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守るべきもの


第3話 〜Seaside Story〜

一夜明けて。
篁と麻倉があくびをしながら食堂へ入ってきた。
「おはよーございます…」まだとてつもなく眠そうな篁(笑)。
「あ、おはよう。もう8時よ?」口もとに微笑を含みながら鈴香が言う。
「もうみんな起きちゃってるさ」朝食を頬張りながら言う羊谷。
「ぐっすり寝させてもらっちゃったっスね(^^;)珠代さん、僕たちの朝ごはんもあるっスか?」
「もちろんよ。今用意するからちょっと待っててね」そう言うと、珠代は台所へ向かった。
「あれ?ここで寝てた新発田さんは?」篁が聞く。新発田は夕べ篁達が寝るときまでずっと食堂のソファーで寝ていたのだった。
「さあ?今朝見てないから駐在所に帰ったんじゃない?」とつかさ。
「それじゃあ悠樹君のお父さんは?」と麻倉。
「お父さんは僕たちの起きるより前に診療所に向かってるはずです。診療時間は9時からなのに」何か意味を含んでいるかのように言う悠樹。
「ふーん…」
「ほら、二人ともご飯できたよ」2人分の朝食をお盆に乗せて台所から珠代が出てくる。朝食は至って日本的なもので、白ご飯に焼き海苔、味噌汁に鯵の塩焼きだった。
「うわぁ、こんな朝ごはん最近殆ど食べてなかったっスよ」喜びの声をあげながら麻倉は席に着く。
「ホント、懐かしいぜ」篁も席に座り朝食を食べ始める。

篁と麻倉が朝食を食べ終えてから、一行は海に向かって今城荘を出た。
その途中、左手に大きな建物が見えてきた。
「この建物は何ですか?」千尋が珠代に聞く。
「あぁ、ここは氷上島村役場よ。で、隣が駐在所よ」
「へぇ…ん?誰か出てきたで?」矢吹は役場の玄関から2人の人物が出てくるのを見た。そして、彼にはそのうち片方の女性には見覚えがあった。
「篁君、あの女の人って…」
「あ、港の前でオレ達に今城荘の場所を教えてくれた人か」篁も気づいたようである。そして、その女性も篁達に気づいた。
「あら、あなたたち…」
「ん?里律子さん、知り合いですか?」女性の隣にいた、60歳は越えていると思われるスーツ姿の男性が訊く。
「港の前で偶然出逢ったんですよ。今から海にでも行くんですか?」女性が言う。
「ええ、まぁ…」麻倉はそう答えると、ふと悠樹や珠代のほうを見た。2人ともどことなく緊張しているようだった。「どうしたっスか、2人とも…?」
「麻倉さん、その人、この島の村長さんです」
「え゛っ?!!!」とてもビックリしたような声をあげる麻倉。「ずっ、ずい分若い女性の村長さんっスねぇ…(・・;)」
「あ、村長は私じゃなくて、こちらです(^^;)」
「え…(*・・ι)」ちょっぴり赤っ恥な麻倉。
「言い遅れましたね、私はこの氷上島村の村長をしている箭内 宗之というものです」
「そして私は村長の秘書の久世 里律子です。ゆっくりこの島を堪能してくださいね。私たちはちょっと仕事があるのでこれで…」そう言うと、箭内と里律子は去っていった。

海に着くと、つかさと千尋は予め服の下に着ていた水着姿になるため服を脱ぎ、さっさと海に向かっていった。一方篁達男子陣は、簡易なシャワー場で水着に着替えた。麻倉が悠樹に「着替えないっスか?」と尋ねたが、悠樹は「あ、僕は泳がないので…」と言って、珠代たちが座っているビーチパラソルの下へ行った。
6人はしばらく海ではしゃぎ回り、昼食を取った後麻倉と千尋がビーチパラソルの下で休んでいた。
「気持ちいいっスねぇ…僕たちの住んでるところじゃこんなに広い海ないっスよ」と麻倉。
「ねぇ、知之クン」
「何っスか?」
「知之クンってつかさのこと好きなの?」
「え…(*・・*;)」いきなりの千尋の問いかけに真っ赤になる麻倉。
「あ、その顔は図星だね」笑って言う千尋。「知之クンって顔にすごくよく出るタイプよね(笑)」
「……(*・_・*ι)」ちょっと鈍感なつかさと違い、かなり鋭い千尋の攻撃に言葉の出ない麻倉。
「わたしねぇ、烈馬と話して決めたんだけど、知之クンの恋応援しちゃおっかなって思ったの」
「え…?」
「ホラ、知之クンって超オクテじゃない?だから成就させるためには助けがいるかと思ってさ」
「お、オクテって…(^^;)」まぁ強(あなが)ち否定も出来ないのだけれど。
「てなわけで、っと」千尋は立ち上がると、他の4人が戯れているところへ向かった。そして、烈馬とつかさを連れて戻ってきた。
「ど、どーしたんっスか…?」麻倉は千尋の作戦が分からず戸惑いながら尋ねた。
「あ、この辺でオイル塗ろうかなと思ったんや。俺は千尋に塗るから、悪いけど麻倉君つかさちゃんに塗ってくれへんやろか」矢吹の言葉に、麻倉はかなり動揺した。
「ぼ、ぼ、僕がっスかっっ…?!!」
「ああ、篁君と羊谷君はまだ泳いでたいって言うし、悠樹君たちはジュース買いに行ってしもうたやろ?せやから」
「でっ、でもっ、僕そーゆーのやったことないっスよっ…」もう加速する真っかっかは誰にも止められない状態の麻倉(笑)。
「だいじょーぶだよ知之くん。そんなに難しいことでもないし、烈馬くんのやってるのを見ながらやったのでいいよ」つかさは平気そうな表情だが、麻倉は平気じゃない。
「あっ、ぼっ、僕っ、篁君たちのトコ行ってくるっスっ…」もうおかしくなっちゃうかもしんない程赤くなってしまった麻倉は逃げるようにその場から離れた。
「…ホンッマに麻倉君ってオクテやな」
「作戦失敗かぁ」
矢吹と千尋のヒソヒソ会話は、つかさの耳には届かなかった。

一方ジュースを買いに行った悠樹たちはというと。
「あちゃあ、自販機売り切れだねぇ」と珠代。
「こんだけ暑いからしょうがないんじゃない?」鈴香が言う。
「それじゃあ僕、葛城さんの所に行って買ってきます」悠樹が言う。葛城というのはこの島に2つしかない店である。
「じゃあそうしてくれる?はい、お金」珠代が財布から取り出した千円札を手渡す。
「じゃあ僕もついて行くよ。1人じゃ持ちきれないだろ?」拓巳と悠樹は葛城の店に向かっていった。
「…ふぅ」珠代は自販機の隣に置いてあったベンチに腰掛けた。鈴香もその隣に腰掛ける。
「…それにしても」鈴香が言う。「珠代ってばまだあんな男と一緒に暮らしてるの?」
「…あたしの勝手じゃない、そんなこと」
「毎晩毎晩どっかの女と一緒に過ごして、ご飯も一緒に食べないような男よ?どこがいいわけ、あんなヤツ」鈴香はタバコに火をつけながら言う。
「鈴香だってあの人と付き合っていたじゃないの」
「あれは過去の話よ。今はあんなヤツ顔見ても何にも思わないわ。まぁ、実際顔すらまだ見てないけど」
「……」

悠樹と拓巳は葛城の店に着いた。
「すみませーん」
「あ、悠樹君!」店の中から出てきたのは、悠樹と同い年くらいで、やや茶色がかったショートカットの少女だった。
「あれ?深穂さん、お父さんとお母さんは何か用事でもあるんですか?」と悠樹が訊く。
「あぁ、2人揃って風邪で倒れちゃってね。今日はわたしがお店番ってわけ」
「大変だね、君も」悠樹の後ろにいた拓巳が言った。
「ところで悠樹君、その人誰?」
「あ、この人は民宿のお客さん。ジュース買いに来たんですけど…」
「ジュースね。えっと、幾つくらい?」
「とりあえず10本くらいもらおうかな」今度は拓巳が言う。

お金を差し出しジュースの入ったビニール袋をもらい、2人は店を後にした。
去り際に悠樹は深穂に言った。
「あっ、明日にでもお見舞いに行きますから」

海でしっかり遊んで、一行は今城荘に帰ってきた。
帰って来た時、駐在の新発田が、自転車にまたがって今城荘の前で待っていた。
「あ、新発田さん…」
「おお、やっと帰ってきた。どっか行っとったん?」相変わらずの調子で尋ねる新発田。
「ええ、お客さんみんなで海に…」
「それは奇遇だのう、わしもさっきまで海で釣りしとったんじゃ」そういうと新発田は、自転車の荷台に積んだクーラーボックスを開けた。
「あらまぁ、大漁じゃないの」
「珠代ハンに美味しく料理してもらおうと思てな」
「…随分平和さね、この島」小っさくツッコむ羊谷。

しかし、この呟きは翌朝、否定される事になる。

翌朝。
「ふあぁ…おはよーございます…」あくびをしながら篁が二階から降りてきた。
「今日もまた最後だね…(^^;)」静かにツッコむ千尋。
「るせーなぁ、オレは朝苦手なんだよぉ」
と呑気(のんき)に朝食を食べていた一行の元に、急いでいる様子の新発田が真剣な顔つきでやって来た。
「大変じゃ、幣原ハンがお亡くなりになったそうじゃ!」
「なっ、なんだって?!」


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