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強盗犯・矢吹烈馬


第1話 矢吹烈馬・逮捕
「…で?なんで姉貴が証言なんかしとるんや?」
「なぁに?何か不快そうやん…あたしはホンマのことを言うただけやで」
ここは警察署。一室にいたのは、矢吹と一人の女性であった。
「そりゃそうやけどなぁ…」
「ならええやん。さっさと白状したり」
「まっ、まさか姉貴まで俺がホンマにコンビニ強盗やったって思っとるんか?!」
そう、この女性、実は矢吹の姉の里夏子だったのだ。
「当り前やろ?あのコンビニに強盗犯が入った昨夜の9時ごろ、あんたがあのコンビニにおったん防犯カメラに撮られてたんやで?レジの方を撮影してたもう1台の防犯カメラは故障中やったけど、店員がちゃんと"犯人は茶色がかった髪で長身の中学生か高校生くらいの少年"って証言してるんやし、目撃者もおる。早ぅ認めたほうが楽になるで」
「アホ抜かすなや」ちょっと苛立った様子の矢吹。「俺があの店に行ったんは8時半頃、ただミネラルウォーターと雑誌を買うただけや」
「でも、レジの横の不要レシート入れに入れてあったあんたの指紋つきのレシートにはちゃんと9時2分って書いてあったらしいやん。あんたが8時半頃に行ったっちゅう証拠はあるん?」
「証拠はないけど…でも帰ったら丁度9時からのドラマが始まっとったんや」
「そんなん信じられると思う?とにかく、あたしはあんたの友達のたか…えっと…」
「篁君?」
「そうそう、その篁君たちに事情は説明しとくから、やっとんならさっさと自白しいや」
「ちょ、ちょっと姉貴!」里夏子は部屋を出て行った。

麻倉が背の高い女性にあった次の日、篁、麻倉、羊谷、千尋、つかさは、矢吹の姉と言う人物から呼び出され矢吹の家の前までやって来た。矢吹の家は4階建てのマンションの2階で、一人暮らしだと聞いていた。
「矢吹の姉さんってどんなのさね?」
「さぁ…わたしも話でしか聞いたことないからなぁ…確か剣道が強くて、大学でも剣道のサークルに入って時々全国試合にも参加するらしいとは聞いたけど」と千尋。
「まぁそんなに奇麗な人じゃないだろ」篁はそんな事を言いながら呼び鈴を鳴らした。
「はーい」その声とともにドアを開けたのは、里夏子だった。
「あっ!!」麻倉は里夏子の顔を見ると思わず驚きの声を上げた。
「あ、君は確か駅の売店の…」里夏子も気づいたようである。
「知之クン、この人知ってるの?」つかさが聞く。
「うん、昨夜僕がバイトしてる駅の売店に来たお客さんっス。閉店間際に来たからよく覚えてるっスよ」
「さ、あがって」里夏子はそう言って5人を部屋にあげた。
「…って、ここお姉さんの部屋じゃなくて烈馬の部屋でしょ?(^^;)」
「かまへんかまへん、どーせあの子は今警察署やし」
「け、警察署…?」一行は首をかしげた。
「あ、その辺は今から詳しゅう説明するから、ほら」里夏子はスリッパを差し出す。
「それにしても、矢吹の姉さん、予想以上に奇麗な人さね」羊谷は篁に耳打ちした。
「ちょっと意外だな」篁は笑って言った。

「え?昨夜のコンビニ強盗って烈馬だったの?!」
里夏子が例のコンビニ強盗の事件の話をしたのを聞いて、千尋が言った。
「まさか矢吹が強盗するとはなぁ…」と羊谷。
「ちょっと待って、まだ誰もあの子が犯人やなんて言うてへんで」
「え?」
「っちゅーか、あの子はまず間違いなく犯人ちゃうし」
「どういうことっスか?」
「最初中垣内っていう刑事さんから話聞いたときからあの子が犯人やないってわかってたんや。店員の証言を聞いたときから」
「店員の証言って、"犯人は茶色がかった髪で長身の中学生か高校生くらいの少年だった"ってヤツ?」とつかさが訊く。
「そう。だってもしあの子が犯人やったら…」
「"関西弁"か…」
「え?」里夏子の言葉を遮るように言った篁の言葉の意味がわからず戸惑う一同。
「だって強盗だぜ?もし矢吹が犯人なら、店員に向かって"金出せや"とか関西弁で言ってるはずだろ?そんな印象的な特徴は、"茶色がかった髪"だの"長身"だのよりかなり具体的で犯人の絞り出しが簡単に出来そうなものだからまず言うはずだ。なのにそれを言わなかったってことは、ただ単に買い物に来ていた矢吹を犯人に仕立て上げる為に矢吹の特徴を証言したが、声や口癖などは聞いてなかったってことに違いねぇだろ」
「なるほどぉ…」一同は感心する。が、里夏子は違っていた。
「君すごいやん!もしかしてあの子の手紙にあった篁君って君?」
「え、ええ…まぁ」里夏子のテンションに押され気味の篁(笑)。「里夏子サンこそ推理お上手じゃないですか」
「ああ、あたしは高校くらいから推理小説にハマっちゃってね♪」
「…そうっスか」
「それじゃあとりあえず、その店員に話聞いてみるか」と篁。
「でも、どうやってその店員を割り出すさ?」
「羊谷のオヤジさんに聞くに決まってるだろ」

一同は、コンビニの店員の秀島 直人の元へ行った。
「夕べの事件のこと?どうしてそんなことをあなた達に言わなきゃいけないんですか」長いめの髪をいじりながら、ちょっと不機嫌そうに言う秀島。
「あ、申し遅れましたが私(わたくし)、例の少年の弁護を担当することになりました夏目 里美(なつめ・さとみ)です。よろしく」
嘘つくの巧いなぁ…と篁たちが思うくらい堂々と言っちゃう里夏子。
「ふーん…で、なんで弁護士さんに子供がくっついてるわけ?」秀島はなおも不審そうに言う。
「あぁ、私こう見えても40で、息子達が私の仕事の様子を見たいと言うものですから…」…おいおい。
「…あっそ」しかも秀島も何故か納得する。「で、事件の何を聞きたいんだ?」
「えーっと…」里夏子は手帳を見ながら言う。「秀島さんは夕べ、午後6時からあのコンビニで働いていたんですよね」
「ああ、毎週月、火、金、土曜の6時から12時まで働いてるからな。その時もシフト内だったんだよ」
「店長の大坪さんが入るのが10時からだそうですね」
「ああ、だから何か?」
「6時から10時まで、あなたはあのコンビニで一人でいるということになりますよね」
「待てよ弁護士さん、なんかあんた、俺が例の事件をでっち上げたとでも言いたそうだがよ、事件のおきた時には偶然にも目撃者がいたことぐらいあんたも知ってるだろ?俺は間違いなくあの少年に脅されて金を盗られたんだ」
「そうですか…」ふと部屋の中を見る里夏子。「秀島さん、あなた、格闘技が好きなんですね」
「ああ…」部屋に張ってあるK-1のポスターを見ながら言う秀島。「オレ自身昔から空手やってたからな」
「空手をやっているような人が、明らかに自分より年下の"強盗犯"にそう易々と金を渡したんですか」
「ただ単に怖くなっただけだ。どんなに空手やってたって胸を刺されりゃ命ねぇだろ」
「そうですか、それじゃああと1つ…」里夏子はまた手帳を見て言う。「目撃者の堤 幸絵さんのことをご存知ですか?」
「別に?あの日以外に会ったことも見たこともねぇよ。それじゃ、オレは今日もバイト入ってるから」そう言うと秀島はドアを閉めた。

次に里夏子達は、目撃者の堤 幸絵の元へ向かった。
「夕べの事件のことですか」もちろん彼女にも自分は弁護士であると嘘をついている里夏子。
「ええ。あなたは何故あのコンビニに行ったんですか?」
「あの日は大学に長いこと居て勉強していて、帰り道にたまたま通りかかったあのコンビニで晩ご飯とか買おうと思って入ったんです。そしたら、その時コンビニにいた例の茶髪で背の高い少年が、店員さんにナイフを突きつけて…」ショートカットの髪を掻き上げながら言う堤。
「その少年が立ち去ってから、あなたは何を?」
「店員さんが店の電話で警察に連絡していたので、私はその場にずっといました。警察の人が来てからは、証言をして簡単なボディーチェックを受けて帰りました」
「そうですか…あなたは、店員の秀島 直人さんのことはご存知ですか?」
「いいえ、私はあのコンビニに行くのも初めてでしたから…」

「どう思う?篁君」
電車で次の目的地、現場近くの警察署に向かっているところである。
「うーん…まぁ、秀島 直人と堤 幸絵が口裏を合わせているって感じなんだよなぁ…確証はないけど、秀島が空手ができるのに抵抗しなかったことや、堤がやっぱり"茶髪で背の高い少年"と言ったこととか」
「そうやね…なかなかあの二人、ボロを出しそうにあらへんしなぁ」
「ところで里夏子サン…」羊谷が言う。
「ん?何?」
「なんであんなに嘘とか辻褄(つじつま)合わせ上手なのさ?」
「あはは、気にしないで」

警察署で、里夏子達は事件の捜査を担当した中垣内刑事に会った。中垣内は里夏子のことを知っているので、今度は本当のことを言った。
「まったく…被疑者の少年のお姉さんが捜査まがいのことをするなんて」
「捜査まがいっちゅうか捜査ですよ。警察もホンマに烈馬が犯人やなんて思うてないでしょ」
「ですがね、我々が例のコンビニに着いた時、念のため秀島さんと堤さんのボディーチェックをしたんですが、奪われた26万7千円は見つかりませんでしたよ」
「その26万7千円って、全部紙幣だったんですか?」篁が聞く。
「ええ、1万円札が22枚、5千円札が7枚、2千円札が3枚、千円札が6枚ですけど…」
「てことは全部で38枚の札束か…それ程隠すのは難しくなさそうだけど…」
「さすがにボディーチェックまでされちゃ見つかるはずやろなぁ」
「当然ですよ、ちゃんと秀島さんのバイクの中や堤さんの鞄の中も全部確認しましたから」
「ね、ねぇ…」千尋が言う。「ちょっと思ったんだけどさ、お店の中に隠してるって可能性はないのかな」
「あっ…!!」篁と里夏子はほぼ同時に声を上げた。「その手があったんだ」
一行は現場となったコンビニに向かった。

「ははは、お店の中にお金を隠せるわけないじゃないですか」
コンビニに着いた里夏子達に応対したのは、店長の大坪だった。
「刑事さんたちが帰った後、私は店の中の整理とかしてましたけど、お金は一切出てきませんでしたよ」
「そうですか…」里夏子は周りをいろいろ見渡して言った。「あの防犯カメラって、片方壊れてたと聞きましたが…」(ちなみに今は弁護士だと嘘をついている)
「ええ、一昨日の夜からだったかな、急に映らなくなって…」
「あの防犯カメラ、テープに映像を録画してるんですよね」
「ええ、そうですが」
「テープはどれ位の長さのものを使ってるんですか?」
「3時間分録画できるものを使ってますよ。午前午後の1時、4時、7時、10時頃にテープを交換しています」
「なるほどね…このレジの時間、合ってますか?」
「レジの時間ですか?ええ、合ってますよ。間違っていたとしても簡単に直せますし」
その時、コンビニに1人の客が入ってきた。
「すみませーん、直人、いますか?」
「秀島君ならまだバイトの時間じゃないからいませんよ」大坪が言う。
「そうですか」その客は立ち去ろうとしたが、里夏子は彼を呼び止めた。
「ねぇ、君、秀島 直人さんの知り合い?」


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