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綻びゆく絆

Prologue
「はぁっ、はぁっ…」
暗い夜の道を、1人の少女が走っていた。時々後ろを振り返ると、自分を追う2つの影を見た。その度に彼女は、必死になって逃げていた。
校門が見えた。何故か校門は開いていた。
彼女は兎に角(とにかく)助かりたい一心で、その門をくぐった。
広い校庭。月明かりの下で、彼女は2つの影と共に追いかけっこをしていた。勿論、遊びではない。
「きゃあっ!」
躓(つまづ)いた。彼女は振り向いた。影の片方の手に握られているナイフが、月の光を反射した。
「いやああぁぁぁっっっっ!!」

校舎の上から、数羽の烏が飛び立った。
第1話 Meet Again

「うわぁー…もう大阪に着いちゃうんだぁ」
新幹線の窓から外を見て言う千尋。
「阿呆、お前小学生か」その隣の席で、呆れ顔をしてツッコむ烈馬。
「だってぇ、前氷上島に行く時に乗ったのより速くなってるじゃない」
「…んなことあるかい」
「ええやん烈馬、ホンマは可愛らしいとか思てんねやろ?」反対側の席に向かい合って座っている里夏子が言う。
「あのなぁ…せやけど、なんでわざわざ姉貴が来たんやろかと思っとったんやケド…」流れゆく窓の景色を見ながら烈馬が言う。「こーゆーコトやったんかいな…」
「だって烈馬、放っといたら正月明けまで帰って来ぇへんかも知れんやろ?」里夏子が言う。「それに、ホンマは烈馬かて早う帰りたかったんやろ?」
「…まぁな」
「え?どういうコト?」千尋が窓から視線を外し振り向いて言う。
「それは、着いてから話した方がええかな」と里夏子。
「え?」

小学校の校門の前で、烈馬は跪(ひざまず)いて目を閉じ、手を合わせていた。その前には、幾つもの花束やお菓子などが置かれていた。
「…あ!思い出した」その様子を怪訝そうに見ていた千尋が言う。「此処って、こないだ女の子の死体が見つかった…」
「そう」と里夏子。「先週21日の朝、この石橋坂小学校の校庭で女の子の死体が見つかって、全国的なニュースになったんやケド…此処、烈馬の母校なんよ」
「そう、だったんだ…」千尋が言う。「烈馬、全然そんなコト言わなかったから…」
「心配させたなかったんちゃう?あの子、小っちゃい頃から悩みとか誰にも話さんと自分で抱え込むタイプやから…」
「…やっぱり、里夏子さんはお姉さんなんですよね」
「…は?」目を点にして言う里夏子。「お兄さんに見える?」
「いえ、そうじゃなくって…」と千尋。「里夏子さん、わたしの知らない烈馬を知ってるんだなぁ、って…」
「うーん…ま、そりゃそやろ。15年一緒に暮らしててんもん」里夏子が言う。「せやけど…千尋ちゃんかてあと14年も一緒におったら分かるようになるって」
「じゅ、14年…」苦笑する千尋。
「ええやん、一つ屋根の下になったら14年でも40年でも」
「ええ加減にせぇ」ハリセンで里夏子をどつく烈馬。
「あ、烈馬終わったん?」何処からハリセンを取り出したんだろう、と訝しげに思う千尋をよそに言う里夏子。
「ああ…ついでやから逢いたいヒトがおるんやけど…」
「それってもしかして私のコトやろか?」
「え?」後ろから聞こえた声に振り向くと、40代ほどの女性が立っていた。
「万智子先生!」と烈馬。「今日は学校お休みなんやないんですか?」
「今日は日直なんよ」万智子と呼ばれたその女性は、千尋を見て言った。「あれ?もしかしてそのコ、烈(れ)っちゃんの恋人?」
「ああ、立派なコやろ」烈馬は千尋に向き直って言う。「このヒトは、俺の小学校ん時の担任やった三上 万智子先生や」
「あ、初めましてー」千尋はお辞儀して言う。「仙谷 千尋って言います」
「綺麗なコやないの」万智子は舐め廻す様に千尋を見る。「神奈川行って真面目に勉強してんのかと思たケド」
「なんやねん、そのケドって」
「ねぇ烈馬、先刻(さっき)言ってた"逢いたいヒト"って、この万智子先生のコト?」千尋が聞く。
「ああ…まぁ、そん中の一人やな」と烈馬。「先生、平繁君らは来ぇへんのですか?」
「もっちろん、烈っちゃんが帰ってくるて里(り)っちゃんから聞いとったから、ちゃんと此処に呼んどるよ。もうそろそろ来るんちゃうかな…あっ」
万智子の視線の先を烈馬たちが振り返って見る。5人の高校生風の男女が歩いてきていた。
「あっ、ホンマに烈馬や!」その中の1人、茶髪でショートカットの女が言う。
「おー、久し振りやなー!」烈馬も彼らの方へ向かう。「元気やったか?」
「当たり前やろ矢吹」金色に髪を染めた男が言う。「この橘 和人様がそう簡単にくたばるワケないで」
「はいはい、せやったな橘君」さらっと流す烈馬。
「なぁ烈馬」少し髪の長い男が言う。「あのコ、もしかして烈馬の彼女か何か?」
「えっ?!烈、恋人出来たんか?!」182cmの烈馬と平気で並ぶ程長身の男が言う。
「ああ、まぁな…」
「うわー、オレまだ恋人なんて出来たこと無いのに」長身の男が言う。「烈も隅に置けへんな。なぁ志帆」
「うん…そやね」黒い長い髪で眼鏡をかけた女が言う。
「あのなぁ甲島君…」呆れ顔の烈馬。
「ねぇ烈馬、そのヒト達烈馬の同級生?」千尋が尋ねる。
「ああ、紹介するわ」烈馬はまず長身の男を指して言う。「コイツが陸上部におった甲島 良介君や」
「よろしゅうなー」屈託の無い笑顔で言う良介。
「そんでこの派手な茶髪のコが、テニス部で府大会に出たこともある矢野 あゆみちゃん」
「派手で悪かったなぁ」烈馬にツッコんでから、千尋に挨拶するあゆみ。「どーも」
「それからこの金髪が、野球部の名ピッチャーやった橘 和人君や」
「橘や。よろしゅう」人懐っこい笑顔を見せる和人。
「それと、このちょっと地味な男が平繁 正継君」
「地味って…」少し不満げに烈馬を見てから千尋に向く正継。「よろしくな」
「最後にこの大人しげなんが宇治原 志帆ちゃんや」
「こんにちはー」おっとりとした関西訛(なま)りでお辞儀する志帆。
「あれ?志帆ちゃん、関西弁身についたんや?」烈馬が不思議そうに訊く。
「うん、転校してきて2年になるんやもん…」
「にしても、みんな1年弱見てへん内に色々変わったなぁ」と烈馬。「橘君もあゆみちゃんも、髪染めるなんて思てへんかったわ」
「へへへー、どう?似合うやろ?」髪を搖らし見せ開かすあゆみ。「高校入ったから染めてええってオカンが言うたんや」
「俺はガッコ行かんようなったからな、思い切って金髪にしてみたんや」和人が言う。
「え?橘君高校行ってへんかったんやったっけ?」
「ぜーんぶ高校落っこったんや、せやから今はフリーターしてんねん」
「フリーター?小松川町(こまつかわまち)にある親父さんの骨董品店は継がんかったんや?」
「あかんあかん、『あんなん俺の趣味やない』って言うてんねやから」と良介。「今は土建屋行ってるんやったよな」
「へぇー…他の4人は高校行ってんの?」
「ああ、みんな石橋坂高校行ってんねん」正継が言う。「僕だけ別のクラスやねんケドな」
「ちゅうかあたし、そのコと話したいわぁ」とあゆみ。「もっと時間あったらよかったんやけど」
「え?これから何か用事あんの?」万智子が尋ねる。
「あたしこれから、テニス部の部室の大掃除に行かなあかんねん。1年生やから遅れられへんの」
「あゆみちゃんは今もテニスやってるんや」と烈馬。「甲島君は?陸上まだやってんの?」
「ああ…オレはもうやめてん」
「何でや、あない足速かったのに、勿体無いなぁ」
「阿呆、オレなんて高校レヴェルじゃ適わへんて」自嘲気味に言う良介。「あ、オレもこれからバイトやねん」
「もしかして皆都合悪かったりするん?」と里夏子。
「あ、俺もこの後バイトや」と和人。
「僕は塾に行かなあかんねん」正継が言う。
「あ、私も、ちょっと…」と志帆。
「そうなんや…」少しがっかりした感じで言う烈馬。「ほな、夜に阿部野橋にあるあの居酒屋で叉逢おや」
「あー、『塑螺(そら)』な」あゆみが言う。「ええよ。あたしは6時には終わっとると思うで」
「オレもそんくらいやな」と良介。
「ほな6時でええか?」烈馬が皆に問う。
「うん、ええよ」志帆が言う。他の全員も同意する。
「ほな6時に『塑螺』でってことで」一同は一旦解散した。
「ほな私もそろそろ仕事に戻らんと」と万智子。
「え?万智子先生も?」
「大丈夫、私も6時に『塑螺』行くから。じゃあね」そう言って万智子は学校の方に戻っていってしまった。
「ほんならあたしらは先に心斎橋行って荷物置いてこよか」と里夏子。
「せやな」烈馬は地面に置いた荷物を担いで言う。
「え?心斎橋に何があるんですか?」千尋が訊く。
「俺のおじさん家。言わへんかったっけ?」

歩き出した烈馬達を、万智子は振り向いてじっと見ていた。
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おまけ
大阪篇第1弾。みんな関西弁です(笑)。
だんだん正しく関西弁を扱えてるか不安になってくるくらいみんな関西弁です(笑)。
此処はおかしいって言う大阪方面の方からの指摘お待ちしてます(爆)。

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