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吟遊詞人7周年記念小説「ジョングルールの七不思議」

第3話 君のなせるワザ/Written By 深駆
「それじゃ、行くか。…この城、広そうだけど…どこにいけばいいんだ?」
「あ、それなら…」
確か招待状に書いてあったような…?私は招待状を取り出した。
「なんだ、持ってたの」
疾風はそれを覗き込む。そこにはこう書かれていた。

「親愛なる雪川美寛殿
月倉疾風殿を伴って、2007年7月5日、……山の中腹にある古城に来られたし。地図を同封する。

『7』より」


「…よくこんな文章で信じる気になったね」
疾風はちょっぴり呆れ顔だった。
「ふ〜んだ、単純だって言いたいんでしょ!」
「そういう美寛の素直なところは好きだよ。でも、どこに行けばいいかは書かれていないな」
あと2秒で振り上げそうだったグーの右手をこらえて、私は辺りを見回す。左手に大きな木製のドア、正面には廊下が続いていて、右手の方には階段がある。
「う〜ん…とりあえず、階段を上ってみようか?」
私は右手に見えた階段を目指す。疾風は、少し息を吐き出してから(きっと溜め息ね)、私の後を追いかけてきてくれた。階段を上るとすぐに、扉が見える。とりあえず、ここから入って見ようかな?
「失礼しま〜す…。えっと、ここは、書斎みたいだね」
書斎には誰もいない。でも、ここにもセピア色の時間が流れている気がした。私は書斎という環境が好き。それは偏に、私の推理における師匠(?)、神崎のオジサマの影響。ちなみに神崎のオジサマというのは警察官である私の父、雪川隆臣の親友で神崎龍牙という人。もともと舞台専門の俳優だった人で、演技もさることながら、高校時代から優れた推理力を発揮して、いくつもの事件を解決してきた、いわゆる名探偵なの。そう、例えるならば若い頃のドルリィ・レーン。そのオジサマの家にも、古典推理小説がたくさん置いてある書斎がある。
さて…書斎は少し奥に長い。一番奥にはまるでステンドグラスでも入っていそうな形の窓があり、その窓の手前にデスクがあった。おそらくマホガニー製だと思われるそのデスクの上に、便箋が乗っている。それを押さえる重石として使われていたのは、アガサ・クリスティの「7つの時計」だった。
「あれ、これは何だろ?…えっと、なになに?」
私の左後ろから、疾風もその手紙らしきものを読む。そこにはこう書いてあった。

「私の研究の邪魔をする者を全て取り除かなければならない。タークスのあの男も例外ではない。私はタークスの男に生体学的な改造をほどこし、地下に眠らせた。もし興味があるなら探してみるがよい。ただし……これはあくまで私が気まぐれでおもいついたゲームにすぎない。むりにつきあってくれる必要はない。
金庫のダイヤルはしんちょうにかつ、すばやくまわす。20秒以内だ。少しでも行き過ぎてはいけない。4つのダイヤルのヒントは……

1 7の一番多い場所の8の下
2 7のない白と黒の裏
3 7の突端から北に7歩、西に7歩
4 7の頭をこの部屋で狩り、その成果を77に求めよ

『7』より」


「えっ…何これ!!?もしかして、暗号?しかも、全部7から始まってる…」
私はまず、辺りを見回した。すると、すぐに視界に金庫が飛び込んでくる。どうやらこの金庫を開ければいいらしい。ダイヤル式のその金庫は見るからに重厚そうだった。それなのに、ダイヤルの右についているナナホシテントウのマグネットが微笑ましい。ダイヤルの上部には、2桁のデジタル数字を表示する機械とボタン。つまり、規定の数までダイヤルを左右に回して数字をそろえ、ボタンを押す…という動作を複数回繰り返すことでロックを解除するものだ。きっと、この金庫の中に何かすごいものが入っているのね。そしてそのカギが、きっとこの4つの暗号文なんだ。それにしても…タークスの男?生体学的改造?なんか、すごく嫌な予感がする。まさか、本当にウェアウルフだのアストラル兵団だの言い出す気じゃ…。
それなのに、横から笑い声がする。もちろん、疾風の笑い声だ。
「ねえ、どうしたの、疾風!?」
「いや…『7』って意外とゲーマーなんだな、と思って」
私には意味が分からない。ゲーマー?ってことは、もしかして…。
「これ…ゲームの文章なの?」
「ああ、下のヒントだけ変えてあるけどね。だから美寛…不安そうな顔をしてたけど、生体学的改造を施されたタークスのガンマンが地下に眠っているなんて事はないからな。きっと金庫の中身も、地下室に通じる鍵とかじゃなくって、もっと実用的なものだろ」
疾風に、さっきの私の不安そうな顔を見られていたみたい。私はちょっぴり顔が赤くなった。もぅ…。よし、気を取り直して。
「じゃあヒントも、分かるの?」
そう言うと、疾風は少し首をかしげる。
「最初の3つはね…わかると思う。ただ、ゲームの中では4番目のヒントはあぶり出しで、そのまま出て来るんだ。それなのに、ここには別の文章が、しかも暗号の形で書かれている…」
「つまり、この1つだけは『7』のオリジナルって事ね?」
疾風は頷いた。
「よし、じゃあ早速教えてよ!」
いつの間にか自分で考える気をなくしている私。最近けっこう、こういう状況が多い気がするなぁ。
「ああ…とりあえず、分かりやすいのから考えよう。たぶん3番目だ」
「3番目…『7の突端から北に7歩、西に7歩』ね?」
「ああ。美寛…この城の地図ってないのかな?」
言われて私たちは、書斎の中を見渡す。続いて、少し机の中などを見てみる。すると、便箋が載っていた机の引き出しに城内の見取り図が入っていた。
「疾風、あったよ!」
私は机の上に地図を広げる。少し埃が舞った。
「この文章の7は、部屋か何かの形を表していると思う。どこかに、7の形をした部分がない?」
しばらく私たちは地図を見ていた。う〜んと、地図にある限りでは、この城は4階建てみたい。それに何だか、3階と4階の部屋の名前には、やたらと色がついている。もしかして、部屋自体がその色をテーマにしているのかな?「赤の間」とか、異人館ホテルの315号室みたいになっていそうだな…。もし「黄色の間」で事件が起こったら、まさしくガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』!…って、そうそう、7の形を探さないと。私は改めて地図に目をやる。しばらくして、疾風が何かに気付く。
「……あった、ここ!ほら、書斎の前の廊下の形」
言われて見ると、確かにそうだ。書斎の前の廊下は、ほぼ正方形の吹き抜け部分を囲うように伸びていて、南東の端から北側を回って西側の真ん中あたりで別の部屋へと続いている。これがきっと、この暗号のさす「7」だ。でも…。
「ねえ、疾風…突端から北に7歩はいいとして、西に7歩行ったら壁に突き当たるよ…」
「え?…美寛、突端は2箇所あるでしょ?普通に書くなら一画目の下側と、二画目の下側。ここで言う突端はきっと、二画目の下側の方だろ。つまりこの書斎の前の…南東の角から、だね」
そうか。それなら、7の二画目を逆順でたどる形になって…うん、歩数もちょうど良さそう。
私と疾風は廊下に出た。なるほど、言われて見れば7の形だ。今私たちがいるところがちょうど下方の突端のあたりになる。
「じゃあ、行くよ」
まず北に7歩。ここでちょうど、北東の角に着いた。そして、西に7歩…。
「え、ここ?」
「床とかに何か彫ってない?ゲームでは床にダイヤルの数字が彫られていた」
私と疾風は床を探す。でも、何もない。それはそうだよね、カーペットが敷かれているんだから…。私は一度立ち上がった。他に何か書けそうなところは……ある。壁だ!
「……疾風、あった!!ここの壁!」
かなり小さい文字だけど、確かに彫られている。そこには「L5」と書いてあった。
「きっと…LeftのLだろう。左側に5になるまで回せっていうこと」
「うん、あと3つだね!…次は?」
私がそう聞くと、疾風はいきなり、意外な事を言い始めた。
「どこかにピアノ、ない?」
「えっ…ピアノ?待って…一回、さっきの部屋で地図を見ようよ」
私たちは書斎に戻って、地図を見る。すると、1階の奥に音楽室があることが分かった。
「ねぇ、なんでピアノなの?」
1階の廊下を歩きながら、私は疾風に聞く。
「ん?…まあ、ゲームを知っているからこそのアドバンテージだよね」
疾風はそう言ったきりだった。あれ…後ろで誰かの話し声がしたのは、気のせいだったのかな?私がそんなことを考えているうちに、音楽室に着いた。そこは音楽室と呼べるのかな…一台の古びたピアノが置かれているだけの部屋。
「ねぇ、美寛?ためしに何か弾いてよ」
「ピアノなんて、しばらく弾いてないんだけどなぁ…うん、分かった」
私はピアノの椅子に腰を下ろす。そして少し深呼吸をしてから、ベートーベンの交響曲第7番…某マンガで有名になった曲だ…を弾き始めた。でも、弾き始めてすぐに異常に気付く。
「あれ…ちょっと待って、疾風…このピアノ、音が出ない…」
「シの音が出ないでしょ?それでいいの」
私は中途半端なところで弾くのをやめる。疾風はピアノに近づいてきた。
「今考えているのは2番目の暗号。『7のない白と黒の裏』だ。この暗号の7は…ドレミファソラシドの7番目、つまりシの音」
「なるほど…シの音がない、そして白と黒はピアノの白鍵と黒鍵ね」
「そう、だからこの裏に…」
疾風はピアノの裏側を覗き込む。
「えっと…あった、『L43』って書いてある」
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