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Brotherhood


File4 〜Secret Telephone〜
麻倉家の食卓(リビング)には、母・汐里が作ったハンバーグが並んでいた。
「おかえり、知之」汐里はリビングのすぐ横にあるキッチンから、3人分の皿とコップを持ってリビングに入ってきた。「もうご飯出来てるわよ」
「それじゃ僕、鞄置いてから手洗って来るっスね」知之はそう言って階段を上っていった。

知之は、2階にある自分の部屋に入った。
教科書やノートが数冊置いてある机。大した量が入っている訳でもないのに五段もある洋服箪笥(だんす)。兄と異なり寝相は悪くないため蒲団(ふとん)が理路整然と置かれているベッド。壁に貼られた人気女性グループのポスター。机の上に置き去られた携帯電話。割と片付かれている部屋はいつも通りである。しかし、知之にはその場景が非道(ひど)く空虚に思えた。彼にはどうしてその様な心持を懐(いだ)いたのかは分からなかった。
知之は鞄をベッドの上に置き、携帯にメールが届いているかどうかを一応見てみた。その時、知之の耳に幽かな声が飛び込んできた。
「あ、もしもし?オレ、篁」
(あれ?兄さん帰って来てたんっスね…)彼の意識の中に、自分の部屋の隣にある空き部屋だった部屋が、彼の兄の部屋になっていたことが再来したのはその刹那(とき)だった。知之は何とも無しにその幽かな声に耳を傾けた。
「え?ああ、叉それかよ……まぁオメーの気持ちがわかんねぇ訳じゃねぇけどな。麻倉とかよりオレの方がいいってのは確かだけど……わあったわあったって。じゃあ明日の放課後な……え?場所?そうだな、じゃあ"ライム"にすっか。……そうそう、学校のすぐ近くにあるトコ。……じゃあ、叉明日な」
声はそれで終わった。
("麻倉とかよりオレの方がいい"って…?ま、まさか、電話の相手はもしかしてつかささんだったんじゃ…?)
知之の脳裏にとんでもない想像が止め処(ど)なく浮かび始めた。
(もしそうだとしたら…まさかさっきの電話で待ち合わせでもしてたんじゃ…?それに"叉それかよ"って言ってたってことは、もう何度もそうやって会ってるってコト…?じゃ、じゃあ、まさか…!?)
知之が途方も無い結論に達したのは、リビングに戻ってくるのが遅いのを見かねて汐里が部屋に来た時であった。


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