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綻びゆく絆

Epilogue
「浜松ー、浜松です…」
景色の流れが止まり、アナウンスが聞こえる。
「あ、烈馬、何か自販機で飲み物買って来てあげようか?」千尋は立ち上がり、隣の席に座る烈馬に言う。
「…何でもええよ」烈馬は窓の外を見つめたまま言った。
「…そう」千尋は再び座席に腰を下ろした。

新大阪駅を出発して以来、烈馬はずっとこの調子である。
あんな事件があったから、気が滅入っているのは分かるけど…千尋は魂の抜けた様な表情で窓の外を眺め続ける烈馬を、見続けることが出来なかった。

再び窓の景色が流れ始めた頃、千尋の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。
「だから、神奈川帰ったらちゃんと年賀状書くって言ってるさ」
「時哉、一体今日は何日だと思ってるんだ?」
「どーせギリで出しても三が日には届くさ」
千尋は通路を覗き込む。ギターを背負った青年と中年の男が歩いていた。
「とっ、時哉クン…?」
「あっ、千尋さ?」時哉と呼ばれた青年は千尋に気付いて言う。「矢吹も居るさ、大阪からの帰りさ?」
「うん」千尋はふと思い出した素振りをして言う。「あ、時哉クン達、静岡に里帰りしてたんだったね」
「そうそう」時哉の隣に居る彼の父、惣史が言う。「君達と同じ新幹線だったとはね」
「ん?矢吹?」時哉は、烈馬の様子に気付いて言う。「おーい」
「…あ、羊谷君…」烈馬は時哉の方を少し見て言ったが、再び窓の外に視線を遣った。
「…どうしたのさ、矢吹?」時哉は首を傾げる。「俺とこんなトコで逢ったのがそんなに意外じゃなかったさ?」
「うーん…ちょっと色々あってね…」千尋は、ふと何かを閃いた。「あ、そうだ時哉クン、ちょっといい?」
「え?」時哉は千尋から耳打ちをされる。「…なるほど?それは叉面白い案さね」
「お願いしていいかな」と千尋。
「ああ、全然大丈夫さ」時哉は携帯を取り出して言う。「アイツも、喜んで来てくれる筈さ」
「こら時哉、こんなトコで携帯使うんじゃないぞ」と惣史。
「わあってるさ」時哉はちょっとすねた様な表情で言う。「じゃ、俺デッキで携帯かけてくっからさ」
「お願いねー」千尋は、自動ドアを出てゆく時哉を見送った。

新横浜駅に着いた時には、もう夜がどっぷりと更けていた。
「ふぁーっ、やっと帰って来たって感じだねー」千尋は駅の真ん前で伸びをして言う。「烈馬、忘れ物とかしてない?」
「…ああ」鬱向いたまま言う烈馬。
「ったく…」千尋は小さく呟いた。
その時、彼女に近寄る一つの影があった。
「千尋ちゃーん!」
「あ、弥勒クンだ」千尋がその人物を確認したかと思ったら、もう彼は千尋のすぐ傍に居た。
「うわー、久し振りだね」弥勒と呼ばれたその人物は、懐っこい笑顔で千尋と話す。「大阪楽しかった?」
「うん、あ、ちょっと時間なくてお土産買ってこれてないんだケド…」
「いいよいいよ、オイラにとっちゃ、千尋ちゃんが或る意味お土産みたいなモノだから」
その刹那、場の空気が変わった。
「…黙って聞いとったらええ気になって、ごちゃごちゃうるさいのう」
「え…?」弥勒は千尋の隣で鬱向いていた烈馬を恐る恐る見た。年の瀬が押し迫る寒い夜ではあるが、彼の全身から怒りのオーラが滲み出まくっていた。「や、矢吹…?」
「千尋は君の土産でも何でもないっちゅうねんっ!!」烈馬は弥勒の小さい身体を羽交い絞めにしてしばき倒す。「前言撤回せぇ」
「ぐうっ、や、やめ…」顔を青くして言う弥勒。「ぐ、ぐるじい…」
「次は卍固めでもしたろうか?」
「よ、弱い者いじめじゃねぇか…ぐはっ」

「…だいぶ、元気になったみたいさね」
烈馬と弥勒の様子を傍から見ていた千尋に、隠れて様子を窺っていた時哉が言う。
「うん」と千尋。「矢っ張り烈馬に落ち込んでるのは似合わないよね」
「ホント、アイツ楽しそうな顔してるさ」
「あ、でも…そろそろ助けてあげないと弥勒クン死んじゃいそう…」
2人は死にかけの形相の弥勒の救出に乗り出した。

切れかけだった街灯の電球がぱっと点いた。
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おまけ
すごい終わらせ方ですな(笑)。
あ、別に烈馬×秀俊とかいうカップリングは想定してませんので(爆)。
ちなみに時哉と秀俊は実は友達なのです。音楽のことで趣味が合うのです。

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