inserted by FC2 system

クリスマス・パニック?!

第3話 絡み合う矛盾
「なるほど…つまり、3人とも亡くなった寺田さんと同じ会社にお勤めで、寺田さんと面識があった、ということですね」
「は、はい…」3人の中で一番若い男が言う。「ぼ、僕は真紀さんの後輩の原口といいます…」
「私は緒方 稔、2ヶ月前まで彼女の上司だったんだ」口髭を生やした男が言う。
「2ヶ月前まで…?」と柏木。
「10月に辞表が出て、別の課に異動することになってね」
「そうですか…で、あなたは?」もう一人の、眼鏡をかけた背の高い男性に尋ねる。
「俺は荻久保。真紀とは別の課だったけど、半年前まで付き合ってたぜ」
「半年前まで?今はどうなんですか?」と祥一郎。
「アイツから振ってきたのに、何かあるワケねぇだろ…って、先刻(さっき)から気になってたんだが、お前は何なんだ?」
「私も気になっていたんだ」緒方が言う。「まるで刑事みたいに偉そうな口を利いて私達を此処まで連れてきたが…」
「あ、実はこの篁さんはですね、今まで何百何千もの難解な事件を解決してきたことがあるんですよ」と勝呂。
「何百何千って…」呆れ顔の祥一郎。「せいぜい10ちょっとだろーが」
「へー、そんなにスゴイ子だったの」と柏木。
「あれ?知らなかったですか、柏木さん」
「ええ、私は殆ど会ったことないし…今日だって羊谷さんが息子さんつれて田舎に帰ってるから此処に狩り出されたんだし」
「あ、時哉クン里帰りしてるんだ…」とつかさ。
「まぁ兎に角、3人がトイレでどの部屋に居たのか、どの順番で入ったのかを確認してみましょうか」

男子トイレは、個室が3つある質素で小奇麗なモノであった。トイレの見取り図
「まず、あなた方はどの個室に居たんですか?」と勝呂。
「俺は一番手前の個室だよ」と荻久保。「確かその時、隣の個室は閉まってたと思うぜ」
「私はその2番目の個室に居たがね」緒方が言う。「私が来た時は、他の個室はどちらも空いていた様に思うが」
「ぼ、僕は一番奥の個室に居ました…」原口がハンカチで汗を拭いながら言う。「た、確か、い、一番手前の個室は空いてたと思います…」
「な、何んだか話が噛み合わないわね…」と柏木。「それじゃあ、犯人らしき人物が駆け込んで来た時、足音は何処で途絶えたか覚えていますか?」
「確か、俺んトコは通り過ぎていったけどな」荻久保が言う。
「私もそう記憶しているよ」と緒方。
「え?ぼ、僕には、僕の所より前で止まったように聞こえましたけど…」原口が言う。
「何を言ってるんだね君は」緒方が言う。「まさか疑われたくないから嘘を言っているんじゃないのか?」
「そ、そんな、ぼ、僕は…」
「とか言って、本当はアンタが嘘ついてるんじゃねぇの?」と荻久保。
「な、何を失敬な」
「まぁまぁ、落ち着いてください…」勝呂が制する。
「勝呂刑事」刑事の1人が言う。「洗面所の下から、コートや帽子が見つかりました」
「え?」と勝呂。「篁さん、犯人が身につけていたモノに間違いないですか?」
「うーん…」と祥一郎。「ああ、確かにこんなだったな…つまり、犯人は此処に変装道具を脱ぎ捨ててから隠れたってコトだな」
「で、でも…」とつかさ。「何でそんなとこに脱ぎ捨てたの?早く逃げたかった筈なのに」
「バーロ、追われてる状況でそんな証拠を持ったまま隠れちまったら、見つかった時に即アウトじゃねぇか。トイレに入る人間なら全員通るところに隠しておけば、それが自分のモノだとバレる確率は低くなるしな」祥一郎は3人の方に向かって言う。「ところで、皆さんの服のサイズってどれくらいですか?」
「え?」と原口。「ぼ、僕はSですけど…」
「俺はLだぜ」と荻久保。
「私はMだが…」緒方が言う。「それがどうかしたのかね?」
「勝呂サン、そのコートのサイズは?」
「え?えーっと…」勝呂がコートを見て言う。「あ…Mですね」
「なるほど、つまりMサイズのこのおっさんが犯人ってコトか」と荻久保。
「ちっ、違う、私じゃない!」怒りを露(あら)わにする緒方。
「あれ?」と知之。「もしかして、3人って知り合いじゃなかったんっスか?」
「え?」荻久保が言う。「ああ、このおっさんも、真紀の後輩だっつってたコイツも、俺は初対面だ」
「ぼ、僕もです…」と原口。
「私もだ、こんな失敬な男は初めてだ」緒方が言う。
「おいおっさん、その"失敬な男"ってのはまさか俺のコトか?」と荻久保。
「他に誰が居ると言うんだ?」
「あんだとぉ?」
「ま、まぁ二人とも…」と勝呂。

「…どう、祥一郎?」
そんな中、汐里が祥一郎に囁く。
「どうって、何がだよ」呆れ顔で言う祥一郎。
「何がって、事件の真相に決まってるじゃない。もしかしたらもう分かってたりするんじゃないの?」
「…まぁ、目星はついてるがな」
「嘘?!」驚く汐里。「冗談で言ったのに」
「ただ、物的証拠がねぇからなぁ…証言からだけじゃ何とも…」手を口許に宛てる祥一郎。
「あ、手の甲にケガしてるよ」
「え?」つかさの言葉に自分の手を見る祥一郎。手の甲に小さな擦り傷があった。「あ、ホントだ…」
「ちょっと待って、絆創膏(ばんそうこう)あったと思うから」つかさは自分の鞄を探ると、絆創膏を取り出し祥一郎に手渡す。「はい」
「あ、ああ、悪ぃな…」祥一郎はそれを受け取ろうとしてつかさの指先を見た。「…待てよ?」
「え?」祥一郎は勝呂の元に向かう。
「勝呂サン、遺体の写真見せてくれねぇか?」
「遺体の写真、ですか…?」勝呂は警察手帳をめくりながら言う。「あ、此是(これ)ですけど…」
祥一郎はその写真の中の指先を見た。指先が水色なのに、右手中指だけは普通の肌色だった。
「…矢っ張りな」
「え?」
「"此是"が未だ見つかってねぇんなら、あのヒトは未だ気づかずに此是を持ってるかも知れねぇな」

「11時10分…」
知之は腕時計を見ながら呟いた。
「…間に合うかなぁ」
最初に戻る前を読む続きを読む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
おまけ
事件篇という感じですね。推理するヒトはこの章がほぼ凡てと思っていいかと思います(爆)。
知之は時計を見て何を思っているのか、それは次の章をお楽しみに。

inserted by FC2 system