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Keys Quest

第1話
いつかのどこかに、キーズ国という国が存在しました。
そこは、剣や魔法やそういうファンタジックなものがいろいろある世界でした。
説明がいい加減ですみません。
そして、その国にある小高い丘の上に、一軒の家が建っていました。
物語はそこから始まるのです――。

「っしゃ!今シーズンは豊作やw」
カゴいっぱいの野菜を抱え、青年が家の中に入ってくる。
「お疲れ様ー、レツマ。うわー、ほんとにいい出来だねー」
エプロン姿の女性が彼を出迎える。
「せやろーw手間と暇と愛を込めて育てたからなー。あ、勿論チヒロへの愛には劣ってまうけどなw」
レツマと呼ばれた青年は、野菜をテーブルの上にどさっと置くと、その女性、チヒロに軽くキスをした。
「まったくもー、レツマったらw」

…おほん。
折角ファンタジーな世界の話だっつってんのに、なんか農家の夫婦のバカップルな会話から始まってしまいましたね…。
ですが、この時既に物語は動き始めていたのです。

「それにしても…」
チヒロはキッチンに立ち、何かを煮込みながら言う。
「3年前には”伝説の竜騎士”なんて呼ばれてたレツマが、今やただの農夫だなんてねー」
「まあええやないか。俺みたいなんにそうそうお仕事が舞い込むなんて物騒な世の中イヤやん。平和が何よりやってw」
レツマは、マグカップの中身をぐいと飲み干し、チヒロのほうへ近寄った。
「それに、なんもないからこそ、こうやってチヒロと一緒に過ごせるんやしw」

と、その時、そんな和やかな雰囲気を叩き壊すくらいのノック音が玄関から聞こえてきた。

「…って、何やねんこんな時に…」
しぶしぶ玄関に向かうレツマ。
「もしかして、”なんか”起きちゃったのかもね」
「そうやないことを願いたいけどなぁ…」
そして、レツマがドアを少し引いた途端、そのドアが一気に開かれ、一人の若い男が飛び込んできた。

「あっ、あのっ!すみませんっ!!”伝説の竜騎士”様ってこちらにいらっしゃるっスかっ?!」

「…おるよ…ここに」
レツマは、ドアにぶつけた顔面をおさえながら呟いた。

「さ、先程は失礼しましたっス…えっと、僕、城に仕える見習い魔導士のトモユキ・アサクラと申しますっス…」
家のテーブルの片方にはレツマ、そしてもう片方には先程の来客の男。チヒロはキッチンで料理をしている。
「まあ、ええけどな…ところで、そんな魔導士さんが俺に何の用や?」
肘を突きながら言うレツマ。その顔色は少し赤い。
「あ、はい、あのですね…」
トモユキと名乗った男は、躊躇いがちに述べた。
「…竜騎士様に、わが国の姫様を助けていただきたいんっス…」
「…は?」
レツマは、思わず肘から顔をずり落としそうになる。
「っと…出来ればもうちょい詳しゅう話してもらえへんかな」
「あ、す、すみませんっス…えっとですね…」

それはつい昨日のことだったっス。
僕はキーズ国のツカサ姫と二人でお城の外を歩いてたんっス。
「たまにはお城の外もいいわねー。今日は付き合ってくれてありがとう、トモユキ君」
「あ、いえ…あ、あの、ツカサ様、ちょっと、お話が…」
「え?なあに?」
「あの…僕…ずっと、ツカサ様のことが…」
と、その時、突然空が暗くなったっス。
「えっ…?」
「な、何これ…?」
そして、僕らの前に”彼”が現れたんっス…
「ハーッハッハ、オイラはチトセ山に住まう魔王、ミロクだ!」
「ま、魔王っ?!」
僕らの前に現れたその”魔王”は、少し背が低かったけれど、どこか邪悪な雰囲気を醸し出してたっス。
「な、何の用っスか…っ?!」
「いやー、ちょっとねー」
次の瞬間、目が開けられない程の強い風が巻き起こったっス。
そして、次に目を開けた時、隣に居た筈のツカサ姫様の姿が消え失せていたんっス…
「姫様っ?!どこっスかっ?!」
「ト、トモユキ君!」
声がした方を向くと、上空に浮かぶ”魔王”の腕の中に、姫様が抱えられていたっス。
「ハッハッハ、姫はオイラが貰い受けた!じゃあな!」
「えっ…ちょ、ちょっと待ってくださいっス!!」
「トモユキくーんっ!!!」
そうして、暗い闇色の空に、”魔王”と姫様は消えていってしまったっス…

「…なるほど?ほな、俺にその姫様を助け出して欲しいっちゅうことやな?」
舞台は再びレツマの家。
「は、はい…3年前にキーズ国に襲い掛かった竜の大群を一掃したという伝説を持つ竜騎士様なら、どうにかなるかも知れないと、王様も仰っておられましたっスし…」
「それに、君にとっても姫様は大事な人やから、とか?」
「へっ…?!」
一瞬にして顔を赤らめるトモユキ。
「隠したかてあかんよ。君、そのツカサ姫のことが好きなんやろ?せやから、何としても彼女を救い出したい。せやろ?」
「は、はい…」
そして、少しの沈黙の後、レツマが口を開いた。
「っしゃ。ま、そういうことやったらこの竜騎士ことレツマ様が、人肌脱いでやろうやないか」
「ほ、ホントっスかっ?!」
「ああ。その代わり、条件が一つある」
「じょ、条件…?」
「君も、ついて来てもらうで」
「え…ぼ、僕、そんな魔術とか上手じゃないっスけど…」
「それでも回復役くらいにはなってくれるやろ?それに…」
レツマはトモユキの眼をしっかりと見詰める。
「姫様は最後に君の名前を呼んだんやろ?大切な人なんやったら尚更、君が助けに行かんとスジが通らんやないか」
「……はい…」

そんな二人の様子を、チヒロはキッチンから微笑んで見ていた。
「やっぱり、こういうことが起きちゃうのよねー…ま、いいか」


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