宅配便風の人物が来たっちゅう証言もあったし。あるいはそうするための犯人の指示やったんかも知らんけど」
「あとはあの遺書をわざと犯人に見つけさせ、その下にあるパスワード欄に気づかれねえようにしたんだろうな」と祥一郎。「犯人にとっちゃさっさと確認して出たかった筈だから、一見シンプルな遺書しかないあのディスプレイを見りゃその下までは確認せずに帰るだろ」
「あとさっきの話だと…」柏木が言う。「少なくとも蛭田君殺害は立川君の意志ではなかったし、跳び箱を乗せて七不思議になぞらえたことも犯人側の意志ということね」
「そうなるな…犯人は蛭田に動機があった。寺林には動機が無くてもいい」と祥一郎。「羊谷サン、確か前に、蛭田に動機がありそうな奴について言ってたよな」
「ああ…」手帳をめくる惣史。「ええと、蛭田と同じテニス部員でキャプテンの池上 一樹(かずき)という生徒は何か蛭田とトラブルがあったらしいし、今名前の出た朝霞も井上もテニス部員で岡村もテニス部の顧問、何か関係があったかも知れない」
「そう言えば、ちょっと気になることがあるんですけど…」と勝呂。
「何?」
「木曜日も金曜日も、その日の宿直は国語教師の風見さんという方だったそうなんです」
「え、二日とも?」烈馬が怪訝そうに言う。「ふつう宿直は当番制やから、1回あたったら次は何週間も先なんちゃうん?」
「それが、木曜のほうは元々宿直をする筈だった坂本(さかもと)さんが身内の不幸とかで担当できなくなり、突然風見さんにバトンタッチすることになったそうで…」
「でも、金曜に自分が宿直をすることが分かってるなら、その前の日の宿直なんか代行しないと思うっスけど…」
「はあ、なんかどいつもこいつも怪しいことしてるさねぇ…」と時哉。「まぁとりあえず、池上・朝霞・井上・岡村・風見の5人にお話でも伺(うかが)ってみるさ」
「え?でも今日日曜だし、ひとりひとりあたるのは…」
「俺のカンが正しければきっと…」そう言うと時哉は、携帯電話を取りだした。

「なんだよ羊谷」携帯電話片手に話す秀俊。「オイラ今から野球部の練習で、学校着いたトコなんだけど」
「お、そりゃ丁度よかったさ」相手の声が弾む。「ちょっと確認してもらいたいことがあってさ。今テニスコートにテニス部員居るさ?」
「テニス部ー?」テニスコートの方に目をやる。「ええと、10人くらい居るかな」
「そっか、サンキュ」そう言うと、電話口からはツー、ツーという音しか聴こえなくなった。
「…何なんだ、今の」

惣史と柏木の車が秀文高校の前に停まる。
「えっと、テニスコートはあっちだったさね」
一同は車を降り、グラウンドの端にあるテニスコートに向かった。
「お、あれは確か朝霞…」
テニスコートの隣にある更衣室から、やや長髪の青年がテニスラケットを手に出てくる。
「おーい、朝霞ー」
「え?」青年は名を呼ばれふと振り向く。「あれ、羊谷君、どうしたの?」
「ちょうどよかったさ、ちょっとテニス部の何人かに用事があってさ」
「用事…?」
「少々」惣史が警察手帳を見せながら言う。「例の事件についてお伺いしたいもので」

「僕が池上ですけど…」
校舎の一室に、少し茶色がかった髪の青年が入ってくる。
「わざわざお呼び立てしてすみません」惣史が言う。「まぁそこに座ってください」
「すみませんが練習中なので、できれば手短にお願いします…」
「心配しなくても大丈夫さ、池上先輩」笑顔で言う時哉。
「は、はぁ…」それでも不安げな表情のまま腰掛ける池上。
「さて池上さん、おとといこの学校で起こった2つの事件についてはご存知ですね」
「ええ、まあ…寺林や蛭田が亡くなったと聞いて驚いていますけど…」
「君とその蛭田君の間に、何かトラブルがあったらしいと聞いているんですが」
「トラブルって言っても、大したことじゃないですよ。僕が次期キャプテンに決まってから蛭田の機嫌が悪かっただけです。蛭田は絶対自分がキャプテンになる筈だと信じきっていたようですから。何か1年生たちにも八つ当たりしていたみたいですけどね」
「そうですか…寺林君についてはどうですか」
「寺林は確かに同じクラスでしたけど、そんなに親しくもなかったですし、彼は最近あまり授業にも出てませんでしたから、話す機会すらそんなに無かったですよ。…もしかして、僕疑われてるんですか?」
「いえいえ、一応さ一応」時哉は微笑んで言う。「一応ついでに、金曜と土曜の先輩の行動を教えてもらっていいさ?」
「行動って言っても…」後頭部に左手をやって言う池上。「金曜は普通に授業に出ていて、昼休みはテニス部の練習があって、事件があったから午後の授業も練習もなくなったからそのまま家に帰り、夕方にバイトに行きました」
「バイト?」
「はい、学校から家に帰る途中にある中川家(なかがわや)っていう牛丼屋に、金曜から日曜の18時から21時のシフトで入ってるんです。その日はバイトが終わったらそのまま帰りました」
「家には誰か家族が?」
「いえ、僕は今一人暮らしをしていますので。蛭田の件を聞いて土曜の練習も中止したんですが、身体が鈍(なま)らないように昼から河川敷のテニスクラブに行ってました。夜はまたバイトがあって、大体9時半くらいに家に帰りました」
「そうですか、分かりました」

「なんでおれまで事情聴取受けなきゃいけないわけ?」
次に部屋に入ってきたのは、井上 暁だった。
「一応さ一応、気にすんなって」またも笑顔で言う時哉。
「言っとくけど、おれ別に蛭田サンに殺意とか持ってないからね。そりゃ朝霞みたいに蛭田にいじめられてたのなら話は別かも知れないけど?」
「え、そうなのさ?」
「まぁちょっとしたことばかりだったから、朝霞も殺したいくらいになんて思ってないと思うけど。それに、疑わしいのはあの立川ってヤツなんじゃないの?そっちに話聞いたら?」
「まあまあ…」と惣史。「そう言えば君は、昼休みに生物準備室から立川君が出てくるところを見たって言ってましたが」
「嘘じゃないよ、確かにこの目で…」
「いや、その真偽は別として一つ聞きたいんだ。君はどうして生物準備室のあたりに居たんですか?昼休みにはテニス部の練習があった筈でしょう」
「ああ、おれあの時、音楽室に用事があったんだ。ほら、音楽室って廊下の突き当たりだから、生物準備室見えるでしょ。テニス部の昼練は必須じゃないからサボってもいいし」
「何の用事さ?」
「それはプライベートなことだから黙秘。ちなみにおれ以外誰も居なかったから証明は出来ないけどね」
「んじゃ金曜と土曜の行動も教えて欲しいんだけどさ」
「それも黙秘。どこに居ても勝手でしょ。どうせおれん家は両親共働きだから家に居たとしても証明できないし」
「あっそ…」呆れ顔の時哉。「じゃ最後に一つ。井上は、例の七不思議ってやつを誰から聞いたか覚えてるさ?」
「何、突然」右親指の爪を噛む井上。「そんなの覚えてるわけないじゃん、ずっと前の話なんだし」 「なるほどね…」

「確かにぼくは蛭田先輩に色々ちょっかい出されてましたけど…」
次に部屋にやって来たのは朝霞 純也である。
「それで警察の人にあれこれ聞かれるほどのことじゃ…それに容疑者の立川って人が自殺したって聞きましたし…」
「まあまあ、一応だしさ」今日何度目かの“一応”を言う時哉。「えっとまず、もう一度寺林サンの死体を発見した時の状況を教えてもらっていいさ?」
「状況って、おとといも言ったし、羊谷君も知ってると思うけど…テニス部の昼練が終わって5時間目始まった直後、岡村先生が授業プリントを忘れてきたからって言ってぼくに、生物室か生物準備室、どっちでもなかったら職員室の机の上にあるから取ってきてくれって言って。でぼくはまず生物室に行って色々探してみたけど何もなくって、次に生物準備室に行ってみたら…」
寺林の様子を思い出したのか、やや身体を震わす朝霞。
「おっけ、ありがと」と時哉。「確かお前の悲鳴が聞こえたのは教室を出てから5分か10分くらい経ったとこだったさね。そん時、あの部屋には入ったさ?」
「え?ううん、怖くて入ってないけど…」
「そっか。あととりあえず聞いてることなんだけど、金曜と土曜の行動について、教えてもらえるさ?」
「行動…?金曜はやっぱり羊谷君も知ってる通り、5限の途中で学校終わって、それからは怖くてずうっと家に居たよ。土曜は昼に気晴らしにちょっと駅前のあたりまで買い物に行ったけど、夜はずっと家に居たと思う」
「家族と一緒でしたか?」惣史が聞く。
「あ、えっと…」襟の辺りを右手で触りながら言う朝霞。「うちは、ぼくが小さい頃に両親が離婚していて母さんと二人暮しで、今は母さんもちょっと家を空けてて…」
「なるほど、じゃあ家に居たことを証明することはできない、と」
「あ、でも金曜は夜ピザを頼んで、9時ごろにちゃんとそれを受け取ったから、それなら…」

「羊谷警部」部屋に柏木が入ってくる。
「ん?例の教諭2人は連絡とれたか?」
「それが、風見さんは職員室に居てもうすぐこちらに来るって言ってたんですが、岡村さんは自宅に居たそうで、今から学校に向かうとのことです」
「妙さね…」
「ええ、テニス部の練習があるっていうのにその顧問が来てないなんて…」
「いや、そっちじゃなくてさ」
「え?」
「テニス部の顧問すら来てねえのに、特に何の用もない筈の風見は来てるっていうのが、何か妙じゃねえさ?」
「もうすぐ期末試験なんだろ?問題でも作りに来たんじゃねえのか?」
「あ、風見さん来ましたよ」廊下を見やる柏木。
「……」時哉はゆっくりと視線を下げた。


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おまけ
自分でも思ってますが、Keyzってヒントが長い証言のどっかにあるってパターン多いですよね。
それがいいことなのか悪いことなのかはわかんないんですが、あんまり続くのもどうかなーとは自分で思ってます(苦笑)。
弥勒は冒頭以来久々に出てきましたが、あいにく次に出てくるのは最後の第11話だったり。残念っ。
なお牛丼屋の「中川家」という名称は前々からどこかで使おうと思ってました。「吉野家」みたいな名前ですが、勿論ああいう意味も入ってるんですよ(笑)。

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