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Pinch Kicker

第2話 give up?
とりあえずジャージに着替え、再び堀江の前に現れた知之。
「えーっと…」と堀江。「とりあえず君がサッカーどれ位出来るか試してみたいんだけど」
「…でも僕、サッカーなんて碌にやったことないっスよ…?」
「まぁとりあえず、だよ。そんなに緊張しないで」堀江は笑って言う。「じゃあまずはリフティングから…」
「リフティング…」と知之。「…って、何っスか?」
堀江をはじめその場に居た全員がすっ転げてしまう。「り、リフティングも知らない…?」
「あ、はい…」なんかマズイことでも言ってしまったのだろうかという表情の知之。
「り、リフティングってのはな、麻倉」岩代はボールを拾い上げ、実際にリフティングをして見せる。「こーやって、足とか体を使ってボールを出来るだけ長く地面につけないようにするのを言うんだよ」
「あ、それ見たことあるっス」と知之。「でも多分出来ないっスよ…?」
「ま、モノは試しだよ」堀江が知之にボールを手渡す。「もしかしたらやってみたら上手かったりするかも知れないしね」
「そうっスか…?」ということで知之は足にボールを落とし、蹴り上げてみた。次の瞬間、ボールは傍に居たサッカー部員の顔面にまっしぐらに向かい、彼の頬に思いっきりぶつかった。
「あぁっ!ごっ、ごめんなさいっスっっ!!」知之は彼に深々と頭を下げた。
「だ、大丈夫ですか?桜庭先輩…」駆け寄る岩代。
「痛ったぁ…」桜庭と呼ばれたその生徒は、真っ赤になった頬を押えながら言う。
「す、すみません…」知之も駆け寄り、再び深く頭を下げる。
「…君、浅倉の代わり?」桜庭は予想に反し少し笑って言う。「割とええシュートするやないか」
「あ、今のシュートじゃなくてリフティングだったんだけど…」と堀江。
「…あ、そう」あきれ顔の桜庭。

その後も、ドリブル・パス・シュート・ゴールキーピングなど様々な練習をしてはみるが、どれもこれも矢張り無惨な結果に終わった。
「はぁ、はぁ…」荒い息を上げ地面にへたり込む知之。
「おいおい、まだ15分しかやってないんやろ?」さっきの一件から知之の練習に参加している桜庭が言う。「いっくら何でも早すぎちゃうか?」
「はぁ、はぁ、そんなこと、言ったって…」と知之。
「ま、まぁ、練習してゆけば何とかなるって」堀江が言う。
「どうかな」
「え?」一行は、声のした方を向いた。強面な青年が立っていた。「ど、どういうことだ?猪狩」
「あの浅倉の代わりというから、よっぽどの奴だろうと思っていたが、どうやら俺の思い違いだったようだな」猪狩と呼ばれたその青年が言う。「サッカーってのは、ロスタイムも考えれば90分以上ある。その6分の1の15分で音を上げちまうような奴に、90分なんか耐えられる訳がない」
知之は顔を下げた。
「相手はどうせ風祭商だ。やってもやらなくても負けると分かっている相手に、不満足なメンバーで抗うくらいなら、いっそ出場しない方がマシだろう」猪狩は猶も続ける。「その方が、俺たちにとっても風祭商にとってもいいと思うがな」
一同は黙り込んでしまう。誰も猪狩の言葉に反論できる者はなかった。
只一人を除いては。
「…そんなの…」
「ん?」猪狩は、思わぬ相手が言い返したのに驚いた。息を切らした知之だったからだ。
「そんなの…やってみなきゃ分からないじゃないっスか…やってもやらなくても負けるなんて言っても…もしかしたら勝てるかも知れないじゃないっスか…」
「……」今度は猪狩が言葉を閉ざす。
「確かに…僕は満足にサッカーの基礎も出来ないっスけど…僕が居れば試合に出れるんだったら…僕は参加するっスよ…譬え…15分で挫けてしまっても……」
「麻倉…」岩代が倒れかかった知之の体を支える。
「…ふん、勝手にしろ」
猪狩はその場を離れていった。
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