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Brotherhood


File5 〜Long Night〜
その日の夜。知之は自室のベッドに横たわり蒲団を頭から被って眠りに就こうとしていた。しかし、彼の脳裏にはもう何時間も前から同じ想いが渦巻いていた。
嫉妬。他人が見たらそう思えるものかもしれない。しかし知之にとってそれは嫉妬とか言ったものではなかった。彼が16年生きて来て初めての種類の想い。そして、それを実の兄に脅(おびや)かされているかもしれぬという焦燥(あせり)。彼は今迄感じた事のない不思議な感情を持て余していたのであった。
「もし、本当につかささんと兄さんが付き合ってたら…」
知之は蒲団の中で呟いた。しかしそういった類(たぐい)の喩(たと)え話は何の意味もないと嫌う彼は、次の瞬間それを掻き消した。
「そっ、そんなワケ…!兄さんは恋とか愛とか語れるタイプじゃないっスっ…!」…むちゃくちゃ言いますな(^^;
その時、知之は電話の中で祥一郎が言っていた言葉を思い出した。
"じゃあ明日の放課後な……え?場所?そうだな、じゃあ"ライム"にすっか。……そうそう、学校のすぐ近くにあるトコ。"
「そうだ…」知之は湿気の多いこの梅雨の時期には不釣合いに彼の頭を覆っていた蒲団から抜け出し、上半身を起き上がらせた。「僕も明日の放課後"ライム"に行けばあの電話の相手が分かるんじゃ…」
"ライム"とは、秀文高校から徒歩で数分のところにある喫茶店である。最近同じくらいの距離の所に新しい喫茶店が出来た為最近では秀文の生徒は多くは訪れないが、祥一郎はその雰囲気を好んでいた。
「よしっ、明日僕も"ライム"に行くっス!!」
知之は決意を固めて横たわった。不思議にも、彼が眠りに堕ちたのはそれから間もなくだった。

次の日。知之達の1年B組では、数学の授業が行なわれていた。
「えーっと、この前の授業でやった2次関数の小テスト返すぞ」数学教師の吉田がいつも通りの威張った口調で言う。「20点満点で、15点以下は今日放課後補習だ。このクラスは優秀だ、えっと…、クラスで2人しか補習者はいない」
その瞬間、知之の後ろの席に座っている岩代が小さな声で「その内の一人ってゼッテー俺だ…」と呟いたのを知之は聞き逃さなかった。元来数学は得意な知之は、この小テストで落ちてる筈がないと高を括っていた。が…
「その2人は、出席番号1番麻倉、2番岩代だ」
「…え?」


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