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雪月花

第4話 True Intention
「ど、どうして…?」大葉は顔を蒼褪(あおざ)ませて言う。「どうして、僕の名前が、其処に…?」
「白ばっくれんなよ兄ちゃん」水谷が言う。「それは坂野が、犯人は"Jun"――つまりお前だっていうことを示したメッセージだってことだよ」
「ち、違う…!」冷汗を噴き出させながら、大葉が言う。「ぼ、僕じゃないよ…!」
「…悪いけど私、聞いちゃったのよね」
「え?」思わず声が裏返る大葉。その原因となる言葉を発した長谷を見つめる。「な、何を…?」
「大葉君は昨夜、先生と口論してたのよ…どうやら、大葉君の書いた脚本を先生が自分のモノとして発表したらしいそうね」
「な、何だって?!」
「けっ…」と水谷。「あの野郎、遂に脚本まで横取りするようになりやがったのか」
「そっ…それは…」鬱向(うつむ)く大葉。
「あ、あのー…」神山が戻って来て言う。「警察に連絡して来たんですケド、矢っ張りあと数時間はかかるそうです…」
「んじゃ、それまでこの男を拘束しとこうか」と水谷。「何処かに、ロープか何かねぇか?」
「ち、違う、僕じゃないんだ!」大葉は必死になって言う。「信じてくれ!!」
水谷が大葉を引き摺って行くのを、祥一郎は冷めた視線で見ていた。

「な、なぁ篁…」
他の一同がリビングに移動し、残った弥勒が部屋の中の祥一郎に言う。
「なんだ?」
「本当に、大葉さんが犯人なのかな…」
「…オレは、まだそうと決まってねぇと思うぜ」
「ど、どういうコトだ?」
「一寸、来てみろよ」
祥一郎に招かれ、恐る恐る室内に入る弥勒。「このパソコンが如何(どう)かしたのか?」
「このキーボードを見てみろよ」
「あ、UとJとNのキーに血がついてる…」
「ああ、つまり、このメッセージは坂野先生自身が打ち込んだモノだと思われるんだが…」と祥一郎。「そのキーボード、もう一度よく見てみろ」
「よくって言われても…」弥勒は再びキーボードを見る。そして、血痕がもう1箇所付着しているキーを見つけた。「あ、このキーは…?」
「Shift(シフト)キーだよ」祥一郎が言う。「かな文字入力の場合、このキーを使うと拗音――いわゆる『小っちゃい"あ"』とかが出るが、この様にローマ字入力の場合このキーを使うと、アルファベットの大文字が入力される」
「…それが、何か?」
「分からねぇか?"ジュン"とだけ書きたいんだったら、こんな惑(まど)ろっこしいコトせずにそのまま"じゅん"と打てばいいだろ?まして今回の場合、坂野先生は死に際に此れを残したんだから。なのにわざわざアルファベットで入力したということは…」
「そのメッセージには何か別の意図があるってコトか」
「ああ、そもそも先生は大葉さんのコトを"ジュン"と呼んではなかったしな…」
「じゃあ、坂野先生はどういう意味であの文字を?他に"ジュン"ってつく名前のヒトは居ないし、他にこんな文字が関係する名前のヒトなんて…」
「…え?」祥一郎は、ふと或るコトを思い出した。「…そうか」
「え?」弥勒は祥一郎の方を見た。
「だからあの時、坂野先生はあんなコトを言ったんだ」
「お、おい、もっと分かる様に説明してくれよ」
「つまりな…」
祥一郎は、弥勒に自分の推理を説明した。
「な、なるほど…」
「ああ、恐らく間違いねぇと思うが…」祥一郎は部屋を見廻す。「此れには証拠がねぇんだ…このヒトが坂野先生を殺したっていう確実な証拠が。おめぇ、このヒトについて何か思い出さねぇか?」
「このヒトについてって言われても…」と弥勒。「あ、そう言えば…」
弥勒は自分の記憶の中に居る"その人物"の行動を祥一郎に告げた。
「…でかしたぜ、弥勒」
「え?」弥勒は何が何んだか分からないといった表情である。
「おめぇの気付いたソレ、恐らく確実な証拠になる筈だ」
「……?」弥勒は、得意気な顔で部屋を出て行く祥一郎を怪訝そうに見ていた。

リビングに戻った祥一郎と弥勒は、両腕を縛られ柱に括(くく)りつけられている大葉の姿を見た。
「お、大葉さん…?!」驚く弥勒。「こ、これは…?」
「拘束してやったんだよ」ソファーに座っている水谷が言う。「この殺人犯が、他に誰か殺さねぇようにな」
「ち、違う…」大葉が苦しそうに言う。「僕は、先生を殺しては…」
「まだそんなコト言ってるの?」と長谷。「先生に脚本を横取りされたことに腹を立てて殺した、違う?」
「いいや、違うぜ」祥一郎が言う。「大葉さんは犯人じゃない」
「え…?」神山が不思議そうに言う。「だって、パソコンにメッセージがあったんじゃ…?」
「あれは大葉さんを表したモノじゃない。大葉さんの名前"ジュン"を表したいだけなら、わざわざアルファベットで打つ必要はねぇからな」と祥一郎。「あれは、もっと別の意味があったんだ」
「べ、別の…意味…?」弥勒にロープをほどかれ、解放された大葉が言う。
「ああ」祥一郎は顔を上げて言う。「犯人は、この中に居る別の誰かなんだよ」
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おまけ
他に比べて結構短くなっちゃった第4話です。
そのため此処も他に比べて結構短くなっちゃいます。(爆)

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