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共犯者


第2話 探索
結局、祥一郎の朝ごはんはパンの上に目玉焼きを載せることにしてタクシーの中で食べることにした。サラダは祥一郎が着替えている間に知之が食べたのだった。
タクシーで20分程で、目的地の五十鈴町の住宅街に着いた。二人はタクシーを現場の近くで降りると、そこから少し歩いて現場にやって来た。現場まで直接タクシーに乗ってくると少し不審だからという祥一郎の助言からであった。
「あ、篁!マクラ!」
現場のマンションの前に二人が来た時、停まっている数台のパトカーの傍に羊谷 時哉が二人を待っていた。
「ったく…わざわざこんな時間に呼び出すこたぁねぇだろーが」目玉焼きを載せたパンを食べ終えた祥一郎が不快そうに時哉に言う。
「オヤジは篁にすっごく信頼よせてんのさ。それに、ちょっと現場にヘンなトコも多いしさ」
「ヘンなトコ、っスか?」
「ま、見て見りゃ大体わかるさ。こっち」時哉は二人を現場となった部屋に案内する。

現場となったマンションの一室には既に警官や鑑識の人が詰め掛け、事件の捜査をしているらしかった。
「あそこに死体があったんっスね」知之は窓の近くの床に引かれたチョークの白い線を指差して言った。
「ああ、そうや」祥一郎と知之を出迎えた烈馬が言う。「被害者は千尋の高校の先輩、本郷 依子サンや。日下(くさか)高校の3年生やな。あ、ちなみに千尋はショックが大きかったみたいやからつかさちゃんトコに連れてってもらったんや」
「ふーん…死因は?」祥一郎が言う。
「絞殺だ」時哉の父である羊谷刑事が言う。「細い紐のようなもので絞め殺されたようだ。死亡推定時刻は昨夜の0時頃」
「窓が割れたのは依子サンが死んだ後だった?」祥一郎が訊く。
「え?窓?」知之は改めて死体の跡近くにあった、半分くらい開いた窓を見た。窓の中央辺りには穴が開いていて、窓の下には硝子の破片が鏤(ちらば)っていた。「あ、ホントだ、窓割れてるっスね」
「気付かなかったさ…?(^^;)」呆れて言う時哉。「えっと、死体の近くに石ころがあったから、それで割られたみたいさ。ちなみに破片は死体の上にひとつも無かったから、恐らく依子サンが殺される前に窓が割られたらしいさ」
「なんでわざわざそんなことしたんやろな」と烈馬。
「さぁな…」祥一郎が言う。「でも、何らかの目的があったんだろ、こんな面倒くせぇことしなきゃいけねぇ理由がよ」
「それと、死体発見時ここのドアには鍵がかかってたさ」
「え?密室だったってコトっスか?」と麻倉。
「いや、窓の鍵はかかってへんかったから密室とは言えへんやろけど、外から見た時は電気がついてたのにいざここに来てみたら鍵がかかってたんや。そしたらたまたま管理人の五十嵐さんが掃除しに来て、合い鍵使って開けてくれたんや」
「依子さんが死んだ時の五十嵐さんのアリバイは?」
「五十嵐さんはその夜たまたま実家のある栃木に行ってたそうさ。その時合い鍵は外から鍵のかかった管理人室にあって、管理人室の鍵は五十嵐さんが自分で持ってたらしいさ。ちなみに依子サン自身の持ってた鍵とその合い鍵以外に合い鍵はないらしいさ」
「てことは、犯人の脱出経路は窓だけってことっスね」
「でもここ3階だぜ?わざわざ危険を犯して窓から出る必要はねぇんじゃねぇか?それにもしそうなら窓はこんな中途半端に開いてるんじゃなく、全開になってるか犯人の手によって閉められてると思うんだが…」
その時、現場の部屋の入り口に、知之たちの見覚えのある人物がやって来た。
「お師匠様、被害者のアドレス帳に連絡先の書いてあった知り合いの方を連れて参りました」
その場にいた全員が声のした方を振り向いた。
「あ、勝呂刑事」
「あっ、篁さん達もいたんですか」勝呂は深々とお辞儀をした。嘗(かつ)て、勝呂の担当した事件を知之たちが解決したことがあったのだ(「Sleepless Mystery」参照)。
「ああ、たまたま第一発見者が俺やったから」と矢吹。
「で?その知り合いの人って?」
「あ、この人たちです」勝呂は2人の男性を現場のドアの前に連れて来た。
「すみません皆さん、お名前とご職業、それと、本郷 依子さんとの関係をお聞かせ願いますか?」羊谷刑事が警察手帳を取り出して言う。
「あ、はい…」片方の男性が言う。Yシャツにブルージーンズという一見不釣合な服を着ていて、髪は黒くやや長めだった。「僕は伊達 一也って言います。一応、光陽生命の会社員やってます。依子さんとは彼を通じて知り合いました」伊達は隣にいる男性をさして言った。
「ああ、確かにそうです」その男性が言う。「俺は佐久間 哲朗。職業は、まぁフリーターってトコです」
「本郷さんとはどのような仲で?」
「依子とは昔付き合ってたんですよ」と佐久間。「きっかけはいわゆるナンパ。でも性格の不一致で半年位前に別れましたよ」
「それ以後は彼女に会ってないんですか?」
「ま、そうですけど」
「伊達さんは今も彼女とは会ってるんですか?」と祥一郎。
「え?まぁ、そうですけど…」高校生である祥一郎に尋ねられ若干不審に感じて居るらしい伊達。
「彼女、何か変わったこととかありませんでした?誰かに怨(うら)まれてるだとか」
「そうですね…」伊達は懐(ふところ)から煙草の箱を取り出し、その1本を口に咥(くわ)え紙マッチで其れに火を点けながら言った。「なんか最近依子さんストーカーに遭ってるって聞きましたけど…」
「それ本当ですか?」と羊谷刑事。
「ええ…。確か2ヶ月くらい前からだったと思いますけど…」
「てことはもしかしたら犯人はそのストーカーかもしれませんね…」勝呂が言う。
「それにしても、依子さんがまさか殺されてしまうなんて…」伊達が呟く。
「え?」と勝呂。「どうして伊達さん、依子さんが殺されたと知ってるんですか?」
「え…」元々の長さの3分の2くらいになった煙草を咥えたまま何か驚いたような表情の伊達。
「確かに、俺たちまだどうしてここに連れて来られたのか聞いてないんです」佐久間が言う。
「そ、それは…」伊達の表情がどんどん曇ってゆく。「た、たまたまさっきマンションの前にいた刑事さんたちがそう言ってたのを聞いたんですよ…ぼ、僕の父は医者ですから、専門用語も少しくらいは聞き慣れてるんです…」
「そうですか」どこか冷ややかに言う羊谷刑事。「伊達さん、昨夜の0時頃、あなたはどこにいましたか」
「昨夜の0時頃ですか…?そうですね…、多分家にいたと思います…」煙草の吸殻を足元に捨てる伊達。
「佐久間さんは?」
「俺も家にいましたよ。多分ぐっすり眠ってる頃です」佐久間は左手につけた腕時計を見ながら言った。「あ、俺そろそろバイトの時間なんで、もう帰ってもいいですか?」
「あ、僕も仕事抜けてきてるんでそろそろ…」伊達も言う。
「それじゃあ、連絡先だけ教えておいてください」

佐久間と伊達が帰った後、祥一郎はふと、本棚の片隅に置いてあったアルバムに気付いた。そして、それを取り出しテキトウにページをめくってみた。
「…ん?伊達さんは野球やってんだな」
「え?」知之たちは祥一郎の開いているアルバムを覗き込んだ。そこには、社会人野球の試合の風景と見られる写真が数枚あり、その中の1枚には伊達がピッチングをしている写真もあった。
「そう言えば光陽生命って言ったら社会人野球が割と強いトコさ」と時哉。「どうやら伊達サンはピッチャーみたいさね」
「ピッチャーか…てことはもしかして…」
祥一郎はそう言うと、窓のところへやって来た。そして、窓を開けその外に色々と目をやった。窓を囲む壁に、彼は何かの跡を数ヶ所見つけた。
「やっぱりな…てことは恐らくあそこには…」
祥一郎は部屋を飛び出し、階段を上っていった。

「ちょ、ちょっと、ここって屋上っスよ?!」
例によって祥一郎を追いかけて来た知之が言った。
「そりゃ3階建てのマンションの3階から階段上ってったら屋上だろうよ」祥一郎は煙たそうに言い捨てると、屋上のある地点にやって来た。
「そこに何かあるっスか?」知之は祥一郎のいる所にある手摺(てすり)から下を覗いてみた。「あれ?ここって、もしかして依子さんの部屋の真上っスか?」
「ああ」祥一郎は足元に視線を落とし、何かを探しているようだった。
「あれ?この手摺、傷がついてるっスね…」知之はその真新しい傷に触れようとした。
「あ、その傷には触れんなよ」祥一郎は知之を見ずに言った。「それ、証拠だからな」
「え?証拠?」
「ああ…」祥一郎はふと屈(かが)むと、何かを拾い上げた。「…どうやら、犯人は意外とあっさり見つけられそうだぜ」
「え?」

会社に戻った伊達は気が気でなかった。
いつ自分のしたことが発覚してしまうんだろう。
そう思うと、仕事も余り手がつかない。
と、その時、伊達の携帯電話が鳴った。
着信表示には、山科 環の名前。
「もしもし…」伊達は電話に出た。
「あ、もしもし、一也?あたし、環」
「前も言ったと思いますけど、仕事中は電話して来ないでください」
「あーら、そんなこと言っちゃっていいワケ?」
「え?」
「あたし見ちゃったのよね、あんた達のしたこと」
「…え…?」


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